お土産にいただいた特製チケットホルダーとクリアファイル そして夢ねこを直撃した土蜘蛛の糸 |
この日の乱能では、舞台上の出演者が見所に向かってお菓子(飴?)を
何度も投げてくださっていました。
主催者の中森貫太さんと奥様が夜なべをして袋詰めした愛のキャンディ。
幸せのおすそわけなのだそうです。
ただ、どなたが投げても幸せのおすそわけは、頭上を過ぎてゆくばかり……。
代わりに直撃したのが土蜘蛛の糸 (_ _。)
聞くところによると、土蜘蛛の糸は縁起物で金運のお守りだとか。
そんなわけで、ちゃっかりもらって帰ってきました。
能 《安宅》
シテ弁慶 飯田清一 ワキ富樫 野村又三郎
アイ強力 奥川恒治 アイ従者 幸正昭
同山 柿原光博 小野寺竜一 杉信太朗 鳥山直也
大倉慶乃助 大倉栄太郎 田邊恭資
義経 久田陽春子
笛 馬野正基 小鼓 河村晴久 大鼓 河村晴道
地謡 内藤連 野口隆行 奥津健太郎 大野誠
ここでも配役の妙が随所に効いていました。
飯田清一さんの弁慶、はまり役!
恰幅も良く、バリトンのオペラ歌手のような豊かな声量。
そして品のある物腰と、巧みな間の取り方。
知らない人が見たら、普通にシテ方が弁慶を演じていると思えるほど。
そして、野村又三郎さんの富樫。
終始、宝生閑調のセリフまわしで見所は大ウケ。
面白かったー!
(考えてみるとワキ方でいちばん特徴的なのが宝生閑師だから物真似しやすいのかも。
欣哉さんの真似をしても、宝生閑と思われるだろうし。)
それから、強力役の奥川恒治さん。
万作先生直伝の狂言式すり足が御見事!
普通のシテ方の摺り足と比べると、体重が半減したように思えるほどの軽快さ。
(家に帰って少しやってみたけれど、間狂言式の摺り足って難しい。)
久田陽春子さんの義経も可愛かった。
森常好師がデジカメ持参で後見座に坐り、入場してくる出演者を次々パチリ。
《土蜘蛛》の地謡の時もパチパチ撮っていらっしゃって
もはや能楽界の林家ペー師?
同山役はお囃子軍団。
杉信太郎さんが御自身のブログに「1人のセリフがあるのでどれだけ印象に残れるか」
みたいなことをおっしゃっていたのですが、
「ただ打ち破って御通りあれかし」の箇所だったのですね。
このとき信太郎さんはズンズン前進して、飯田弁慶に迫っていくのですが、
アドリブだったのかな。
信太郎さんのやんちゃキャラが発揮された一幕でした(笑)。
ひそかに注目していた田邊恭資さんの同山。
小鼓打つ時と同様に、まばたきゼロの目をしていて、緊張されてたのかな。
(《土蜘蛛》の地謡の時には、ふつうの好青年の顔に戻られていました。)
能 《鉄輪》
シテ女・生霊 善竹十郎 ワキ安倍晴明 久田舜一郎
ワキツレ男 白坂信行 アイ社人 古賀裕己
笛 永島充 小鼓 小島英明 大鼓 坂真太郎 太鼓 柴田稔
地謡 林雄一郎 小寺真佐人 梶谷英樹
鵜澤洋太郎 一噌庸二 柿原弘和シテ女・生霊 善竹十郎 ワキ安倍晴明 久田舜一郎
ワキツレ男 白坂信行 アイ社人 古賀裕己
笛 永島充 小鼓 小島英明 大鼓 坂真太郎 太鼓 柴田稔
地謡 林雄一郎 小寺真佐人 梶谷英樹
善竹十郎さん、板に付いてる。
特に後場の生成をかけた生霊がよかった。
小島英明さんと坂真太郎さんの大小鼓がうまい(とくに小島さんの掛け声)!
柴田稔師の太鼓の後見に元伯さんがついていらしゃって、
ツクツクと御指導されていました(なんとなく社中会みたい)。
ついでに絶句した立方に台詞をつけたりも。
狂言 《蝸牛》
山伏 馬野正基 太郎冠者 谷本健吾 主人 駒瀬直也
後見 遠藤喜久
山伏 馬野正基 太郎冠者 谷本健吾 主人 駒瀬直也
後見 遠藤喜久
まさに抱腹絶倒。
馬野&谷本の銕仙会コンビ、面白すぎ!
谷本さんが詞章を覚える時間がなかったらしく
(馬野さんも谷本さんもあちこちで引っ張りダコだから仕方がないのだろうけど)
最初は後見の遠藤さんに台詞をつけてもらっていたのですが、
しまいには懐からアンチョコを取り出して読みあげる始末。
それでも、狂言調の節廻しになっているのはさすがです。
馬野さんの「覚えてこいよ。まったく谷本は愚鈍な奴だ」という言葉に見所大爆笑。
谷本さん自身も笑いが止まらず。
「でんでんむしむし、でんでんむーしむしぃー」と囃している時も
馬野さんが流れ足などの能の型を詰め込んだハードなアクションで見所を沸かせ、
さらに「早く止めてくれ~」と言っては観客を笑わせていました。
アドリブでこれだけ笑いをとるなんてすごい才能。
能 《土蜘蛛》
前シテ僧 大藏千太郎 後シテ土蜘蛛 大藏教義 頼光 大藏基誠
胡蝶 大山容子 来航の従者 飯冨孔明
独武者 善竹富太郎 従者 善竹大二郎 川野誠一
独武者の下人 徳田宗久
笛 中村修一 小鼓 八田達弥 大鼓 清水義也 太鼓 田茂井廣道
地謡 小野寺竜一 大倉慶乃助 田邊恭資
少し休憩をとって座席に戻ると、すでに胡蝶は消えていて、
僧形の者が頼光に糸を投げているところでした。
なので前シテの大藏千太郎さんはすぐに中入。
徳田宗久さんの間狂言になったのですが、これがとてもユニーク。
「えーと、立っていると台詞が出てこないので、坐らせてもらいます」と言って、
いきなり坐り出す徳田さん。
頭から絞り出すように吐き出す棒読みの台詞。
ところどころに現代語訳の意訳を織り混ぜて、どうにか間狂言を終え、
ほっと息をつく徳田さんを見て、面白く可愛らしいキャラだなと。
(御自身のブログによると)八田達弥師は小鼓退お稽古を年間続けられたそうで、
気合が入っていてお上手でした。
大鼓の清水さんも太鼓だけでなくこちらもかなりの腕前。
金春流太鼓をされていた田茂井さんもうまいですね。
ほとんどの方がある程度のレベルまで到達していらっしゃるのがすごい。
土蜘蛛の地謡も良かったです。
後シテの大藏教義さん。
「本日の主役」を書かれたステッカー(垂れ幕?)が張られた塚から登場。
糸玉は貴重なので、おそらく投げるのはぶっつけ本番だったと思うのですが、
どれもきれいな放物線を描いて見事でした。
見所にも糸が投げられたのは前述の通り。
独武者との舞働というか、取っ組み合いも面白かった。
半能 《高砂 祝言之式 八段之舞》
シテ住吉明神 観世元伯 ワキ阿蘇宮神主 吉谷潔 ワキツレ 梶谷英樹 月崎晴夫
笛 中森貫太 小鼓 谷本健吾 大鼓 味方團 太鼓 中森健之介
地謡 林雄一郎 藤田貴寛 杉信太郎
大倉栄太郎 亀井広忠 小寺真佐人 鵜沢洋太郎(飛び入り参加?)
揚幕がパッと上がり、住吉明神が鏡の間の奥から颯爽と登場。
幕離れの大切さを痛感している太鼓方ならではの潔い登場の仕方でした。
透冠に袷狩衣、半切、邯鄲男の男神出立がとても似合う。
謡はもう少し通るかと思っていたのですが、やはり面をかけて謡うのは難しいのですね。
でも、空間感覚は抜群。
橋掛りでの演技はもちろん、
本舞台でも三間四方の空間を存分に生かした神舞はさすがでした。
大小前ぎりぎりまでヒラキ、八段之舞独特の緩急を自在に使い分けながら、
目付柱目指して真っすぐに進んでいく。
翻した両袖を上げて舞う姿もキマッてました。
たぶん、稽古面をつけて(ご自宅の?)能舞台でお稽古されたのではないでしょうか。
とはいえ稽古の時間が一体どこにあったのかと思うほど、超多忙な元伯さん。
まさにスーパーマンだ……。
お囃子は、
かんた先生はお笛もうまいのですね。
味方團さん(先日NHKFMで聴いた《熊野》のワキがきれいでした)は
独特の掛け声だけれど、聞き慣れてくるとそれはそれで味わいがあり、
谷本さんの小鼓との呼吸も合っていました。
中森健之介さんの太鼓は最初はちょっとエンジンがかかっていない感がありましたが、
八段之舞の神舞になると、オイルを差したようにノッてきて、
お囃子全体が盛り上がっていました。
囃子方で固めた広忠さん地頭の地謡はもう最高!
鵜澤洋太郎さんと女流の方が飛び入りされて8人編成になり、すっごい迫力でした。
「今を始めの旅衣」の地謡とか超低音で謡いにくいと思うのですが、きれいな謡。
とくに林雄一郎さんは師匠を盛り立てようと全身全霊で謡い上げているのが伝わってくる。
囃子方の人たちってなんていうか、あたたかい連帯感があります。
最後は静寂のなか、住吉明神が扇を閉じてシテ柱に向き直り、
橋掛りを静かに帰っていく。
演者の一体感を覚えさせる素晴らしい舞台で、感動して涙が出てきました。
こういう真剣な乱能もいいものです。
というわけで、長かったけど夢うつつのうちに終わってしまった乱能。
出演者の方々に今まで以上に親しみが持てて、
もっと、もっと、お舞台を拝見したいと思いました。
採算度外視の公演を企画運営された鎌倉能舞台の皆さん。
出演者の方々。
楽しい時間をありがとうございました!