2020年「京の冬の旅」ポスター |
九郎右衛門さんが背にしているのは、この冬特別公開される泉涌寺塔頭・新善光寺の襖絵《鞨鼓楼図》。狩野周信筆のこの障壁画は、音楽をたのしむ玄宗皇帝と楊貴妃を描いたものです。
泉涌寺には有名な楊貴妃観音が安置されていることもあり、「京の冬の旅」のポスターにも、九郎右衛門さんが能《楊貴妃》を舞った時のものらしき写真が添えられています。
こうした「楊貴妃づくし」の演出とともにJRが打ち出したキャッチコピーが「The Graceful Days in Kyoto」。
みやびで優雅な京の冬の旅は、九郎右衛門さんの所作や舞姿の雰囲気とオーヴァーラップします。
今月のJR西日本のおでかけ情報紙『西Navi』には「能楽師が愛してやまない雪景色と京都・冬の色」と題して、九郎右衛門さんが五感で感じた冬の京都の魅力が紹介されています。
たとえば、空気の澄んだ冬ならではの大鼓や太鼓の美しい高音、能の雪景色の場面での透明感のある声の出し方、日吉大社の「一人翁」のこと、うっすら雪が積もった祇園町をぼんぼりの明かりに照らされながら着物姿の女性の歩く風情など、京の厳しい冬の空気感や京の暮らしに根ざした情景が伝わってきます。
なかでも印象に残ったのが、褪色した装束の醍醐味。
「あと一回使ったらだめになるんじゃないかというくらいの状態が、とてもきれいなんですよ」と、九郎右衛門さんは言います。
昔の天然染料で染め上げられた藍色の装束は、褪色すると色が薄くなるのではなく、緑みを帯び「頬ずりしたくなるようなきれいな色」になるのだとか。
インタビューの最後に、九郎右衛門さんがお薦めする「冬ならではの京都の色」についてこんなふうにおっしゃっています。
「早朝の、ほとりに雪の積もった鴨川の美しさは格別。朝日が射し込むと、雪に囲まれた水面が反射していろんな色に見えるんです。雪に喧騒は似合いません。雪の舞い始め、辺りがしんしんと静けさを増す頃に出かけてみれば、冬の京都の別の顔に出合えるかもしれませんよ。」
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近年は暖冬つづきで、東山魁夷の《年暮る》のような、雪の積もった京都にはなかなかお目にかかれませんが、わたくし(夢ねこ)が思う京都の冬の魅力は、学生時代に訪れた冷泉家の凍てつく寒さ。
サッシ窓もなく、暖房もない、底冷えする生粋の京の寒さ。重要文化財に指定された最古の公家住宅で暮らすことの意味を、身をもって体験した京の冬でした。
最近は自分の時間が持てず、趣味の外出もままならない状態ですが、この冬、ひさしぶりに泉涌寺を訪れてみたくなりました。
冬らしくない冬だからこそ、つかのまの京の冬の魅力を味わいたいものです。