2019年9月25日水曜日

京都観世会九月例会~《錦木》

2019年9月22日(日)京都観世会館
速水御舟《錦木》

能《錦木》浅井通昭
 ツレ女 橋本忠樹 里人 山口耕道
 旅僧 福王知登 喜多雅人 中村宜成
 左鴻泰弘 林大和 山本哲也 井上敬介
 後見 井上裕久 橋本光史
 地謡  吉浪壽晃 味方玄 浦部幸裕
         浦田保親 林宗一郎 深野貴彦
         梅田嘉宏 樹下千慧

狂言《舎弟》茂山千之丞
 茂山逸平 丸石やすし

能《三井寺・無俳之伝》片山九郎右衛門
 子方 梅田晃煕 アイ茂山忠三郎
 宝生欣哉 平木豊男 宝生尚哉
 杉市和 飯田清一 河村大
 後見 大江又三郎 青木道喜
 地謡 浅井文義 河村和重 河村晴道
  分林道治 大江信行 宮本茂樹
      河村和貴 大江広祐

仕舞《道明寺》浦田保親
  《松風》河村晴久
  《松虫キリ》鷲尾世志子
  《善界》浦部幸裕

能《天鼓・弄鼓之舞》浦田保浩
 ワキ福王和幸 アイ茂山千五郎
 森田保美 久田舜一郎 谷口正壽 前川光範
 後見 杉浦豊彦 深野新次郎
 地謡 河村晴久 河村博重 片山伸吾
        味方團 吉田篤史 松野浩行
    大江泰正 河村和晃



台風接近中の3連休の中日、祇園饅頭で栗赤飯と栗もち(観能のお供♡)を求めてから観世会館へ。
この日のひそかなお目当ては、山本哲也VS河村大VS谷口正壽という、当代関西を代表する大鼓方さんの聴き比べ。いずれ劣らぬ脂の乗った実力派。大鼓がこんなに好きになったのも、この3人の大鼓方さんのおかげです。


能《錦木》
《錦木》と聞いて真っ先に思い浮かぶのが、2年前に拝見した梅若紀彰さんの《錦木・替之型》。これは国立能楽堂企画公演「近代絵画と能」シリーズの舞台で、速水御舟の《錦木》をテーマにしていた。紀彰さん扮する《錦木》の男は御舟の絵から抜け出たような、一途に恋する青年だった。

求愛を再現する場面では、家のなかで細布を織る女と、家の外で錦木を立ける男とが、たがいの気配を感じながら相手を意識している。きっと、女の気持ちをそれとなく感じられたからこそ、男は3年間も錦木を立てつづけたのだろう……そう思えた《錦木》だった。


浅井通昭さんの舞台を拝見するのは初めてだったが、この日の《錦木》は京都観世らしさが前面に押し出されていて、ここでしか味わえない《錦木》だと思った。

京都観世の醍醐味は、なんといっても「謡」。京観世の伝統に裏打ちされた「謡」である。
シテとツレの連吟の美しさ、地取の低音の渋く深みのある響き。
豊かで充実した謡の世界によって、あの世でしか結ばれなかった男女の、せつないまでに熱い情愛がひしひしと伝わってくる。地謡の地取が、陸奥の架空の里に、物哀しい秋の空気と陰翳を与えていた。


間狂言では、女の両親が反対したため、女は男の求愛を受け入れられなかったこと、3年通い続けた男が死に、それを悲しんで女も亡くなり、男が積み上げた錦木とともに悲恋の男女が錦塚に葬られたことが語られる。


シテは端正な顔立ちで、直面がよく似合う。
所作や舞がやや硬質に見えたが、それがかえって、錦木を立て続けた男の執念ともいえるひたむきさを感じさせる。

黄鐘早舞は大小物のため、太鼓は出端だけの出番。
黄鐘早舞は男舞と似ているが、凛々しい男気よりも、亡霊となった男の舞う儚さ、心の影の部分、憂悶の名残りのようなものが微かに漂っていた。

最後は「朝の原の野中の塚とぞなりにける」で、シテは飛び返って左袖を被き、立ち上がって左袖を巻いて留拍子。
歌語りのなかの男女の悲恋にふさわしい、陸奥の秋の抒情を感じさせる舞台だった。



片山九郎右衛門の《三井寺・無俳之伝》につづく




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