東京らしい能楽堂として真っ先に思い浮かぶのが、ここ、青山の能楽堂。
スタイリッシュな通りになじむ、コンクリート打ち放しの建物。
1983年竣工。
80年代の香りと、進取の精神に富むエネルギーが感じられる能楽堂です。
現代感覚に和のテイストがほどよく組み込まれて、おしゃれで素敵。
昼間はこんな感じ |
エントランスの靴箱 |
見所は2階 |
狭小空間をうまく活用して建てられているのも現代的。
2階からの眺め |
見所入口の踊り場には、ウォーターサーバーも完備。
壁には(たぶん観世寿夫の?)《井筒》のスチールパネルも。
銕仙会能楽「研修所」の名の通り、観客の前で上演する能舞台でありつつ、稽古能などで研鑽を積む場であり、また、さまざまな実験的(前衛的)試みが行われてきた場でもあります。
四月からは、清水寛二師が主催する「青山実験工房」も始まるとのこと。
つねに、何か新しいものが生み出されてゆく。
そんなアトリエ的な能舞台なのです。
銕仙会の舞台も、関東大震災や空襲などで幾度も焼失してきました。
現在の能舞台そのものは、昭和30年に落成したものでしょうか?
だとすると、観世寿夫もこの鏡板の前で舞っていたことになります。
そのほか、多くの一流の能楽師たちがここの稽古能で叱られながら、鍛えられてきたことをよく耳にします。
(故・観世元伯さんも八世銕之亟に罵倒されたことをインタビューで語っていらっしゃいました。)
能舞台にはそれぞれの歴史と物語があり、能舞台が役者を育て、役者が能舞台の風合いを育てる、その相乗効果をこの能楽堂でも強く感じます。
残念ながら、わたし自身はこの能楽堂へは数えるほどしか訪れていませんが、いちばん印象に残っているのが「広忠の会」で観た《定家》。
お囃子はもとより、味方玄さんのシテ、宝生欣哉さんのワキ、そして片山九郎右衛門さん地頭の地謡もこのうえなく素晴らしく、師走の夜の静けさとともに、舞台の余韻が心にしみいるようでした。
この場所でしか生まれない、見所と舞台との無言の一体感に耽溺したのを思い出します。
それから、《砧》で観た宝生閑師の芦屋の某も忘れがたい。
ここの橋掛りは短いのですが、ワキの姿とハコビを、光が乱反射したようにひときわ美しく見せる不思議な効果があるように感じます。