片山九郎右衛門《邯鄲》からのつづき
京都府庁旧本館 |
義経 片山伸吾 静 味方慧
江田源三 分林道治 熊井太郎 大江広祐
姉和光景 大江信行
立衆 橋本忠樹 宮本茂樹 河村和貴
河村和晃 河村浩太郎
武蔵坊弁慶 宝生欣也
下女(くノ一?)松本薫
杉信太朗 吉阪一郎 河村大 前川光範
後見 片山九郎右衛門 味方團
ワキ後見 殿田謙吉 平木豊男
地謡 橋本礒道 橘保向 武田邦弘
青木道喜 古橋正邦 河村博重
田茂井廣道 清沢一政
さて、この日は番組自体が豪華なうえに、京都観世会の看板役者2人がシテを勤めるという「日頃のご愛顧に感謝して出血大サービス!」的なデラックス版。
早々に売り止めになったため超満員が予想され、いつもよりかなり早めの開場40分前に到着のに、すでにビックリするほどの人、人、人!
これまで見たことないような長蛇の列に「今日は立ち見かなあ……クスン」と覚悟していたら、意外にもいつもの見やすい席を確保できました(o^―^o)ニコ。
東京圏からの遠征組も多かったようだし、今年は観世会例会もいつもの年より客の入りが多かったそうだから、盛り上がってますね、京都のお能は。
《正尊 起請文・翔入》
味方玄さんの正尊に、準主役の弁慶役が宝生欣哉さん。立衆が大勢出て、今年最後の観能にふさわしい華やかでにぎやかな舞台でした。
いちばんの見どころは、なんといっても起請文の場面。
シテの玄さんが「お~~じょぉ~~(王城)の鎮守」とか「驚かしたてまつぅ~るぅ~~」など、独特の節回しで読み上げる。お腹の奥底でメラメラと紅蓮の炎が燃えたぎっているような、気迫と熱気が感じられる。
味方玄さんの直面は、顔の皮膚から肉体の生々しさが消え去り、素顔そのものが無機質な能面に変化している。じっと目を凝らして見ていても、シテはまったく瞬きをしない。角膜が乾燥しないのだろうか?
役に完全に没入し、生理現象を超越した高い集中力が見てとれる。坐禅やヨガなどで瞑想が深まると脳内でシータ波が出るというけれど、もしかすると味方玄さんの脳波もそんな状態かもしれない。
斬り組の場面では、若手と中堅が大活躍!
飛び安座や仏倒れで、立衆たちがバッタバッタと斬られていく。なかには、本舞台と橋掛りでチャンバラ劇が同時に展開し、敵役2人が同時に斬られる「ダブル仏倒れ」という贅沢な演出も!
とくに欣哉さんの弁慶と、大江信行さんの姉和との一騎討は見応えがあった。どちらかというと欣哉さんが牛若丸で、大江さんが弁慶、もしくはダビデとゴリアテの戦いのように見えなくもない。
一の松で欄干から身を乗り出し、弁慶をグイッとにらみつける大江信行さんの鬼気迫る存在感は、主役の2人を凌駕するほどだった。来年も注目したい役者さんだ。
最後は捕縛された正尊が揚幕の奥に連れ去られ、ツレの義経(片山伸吾さん)が常座で留拍子。
片山一門の殺陣といえば、昔、NHKで一場面だけ再放送された《夜討曽我・十番斬》で、片山九郎右衛門さんと味方玄さんの斬組があったのを思い出す。九郎右衛門さん(当時片山清司さん)に斬られた玄さんの仏倒れが、超新星のようにピカッと光り輝いていた。今でもあれ以上の仏倒れは観たことがない。
あのとき彼は、恐怖心を完全に抹殺した「能の鬼」と化し、まさに立像が倒れるがごとく、直立のままバッタリと一直線に倒れてたのだった。そして、あのときも目をぐっと大きく見開いたまま、倒れきった後までまったく瞬きをしなかった。
この2人の御舞台を堪能できて、幸せな一年の締めくくりでした。
どうぞ皆さまも、良き新年をお迎えくださいませ。