装束付舞囃子《屋島》・狂言《清水》からのつづき
京町家の甍を波に見立て、灯台をイメージした京都タワー(山田守設計) |
能《賀茂》シテ 片山九郎右衛門
前ツレ 大江広祐 後ツレ 橋本忠樹
ワキ 宝生欣哉 アイ 鈴木実
杉信太朗 飯田清一 河村大 前川光範
後見 青木道喜 分林道治 大江信行
地謡 古橋正邦 河村博重 味方玄 片山伸吾 橋本光史 田茂井廣道
橋掛りのない薪能の舞台 |
九郎右衛門さんの《賀茂》は、昨年、国立能楽堂定例公演で拝見した。
あのときは「素働」の小書付きだったから、早笛がどっしりした重みのある位になり、舞働もイロエに変化、面も大飛出ではなく、怒天神が用いられ、稲妻型にジグザグに切った金紙が赤頭から垂らされていた。
今回は小書なしの《賀茂》。
時間の制約からカット版だったこともあり、夜空に走る稲妻を思わせるスピード感あふれた舞台となった。
ここ数日、ちょっと体調不良だったわたしも、観ているうちにどんどん回復して、観能後は気分スッキリ、完全復活。たぶん、脳内では快楽物質のドーパミンとエンドルフィンが大量分泌されていたと思う。
【前場】
ワキの次第・名乗リ・道行がカットされ、宝生欣哉さんが音もなく登場。脇座で床几に掛かる。
また、上歌以降も大幅にカット。
正先に据えられた白羽の矢の故事も語られないまま、ロンギへと大きくジャンプする。
シテ・ツレの登場で初めて囃子が入り、橋掛りがないため、二人は舞台上で向き合って連吟。
御手洗川の流れをあらわすべく、ブルーの照明が多用された舞台はアクアマリンに染まり、能楽堂とが違う、きらびやかなショーのような雰囲気だ。
幸い、聴かせどころとなる川づくしの謡はカットされず、「賀茂の川瀬の水上はいかなる所なるらん」から始まり、貴船からから大堰川、清滝川、音羽の滝浪とづつく、いかにも京都らしい風情のある謡を堪能できた。
ここのシテと地謡の掛け合いには清流の響きがあり、「神の御こころ汲もうよ」で下居して、合掌するシテの所作が水際立って美しい。
観ているこちらも、冷たい御手洗川に素足を浸して禊をしているような、心身が洗い清められる気分になる。
ここで、「御身はいかなる人やらん」と、欣哉さんがはじめて口を開き、シテ・ツレは正体をほのめかして、来序で中入となる。
中入前に、シテはくるくるっと二回まわって、右腕を前に突き出すのだが、この腕を突き出すときに、遠心力の惰性をまったく感じさせず、みごとにピタッと止まるところ、こういう所作の細部のほんのわずかの違いが、舞台の印象を大きく左右する。
物理的法則にとらわれない芸の美しさ。
そして、その美を支える筋肉のしなやかさ。
【後場】
後場から、囃子が本領発揮。
この日は、杉信太朗さんの笛が素敵だった。
飯田清一さんの小鼓も久しぶりに聴くけれど、この方、好不調の波がなく、つねに高水準の演奏で安定感がある。
橋本忠樹さんの天女ノ舞には、聖母の後光ような優しい光が漂う。
以前、忠樹さんの《胡蝶》の舞を拝見したときも思ったけれど、この方の長絹物の舞は品のいい愛らしさが魅力だ。
天女ノ舞から一転、前川光範さんとスギシンさんの太鼓と笛が冴えるエキサイティングな早笛となり、観客もノリにノッテきたところで、幕がパッと勢いよく揚がり、電光石火の早業で後シテが登場!
この登場がなんともカッコいい。
別雷神は横長の舞台を縦横無尽に使って、血沸き肉躍る舞働を舞う。
この日もシテは驚異的な空間感覚を見せ、ちょうどロックミュージシャンがステージのギリギリまで出てオーディエンスを沸かせるように、迫力とスピード感に満ちた舞を舞いながら舞台の端ギリギリまで迫ってくる。
面をつけた状態で、慣れない横長の仮設舞台の空間を、いったいどうやって瞬時に把握するのだろう? 目付柱の代わりと思われる竹の木(?)も、ふだんとは違う場所に立っているのに。
終曲部でシテとワキが向き合うところがあり、ここでグッと物語に奥行きと広がりが出る。上演でカットされた室明神(室津賀茂明神)とのつながりを肌で感じられるのも、九郎右衛門さんと欣哉さんが交わす視線と、それが生み出す一瞬の一体感があるからこそ。
この御二人でなければ、こういう表現はできないし、ワキが欣哉さんでなければ成り立たない。
観客を存分に沸かせたシテは、弊を後ろに捨て(弊は河村大さんの腕に直撃!)、橋掛りがないので舞台で留。
追記:これを書いている現在は、台風一過。
台風21号、ほんとに凄かった。
亡くなられた方も多かったし、京都の寺社も被害にあい、この京都駅ビルでも天井のガラスが落下。三人の方が怪我をされた。
わたしのところも現在は復旧したものの、一時は停電&断水となり、救急車のサイレンが絶えなかった。こちらに来て以来、災害続きで、さすがに災害疲れ。
初めまして、kim(日本人です)と申します。ひょんなことからこちらのブログにたどり着き、二条良基が若き世阿弥に一目惚れしたが如く、こちらの虜になっております。もうブログ名からして素晴らしい。お能は詳しくなくてお書きになっていることは私にはレベル高すぎなんですが、いつも楽しませていただいております。
返信削除私は金剛流と裏千家のお稽古をしているおばはんですが、京都出身で今は東京在住です。チケットがあるので9月29日(土)のお能にご招待したいと思うのですが、現在は京都にお住まいのようなのでご無理でしょうか。こちらにはメールアドレスがないのでこんなコメント欄から失礼と思いましたが、勇気を出して投稿してみました。