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2019年8月6日火曜日

真夏のオアシス ~七曜会祖先祭

2019年8月4日(日)京都観世会館
舞囃子
《高砂》      味方玄
《遊行柳》   河村晴道
《杜若恋之舞》 杉浦豊彦
《野守黒頭天地之聲》浦田保親
そのほか、居囃子、素囃子、一調、独鼓、独調など


ここのお社中はうまい方ばかりで、聞き惚れてしまう。
一調一管《鷺》を打たれた方なんて、杉市和さんの笛と見事に調和して、何も知らずに聴いたら玄人どうしの一騎打ちかと思ってしまいそう……いや~、すごかった!

ほかの方々もお世辞抜きにお上手で、ひたすら感服。
光長師のお弟子さんは熟練の技、光範さんのお弟子さんはお師匠様に似て、腕や腹筋・背筋、体幹の筋肉が素晴らしく、華麗なバチさばき。ほんと、すごいお社中です。
あれだけ打てたら楽しいだろうなぁ。


舞囃子のプロのシテ方さんいずれも見応えがありました。
味方玄さんの《高砂》は夏の清流のように清々しい緊張感にあふれていたし、河村晴道さんは切戸口から入ってきた時から翁寂びた柳の精だった(晴道さんの《遊行柳》、お能で拝見したい)。
杉浦さんの杜若には花のうるおいがあったし、浦田保親さんの野守は力強いなかにも緩急とスピード感があって素敵。


個人的には、大好きな大鼓方さんお二人(谷口正壽さんVS河村大さん)の競演が見どころ・聴きどころ。
好きな囃子方さんが増えてくると、そのパートを聴く耳が育ってくる気がします。





2019年7月21日日曜日

林木双会 ~大和木双会第五回記念

2019年7月20日(土)京都観世会館
(拝見したもののみ記載)
舞囃子《屋島》  浦田保浩
   《紅葉狩》 松野浩行
   《船弁慶》 林宗一郎
   《船弁慶》 上田拓司
   《吉野天人》 井上裕久
   《竹生島》  杉浦豊彦
   《融クツロギ》 深野貴彦

番外別習一調《勧進帳》大江又三郎×林吉兵衛

舞囃子《高砂五段》 宇髙竜成
   《紅葉狩》  杉浦豊彦
         《安宅滝流》 浦田保親
         《羽衣彩色》 浦田保浩

舞囃子《自然居士》金剛龍謹
《百万車之段・笹之段》井上裕久・茂山忠三郎

舞囃子《藤戸》  山本章弘
   《葛城》  大槻裕一

番外一調《女郎花》辰巳満次郎×林大輝

番外居囃子《石橋》
 森田保美 林大和 河村大 前川光長

出演囃子方:左鴻泰弘、森田保美、杉信太朗、河村凛太郎、渡部諭、河村大、井上敬介、前川光長、林吉兵衛・大和・大輝



京都だけでなく京阪の能楽師さんたちも加わった豪華な社中会。どの演目も目が離せないくらいで、どこで休憩しようか迷ってしまう。お社中の方々も、ご指導されている先生方もたいへん熱心で、白熱した良い会でした。

関西のシテ方さんは中堅が花盛り。ほんと、見応えがあります。
この日とりわけ光っていたのが、深野貴彦さん。
以前、1月例会の能《小鍛冶》でシテをされていた時も良かったけれど、この日の舞囃子《融クツロギ》を拝見して、うまい方だなあと感じ入った。
細身なのに、下半身と体幹がしなやかで強靭。鍛え抜かれた肉体から生まれる型の線や緩急のついた舞が流麗で、緩みがなく、魅力的な融の舞でした。


この日は、横浜の《大典》に出演中の前川光範さんを除いて、先日の囃子Laboの出演者が勢ぞろい。井上敬介さんと渡部諭さんが、先日以上に冴えていた。


金剛流では宇髙竜成さんの謡にほれぼれ。
タツシゲさんが地頭に入った舞囃子《自然居士》の地謡、これまで聞いた金剛流の地謡のなかでいちばん印象に残った。


番外別習一調《勧進帳》
囃子Laboで林大和さんと渡部諭さんが初役で勤めた《安宅》(+勧進帳)もエネルギッシュでよかったけれど、大江又三郎さん×林吉兵衛さんの《勧進帳》はベテランらしい濃厚さ。一調の醍醐味を堪能させていただいて、感謝!


番外一調《女郎花》
こちらもグッとくる一調。林大輝さん、覇気のある小鼓で、音色も掛け声もいい。あの大迫力の満次郎さんの謡にもまったく引けを取らず、全力で挑み、互角で闘っていた。良い意味で、ほどよく個性のある小鼓、注目株のお一人だ。



番外居囃子
本日の主催者・林大和さん+ベテラン勢による《石橋》。前川光長さんと河村大さんが本領発揮。熱気にみちた囃子と謡を聴いていると、最強のドリンク剤を飲んだ時のように身体がシャキッとしてきた。




2019年6月4日火曜日

大倉流祖先祭~大槻能楽堂改修記念

2019年6月4日(火) 大槻能楽堂
番組(拝見したもののみ記載)
舞囃子《高砂》分林道治
 赤井要佑 社中の方 木村滋二 中田弘美
 味方玄 寺澤幸祐 武富康之

舞囃子《花月》大槻裕一
 赤井要佑 社中の方 上野義雄
 上野雄三 上野雄介 上野雄吾

舞囃子《玉之段》赤松禎友
 斉藤敦 社中の方 辻芳昭
 大槻文蔵 武富康之 大槻裕一

舞囃子《淡路》金剛龍謹
 斉藤敦 社中の方 山本哲也 中田弘美
 金剛永謹 種田道一 惣明貞助

《水無月祓》味方玄×桂吉坊

舞囃子《蓮如》青木道喜
 杉市和 社中の方 木村滋二 中田弘美
 片山九郎右衛門 味方玄 分林道治

舞囃子《鷺》大槻文蔵
 赤井啓三 社中の方 辻芳昭 三島元太郎
 上野朝義 上野雄三 長山耕三

舞囃子《自然居士》味方玄
 斉藤敦 社中の方 山本哲也
 片山九郎右衛門 寺澤幸祐 大槻裕一

舞囃子《卒都婆小町》金剛永謹
 斉藤敦 社中の方 辻芳昭
 種田道一 金剛龍謹 惣明貞助

舞囃子《安宅・瀧流之伝》梅若紀彰
 赤井啓三 社中の方 山本哲也
 片山九郎右衛門 青木道喜 寺澤幸祐

舞囃子《放下僧》梅若猶義
 赤井啓三 社中の方 上野義雄
 梅若紀彰 分林道治 大槻裕一

舞囃子《船弁慶》金剛永謹
 杉市和 社中の方 上野義雄
 種田道一 金剛龍謹 惣明貞助

舞囃子《三輪》大槻文蔵
 杉市和 社中の方 山本哲也 三島元太郎
 梅若紀彰 梅若猶義 赤松禎友

舞囃子《班女》上野雄三
 赤井啓三 社中の方 上野義雄
 上野朝義 上野朝彦 上野雄介

舞囃子《安宅》金剛龍謹
 杉市和 社中の方 辻芳昭
 金剛永謹 種田道一 惣明貞助

舞囃子《邯鄲》片山九郎右衛門
 左鴻泰弘 社中の方 山本寿弥 上田悟
 青木道喜 味方玄 長山耕三

ほか、舞囃子、居囃子、一調など多数。



ひと言でいうと、すっごい会だった。
好きな能楽師さん、超一流の能楽師さんたちの真剣立合勝負。
とくに片山九郎右衛門vs梅若紀彰vs味方玄という、今を時めく舞の名手の三つ巴の激突がとにかく、凄まじかった。

九郎右衛門さんと梅若紀彰さんの対決で思い出すのは、4年前の佳名会・佳広会(亀井忠雄・広忠師社中会)。
あのときは、九郎右衛門さん、紀彰さんがそれぞれ舞囃子を2番ずつ舞われて、「犬王・道阿弥vs世阿弥の立合もかくやらん」と思わせるほど、わが観能史に残る名試合だった。
あの日の感動をさらに上回るような舞台に出逢えるなんて!!

以下は、簡単なメモ。


舞囃子《高砂》分林道治
この日はじめて気づいたけれど、分林さんの《高砂》は、九郎右衛門さんの芸風によく似ている。緩急のつけ方も、足拍子のタイミングも、型の微妙な角度まで。片山一門の中堅は皆さん見応えがあります。

赤井要佑さんの笛を聴くのははじめてかも。赤井啓三さんの御子息かな? 美しい音色の良い笛。関西の笛方さんはほんと粒ぞろい。



《水無月祓》味方玄×桂吉坊
さすがは源次郎さんのお社中、上手い方が多い。
なかでも桂吉坊さんは米朝一門だけあって、長唄・三味線・笛・太鼓だけでなく、小鼓も相当な腕前。音色もきれいだし、掛け声も見事。謡のお師匠様は味方玄さんでしょうか? 本業だけでも超多忙なのに、それぞれの芸事をこのレベルまでお稽古されるなんて……努力家で多才な方なんですね。



舞囃子《蓮如》青木道喜
青木道喜師作曲の《蓮如》。
盤渉早舞っぽい舞事が入ります。詞章はあまり聞き取れなかったけれど、蓮如の功績や教義的なものが織り込まれていたような。来年あたり、本願寺の能舞台で上演されるのでしょうか。



舞囃子《自然居士》味方玄
味方玄さんの舞台は、能よりも舞囃子が好きだなあ。味方さんの能は感動する時と、そうでないふつうの時があるけれど、舞囃子はほとんどすべて素晴らしい。
そしていつも思うのは、片山一門のなかでいちばん「幽雪」的なものを感じさせるのが味方玄さんだということ。恐ろしいくらいの集中力と、舞台に対する妄執ともいえるくらいの、燃えたぎる執念と情念。舞台に立ったときの目つきと気迫が、幽雪師の生き写しのよう。




舞囃子《安宅・瀧流之伝》梅若紀彰
東京を離れるときに心残りだった能楽師さんの一人が、梅若紀彰さん。
関西ではめったに拝見できないから、最初に番組をいただいたときは狂喜乱舞したくらい。ずっと、この日を心待ちにしていた。

4年前の佳名会・佳広会の時は、《安宅・延年之舞》と《邯鄲》を舞われたけれど、この日は《安宅》の「瀧流之伝」。深緑の色紋付と黄土色の袴という、いつもながらおしゃれな出立。

「瀧流」では、盃に見立てた扇を目付柱の前に投げ、盃を流れに浮かべる型を見せたり、橋掛りへ行く代わりに(舞囃子なので)脇正で水の流れを見込み、曲水を流れる盃を目で追いかけたりするなどの所作が入る。

次はいつ拝見できるだろう?
そう思うと一瞬一瞬が貴重で、一瞬一瞬を心に刻み付けるように味わっていた。舞囃子1番では足りないくらい。《三輪》の地頭もされていたけれど、紀彰さんの神楽物、観てみたかったな。
また、関西にも来てくださいね。

(紀彰さんの舞台でいちばん感動したのが、第一会紀彰の会の《砧》。あのときの太鼓は観世元伯さんだった。元伯さんを最後に観たのも、紀彰さんの社中会だった。東京の能楽師さんを拝見すると、懐かしさとともに、悲しい思い出もこみあげてくる。せつなくて、胸が苦しくなるけれど、こうして思い出して書き記すことが、きっと最高の供養になると思うから。)




舞囃子《邯鄲》片山九郎右衛門
九郎右衛門さん、凄かった!!
切戸口から舞台に入って来た時から、殺気めいた気迫がみなぎっていて、なにかもう、ここではない、別の次元にいた。
おおげさではなく、怖れというか、畏怖の念すら覚えた。
もはや立合ではなくなっていた。
比較対象が存在しない。
ただひとり別次元の高みで君臨する、無双の王者だった。

その姿を前にして、
わたしの身体がまばたきを拒否していた。
全身が「目」となって、ただただ、貪欲にその姿を追っていた。
まばたきを忘れているのに、
目が乾く間もなく、涙があふれてくる。

ストーリーの展開も、意味も、もうどうでもよかった。
ただもう、異次元の凄いものを目の当たりにして、その感動で跳ね飛ばされそうになりながら、必死でしがみつくように舞台を凝視していた。

お菓子を食べていた前列の女性グループも、おしゃべりしていた年配の団体も、ポカンと口を開けて舞台に見入っていた。
見所全体が九郎右衛門さんとともに、ここではない別の次元に運ばれて、意識が遠のくような美しい夢を見ていた。

わたしの理想とする、言葉も意味も超えた舞台。

この感覚をいつまでも覚えていたい。
ありがとうございました。






2018年12月1日土曜日

松月会・能と囃子~大倉流小鼓の会

2018年11月23日(金) 大槻能楽堂
(拝見したもののみ記載)
舞囃子《小袖曽我》上田顕崇&上田宜照
    斉藤敦 社中の方 辻雅之

   《放下増》斉藤信輔
    貞光智宣 社中の方 上野義雄

   《自然居士》赤松禎友
    斉藤敦 社中の方 河村大

   《松虫》斉藤信隆
    貞光智宣 社中の方 上野義雄

   《高砂》 大槻裕一
    斉藤敦 社中の方 河村大 中田一葉

   《屋島》 寺澤幸裕
    貞光智宣 社中の方 辻芳昭

能《井筒・物着》シテ 梅若万三郎 
    ワキ 福王茂十郎
    赤井啓三 社中の方 河村大
    後見 加藤眞悟 上田貴弘
    地頭 大槻文蔵

舞囃子《安宅・延年之舞》上田貴弘
    野口亮 社中の方 山本哲也

   《葛城・大和舞》大槻文蔵
    赤井啓三 社中の方 辻芳昭 上田悟

   《弱法師・盲目之舞》久田勘鷗→上田拓司
    赤井啓三 社中の方 山本哲也

番囃子《正尊・起請文》シテ正尊 大槻文蔵
    義経 寺澤幸裕 姉和 大槻裕一 静 寺澤杏海
    弁慶 福王茂十郎
    野口亮 社中の方 辻芳昭 上田悟

舞囃子《善知鳥・翔入》長山禮三郎→観世喜正
    赤井啓三 社中の方 山本哲也

   《養老・五段》大西礼久
    野口亮 社中の方 辻芳昭 上田悟

半能《融・舞返》シテ観世喜正
   ワキ 江崎正左衛門
   野口亮 社中の方 山本哲也 中田弘美

ほかにも能《岩船》や一調、独鼓など盛りだくさん。




阪神の能楽師さんについてはほとんど存じ上げなかったから、こうした会は願ってもない機会。
まさに芸のテイスティング! 
社中の方々も音色のみならず掛け声もうまい方が多く、とくに一調・能・番囃子をされた方々は見事でした。


以下は単なる個人的メモ。

舞囃子《小袖曽我》上田顕崇&上田宜照
リアルご兄弟なので息が合っている。
上田宜照さんは型がきれい。
お二人とも若い女性ファンが多そう。


舞囃子《自然居士》赤松禎友
文蔵師の腹心、片腕のような方だけあって、芸風も文蔵師に似て折り目正しい。
いつもシリアスなお顔をされているが、プライベートでもそうなのだろうか。


舞囃子《松虫》斉藤信隆
豊かでたっぷりした、円熟期の舞。
こういうベテラン世代のうまい方って、関西ではなかなかいらっしゃらないので、貴重な存在だ。
機会があれば、お舞台を拝見したい。


舞囃子《高砂》 大槻裕一
若竹のように勢いのある清々しい高砂。
これから何度もこの方の高砂を拝見する機会があるだろうから、どう変化していくかが楽しみ。


舞囃子《屋島》寺澤幸裕
キリリッと引き締まったカッコいい《屋島》。
心惹かれる舞囃子だった。
来年あたり、この方の舞台も観てみたい。



能《井筒・物着》シテ 梅若万三郎 
万三郎氏の舞台については別記事に記載します。



舞囃子《葛城・大和舞》大槻文蔵
文蔵師については、舞はもちろんきれいだし、もしも好きになれたら関西での観能の幅が広がるだろうと思い、これまでも何度かチャレンジしてきた。
しかし、どうしてもこの方の謡が自分には合わなくて、謡に阻まれていた。

(あと、舞があまりにも完璧で非の打ちどころがないため、心に何も刺さらずに、心地よくサラサラと流れていくのが、いまひとつ入り込めない理由の一つだった。)

それがこの日、なんとなくだけれど、はじめてこの方の芸の魅力にほんの少し開眼したような気がした。

大和舞にはこれまでになくのめり込めたし、最後に正先で幣を振るところでは心底ゾクッとした。

阪神には良い囃子方さんが多い。
赤井啓三さんの笛も好きだし、上田悟さんの太鼓もよかった。



番囃子《正尊・起請文》シテ正尊 大槻文蔵
この《正尊》の番囃子、素晴らしかった!
正尊と弁慶との掛け合い。起請文。
文蔵師のだみ声に近い声質の渋い味わい。
自分には合わないと思っていた文蔵師の謡の、黒楽茶碗のような深みのある鈍い光り。

文蔵師の声質や謡には、鬘物などよりも、こういう曲のほうが合っているのかもしれない。
悟りを得たように泰然とした文蔵師の物腰にも見入ってしまった。

やはり食わず嫌いではいけないですね。
徐々に観る機会を増やしていかなくては。


社中の方は小鼓の音色だけでなく、構えがとても美しい方だった。
野口亮さんの笛も好み。



半能《融・舞返》シテ観世喜正
喜正さんのシテを拝見するのはどれくらいぶりだろう。
《杜若・恋之舞》を観て以来かもしれない。

《融・舞返》にぴったりのキレのあるスピーディな舞で、中堅真っただ中の、現在の喜正さんの技と芸の魅力を存分に楽しむことができた。

融の亡霊が、黒垂をつけているのもよかった。

初冠に中将の面には、ぜったいに黒垂が似合う!!と思う。
黒垂なしの初冠の出立の時もあるけれど、あれはどうしようもなく間の抜けた感じになって、せっかく良い舞台でも、興ざめしてしまうもの。

ほかのシテ方さんたちも、お願いします。
貴公子の出立のときは、どうか、黒垂をつけてください。


社中の方も、あの早舞と舞返の超早送り的スピードで打つ小鼓が、超絶にカッコよく、プロの囃子方さんも最高で、この舞台は地謡も、お囃子も、シテも見事だった。


このあとも、盛りだくさんな内容が続き、最後の寺澤拓海さんの能《岩船》もとても観たかったのですが、《融》で退席しました。
(半能《融》の終了時点で7時くらい。松月会は9時近くまで続いたそうです。)


梅若万三郎の能《井筒・物着》につづく








2018年11月21日水曜日

能《融・遊曲・思立ノ出・金剛返》~曽和博朗三回忌追善会

2018年11月17日(土)11時~19時45分 金剛能楽堂

能《融・遊曲・思立ノ出・金剛返》シテ 金剛永謹
   ワキ 小林努 アイ 茂山千作
   杉市和 社中の方 谷口正壽 前川光長
   後見 宇髙通成 向井弘記 惣明貞助
   地謡 種田道一 松野恭憲 金剛龍謹 種田和雄
      谷口雅彦 今井克紀 重本昌也 田中敏文




よく考えたら、金剛流お家元の能を拝見するのは初めて。
京都では金剛流を拝見する機会も増えるだろうと思っていたけれども、金剛定期能は京都観世会例会と日程がかぶるため、なかなか拝見できずにいる。
(来年2月の宇髙竜成さんの《箙》を観たかったけど、この日も味方玄さんの《弱法師》とみごとに重なっている。)

能《融》で小鼓を打つのは、表千家・長生庵の若宗匠。
ロビーには御茶席が設けられ、お菓子は嵯峨菊をイメージしたとらやの「小倉野」のほか、能《融》にちなんで塩釜から取り寄せた干菓子「しおがま」が用意されていた。
藻汐と紫蘇の爽やかな香りを楽しみながら《融》の世界に思いをはせるという、なんとも風雅な趣向。お能の前に、素敵なお庭を眺めながら一服いただくなんて……京都はいろんな面で凄いなあと思う。


さて、小書のたくさんついた《融》。
金剛流で観るのも観るのもはじめてなので、以下は気づいたことのメモです。

【前場】
小書「思立之出」はワキ方関係の小書なので、内容は観世流と同じ。
いきなり下歌の「思ひ立つ心ぞしるべ雲を分け」と謡いながら登場し、「千里も同じ一足に」と一の松まで至ったあと、「これは東国方より出でたる僧にて候」と名乗りになる。

また「金剛返」は、金剛流に特有の小書ではなく、ワキ方高安流と囃子方関連の小書で、高橋葉子氏の『「金剛返」考』によると、道行「夕べを重ね朝ごとの」のあとの〈打切)が、〈刻返〉という短い手に代わり、返シは「朝ごとの」だけになるという。つまり、囃子の手も謡の返シも短くなり、ノリを崩さずして全体のリズムを変化させるのが、「金剛返」だそうだ。
どうやら「金剛返」は、ちょっとしたところに変化を持たせる好みの小書のようだ。


「げにや眺むれば、月のみ満てる塩釜の」で流れる杉市和さんの笛の音が、千賀の塩釜を再現した庭園の寂しく荒れ果てた景色を描いていて、心に痛いほど沁みてくる。
お囃子は京都の最強メンバーで、社中の方も玄人はだし。
いいなあ、としみじみ聴き惚れながら、《融》の世界に浸っていた。

金剛流の地謡は微動だにせずじっと座っているのが、観ていて気持ちいい。
さすがに後場になると年配の方は辛そうだったが、座る姿勢は地謡の手本のよう。


【後場】
後場の演出は、どこまでが小書「遊曲」の演出で、どこからが金剛流オリジナルの型なのか分からないけれど、とにかくかなり凝っていた。
(以下、覚束ない記憶なので、誤りは多々あると思います。)

装束の一部も、通常の《融》のものとは違っていて、狩衣・指貫は同じだけれど、初冠ではなく風折烏帽子を被り、烏帽子には金色の木の実と葉っぱのようなものがついている(目を凝らしてみたが、なにが付いているのか分からなかった)。

「あら面白や曲水の盃」「浮けたり浮けたり遊舞の袖」で、囃子が総ナガシになり、一の松にいたシテは、扇で酒を汲む所作をし、そのままナガシで幕際まで後退、三の松でしばし佇む。

再び囃子が入り、シテは橋掛りをゆっくり前進→常座へ至る。
囃子が特殊な手を打ち →シテは常座から角へ →角で両袖を巻いたまましばし留まる。やがて脇座前へ至り→総ナガシで大小前へ至って、達拝→盤渉早舞へ。

こういう舞台上の移動のしかたが、2年前に東京能楽囃子科協議会で観た喜多流の《融・笏之舞》(シテ友枝昭世、太鼓・観世元伯)を彷彿とさせる。

《融》は追善の会でよく上演されるから、いろいろ思い出す。
金春國和師を偲ぶ「旧雨の会」での「思立之出・舞返」とか。
月の世界に還ってゆく融の姿は、懐かしい人の面影とも重なる。


良い会でした。
ありがとうございます。





2018年11月20日火曜日

曽和博朗三回忌追善会~舞囃子・居囃子など

2018年11月17日(土)11時~19時45分 金剛能楽堂

舞囃子《当麻》片山九郎右衛門
  森田保美 曽和伊喜夫 柿原孝則 小寺佐七
  地謡 青木道喜 橋本光史 田茂井廣道

独調《知章ロンギ》  田茂井廣道×成田奏
  《鐘ノ段》    河村和重×大村華由
  《龍田》     武田文志×丹下紀香
  《梅枝・楽アト》 橋本光史×森貴史
  《錦木キリ》   宇髙通成×古田知英
  《高野物狂・道行》林宗一郎×成田達志

居囃子《三輪・白式神神楽》
   杉市和 社中の方 柿原崇志 前川光長
   地謡 片山九郎右衛門 青木道喜 橋本光史 武田文志

舞囃子《玉鬘》林宗一郎
   左鴻泰弘 社中の方 柿原孝則
   地謡 河村和重 橋本光史 田茂井廣道 武田文志

番外一調《江口》   大江又三郎×曽和正博
    《鵜飼》   種田道一×小寺佐七
    《女郎花》  金剛龍謹×幸正佳
    《花筐クルイ》武田伊左×曽和鼓童

能《融・遊曲・思立ノ出・金剛返》シテ 金剛永謹
   ワキ 小林努 アイ 茂山千作
   杉市和 社中の方 谷口正壽 前川光長
   後見 宇髙通成 向井弘記 惣明貞助
   地謡 種田道一 松野恭憲 金剛龍謹 種田和雄
      谷口雅彦 今井克紀 重本昌也 田中敏文

ほか、囃子、一調、独調など多数


開演前、ロビーの遺影に御焼香をさせていただく。追善会にふさわしい番組と内容で、社中の方々の演奏もとても素晴らしかった。


まずは、九郎右衛門さんの舞囃子《当麻》から。
今年2月の能《当麻》は拝見できず、痛恨の極みだったから、この舞囃子はうれしい。
小鼓は故・博朗師のお孫さんの伊喜夫さん、大鼓は柿原孝則さんで、九郎右衛門さんとの組み合わせも珍しい。

舞囃子とはいえ早舞の箇所だけでなく、出端から始まるので、ワキなしの半能・袴能のような形式。
九郎右衛門さんの中将姫は「天上の存在」としての菩薩感が強く、天冠や装束をつけていなくても、光り輝く後光に包まれているように見える。

とりわけ、独特の節回しの「慈悲加祐……乱るなよ~」のところでは、力強く、気高い声で衆生を教え導く、荘厳な崇高美が全身から立ち昇り、思わず、手を合わせたくなるような神々しさだ。

早舞は、女体による法味の舞のため黄鐘早舞。とくに追善の会の初番で出される時は、盤渉調は敬遠すべきものだという。
近日、同じシテによる《海士》を拝見する予定なので、《当麻》の早舞とどう違うのか、比較しながら味わってみようと思う。


居囃子《三輪・白式神神楽》
九郎右衛門さんの白式神神楽の舞囃子地謡を聴くのは、これで3度目くらい。
毎回あらたな感動を覚えるが、そのなかでもこの日の白式は最高だった!

白式神神楽が描き出す、常世の闇の世界、静寂、神々の嘆き、慟哭を、謡と囃子だけでこれほどドラマティックに再現できるなんて!

ちょうど一年前に、国立能楽堂で九郎右衛門さんの能《三輪・白式神神楽》を観た時と同じくらいに、胸が痙攣するほどブルブル震えて、謡の魅力、その素晴らしさにあらためて気づかされた。

こんなふうに心を揺さぶる謡に出逢うと、能楽はバリアフリーだと強く思う。
たとえ感覚の一部に障害があっても、能楽の音の世界の豊かさ、その表現力の高さを存分に発揮した一流の舞台に触れると、能の醍醐味を味わうことができるのではないだろうか。


小鼓の社中の方も熟練者で、特にスリ拍子の箇所で、小鼓→太鼓→大鼓の順番で一粒ずつ打っていくところの漆黒の闇の表現が見事だった。


このあと、九郎右衛門さんは大急ぎで大槻能楽堂へ。
瞬間移動しないと間に合わないようなスケジュールなのに、いったいどうやって移動されたのだろう……?


舞囃子《玉鬘》
玉鬘のシンボルでもある左肩に垂らした一筋の髪。
舞囃子だからもちろん髪は垂らしていないけれど、艶やかな黒髪と千々に乱れる思い、心の狂乱、漠然とした苦しみが、カケリのなかに凝縮して表現されていて、やっぱり宗一郎さんの舞囃子はいいな。



ほかにも見どころ・聴きどころの多い番組で書きたいことは山ほどあるけれど、長くなるので、能《融・遊曲・思立之出・金剛返》の感想は次の記事で。






2016年12月3日土曜日

味方團 青嶂会大会

2016年12月3日(土)   9時30分始    セルリアンタワー能楽堂
ロビーのクリスマスツリー
番外仕舞《忠度》   味方團
      《若布刈》 樹下千慧
      《谷行》   河村浩太郎

舞囃子《須磨源氏》《船弁慶》《天鼓バンシキ》《養老 水波ノ伝》
     シテはいずれも社中の方
     天鼓の地謡 林喜右衛門 林宗一郎 味方團 武田祥照
     杉信太郎 後藤嘉津幸 原岡一之 林雄一郎

番外仕舞《隅田川》 味方健
      《東方朔》 林喜右衛門
             林宗一郎

上記以外の出演シテ方
松野浩行 河村和晃 山崎正道 角当直隆 武田祥照
そのほか、能《巻絹・神楽留》、番囃子《邯鄲》、素謡・仕舞・独吟・独調など豪華な会。



先月は体調を崩して、せっかくの能繁期なのに個人的プチ能閑期 (T_T)
まだ恢復しないけれど、短時間だけ行ってきました。
林一門の社中会は番外仕舞が充実していて嬉しい。



番外仕舞《忠度》
味方團さんは仕舞を何度か拝見していますが、能を舞うに際してハンディとなるスラリとした長身体型をどう工夫して持ち味に変えていくのか、ということに非常に興味があります。

忠度と六弥太との合戦シーンには闘うことの虚しさのような憂愁が漂い、六弥太を押さえつけるところや箙から短冊をとって読み上げるところなど、型がとても美しい。

とりわけ静止する型に手足の長さが生かされ、人を惹きつける端麗な造形になっていた。
以前よりも肩の力が抜け、下半身もさらに安定し、より洗練された印象。

この方にしかできない、細身長身を生かした現代的なスタイルと造形美を観た気がした。



 
番外仕舞《和布刈》《谷行》
脇能と切能のそれぞれキレのいいアクロバティックな仕舞。
樹下さんと河村浩太郎さんの舞は2年前の東西合同研究発表会以来、年に何回か拝見しているが、どちらもこれからが楽しみなシテ方さんだ。



舞囃子
社中の皆さんとても御上手で、とくに《養老・水波之伝》を舞われた方が素晴らしかった。

笛の杉信太朗さんがお風邪でも召されたのか苦しそう。
笛方は鼻・喉をやられるとほんとうに大変です。

先月につづいて後藤嘉津幸さんの小鼓が聴けてうれしい。
先日とは違いやはり空気が乾燥しているのか、この日は頻繁に息をハーハー吹きかけて、皮の湿り気を保つよう腐心されていた。

原岡さんの大鼓、けっこう好きなのです。
フォームは忠雄師譲りの、ドライブの効いた見事な打法。
掛け声も、忠雄師の若い頃のCDの掛け声とよく似ている。
広忠さんよりも、忠雄師の芸風を忠実に受け継いでいらっしゃるように思う。


地謡は《天鼓》がとても良く、武田祥照さんが加入されていたけれど、これぞ林一門の謡(片山家ともちょっと違う)と思わせるような地謡(東京の地謡とは、少し違う。とくに山崎正道さんが地謡に加わると、一気に梅若っぽくなって、ああ、違うんだなーと感じる。)



番外仕舞《隅田川》
比較的さらりとした隅田川。
先日の味方健師の《定家》はどんな感じだったのだろう。
《定家》のチラシ、素敵だった。



番外仕舞《東方朔》
喜右衛門師の御壮健な姿を舞台で拝見できただけで来た甲斐があった!

わたしが観能歴二週間くらいの最初期に拝見したのが、林喜右衛門・宗一郎の番外舞囃子《乱・双之舞》で、とても印象に残っている。

そのときは父子それぞれの「間」の取り方や舞のリズム・テンポの違いが際立ち、どちらかといえば、喜右衛門師に目が釘付けだった。

でも、この日は、宗一郎さんの舞姿に目が釘付けに。
もちろん、もともと上手い方だけど、3年のうちに芸にさらに磨きがかかり、冷えた透明感のある品格が備わってきた。
西王母のまろやかさを感じさせつつも、どこか氷のような冷たさがあるのが、この方の魅力だと思う。

宗一郎の会の《井筒》、都合がつかなくて拝見できなかったのがとても残念。
明日(12月4日)には、林定期能で《弱法師》を舞われるという。
好い舞台になるのは間違いないだろう。



このあと、能《巻絹・神楽留》や番囃子《邯鄲》、仕舞、素謡、味方團・慧父子の番外仕舞などがあったのですが、体調がまだ良くないので失礼しました。







2016年11月7日月曜日

あまねく会・三十五周年記念大会二日目

2016年11月7日(月)        宝生能楽堂
(拝見したもののみ記載)

番外狂言《昆布売》 シテ昆布売 野村萬斎
             何某 飯田豪  後見 内藤連

能《邯鄲》 シテ盧生 社中の方 舞人 社中の方
   勅使 森常好
   大臣 殿田謙吉 大日方寛 御厨誠吾
   輿 野口能弘 野口琢弘
   寺井宏明 田邊恭資 柿原弘和 観世元伯
   後見 宝生和英 辰巳満次郎
   地謡 東川光夫 武田孝史 山内崇生 和久荘太郎
       澤田宏司 辰巳大二郎 辰巳和麿 木谷哲也

舞囃子《松虫》 シテ社中の方
     《富士太鼓》 シテ社中の方→辰巳満次郎
        藤田六郎兵衛 後藤嘉津幸 河村眞之介

舞囃子《源氏供養》 シテ社中の方

番外舞囃子 《安宅》 辰巳満次郎
    藤田六郎兵衛 大倉源次郎 亀井広忠
    地謡 宝生和英 武田孝史 辰巳大二郎 辰巳和麿


1日目も能三番に辰巳大二郎さん・和麿さんの番外仕舞など豪華な社中会でしたが、友枝会と重なったため、2日目の途中から拝見。


萬斎さんの番外狂言。
話の内容よりも、萬斎さんの身体の動きの支点などに注目して観ていました。


能《邯鄲》
難しい型が多く、上演時間の長い大曲を舞われた社中の方が凄かった。
(満次郎師の社中の方々、皆さんうまい方ばかりでした。)

個人的には、昨日に続いて元伯さんの太鼓を聴けたことがヾ(=^▽^=)ノ


     
 

本会最大の聴きどころのひとつ(個人的お目当て)が囃子方を名古屋勢で固めた舞囃子。

六郎兵衛+後藤嘉津幸+河村眞之介の組み合わせを東京で観ることはめったにない。
藤田流&幸清流&石井流の組み合わせ自体、東京では珍しい。
と、思ったけれど、もしかすると、笛方を竹市学さんにした組み合わせなら、観世喜正さんとの共演であったような、なかったような?)

後藤さんはセルリアンタワー十五周年記念《翁》の脇鼓で、河村さんは鎌倉能舞台の乱能で拝見しただけなので、一度じっくり聴いてみたかったのです。


石井流は前にも書いたと思うけれど、化粧調べを高安流のように膝の後ろに垂らす(葛野流は前)。
河村眞之介さんの打音は、音響の良い宝生能楽堂でことさらよく響き、小鼓の後藤さんともまさに阿吽の呼吸。
これに六郎兵衛さんの鋭い笛が加わり、東京の囃子方とはひと味ちがう、名古屋独自のお囃子になり、これがすこぶるカッコイイ!

後藤さんの小鼓は、東京の小鼓方と比べると、息を吹きかけるなどの皮の湿度調整の回数が少ないように感じる。それでも、チ・タ音もきれいに出て、たっぷりとした豊潤な音色。

名古屋の囃子方さん凄くいい! もっと聴いていたかった。


舞囃子の《富士太鼓》は社中の方が舞う予定だったのが、満次郎師が舞うことになり、実質番外舞囃子が二番になった。

同じ「楽」の囃子でも、能《邯鄲》の楽(太鼓入り)とは、囃子方の流儀がすべて違っていて、まったく別の曲のように聴こえる。


最後は、満次郎師の番外舞囃子《安宅》。
六郎兵衛+源次郎+広忠の囃子に、地謡も個人的にはベストメンバー。
これで良くないわけがない!
侠気あふれる男っぽ~い安宅でした。





2016年9月6日火曜日

光宝会大会~三十五周年記念 

2016年9月4日(日)  11時~16時45分  宝生能楽堂
(シテ・ツレ・子方はすべて東川光夫・尚史師社中の方)

能《鶴亀》 ワキ殿田謙吉 ワキツレ則久英志・梅村昌功
       アイ善竹大二郎
       槻宅聡 幸信吾 佃良太郎 大川典良
       後見 東川光夫・尚史
       地謡 宝生和英など

能《祇王》 ワキ村山弘   アイ善竹富太郎
       藤田貴寛 幸信吾 佃良太郎
       後見 東川光夫・尚史
       地謡 辰巳満次郎など

舞囃子《融》 藤田貴寛 竹村英雄 佃良勝 桜井均
        地頭 宝生和英

能《綾鼓》  ワキ村山弘  アイ善竹十郎
        藤田貴寛 竹村英雄 佃良勝 桜井均
        後見 宝生和英 東川光夫
        地謡 小倉敏克など


能三番のほか舞囃子、仕舞、連吟、素謡など盛りだくさんの豪華な社中会。

首都圏をはじめ北海道から東北、中国地方まで全国各地から集まった社中の方々は皆さんとてもレベルが高く、なかでも能《綾鼓》のシテをなさった方が巧すぎてビックリ!

素人の方だと知らなかったら、プロのシテ方さんが舞っていると思ってしまいそう。
(普通の素人さんではなく、教授か師範クラスの方でしょうか。)

面を掛けた状態でも謡の声がよく通って独特の味わいがあり、居グセの佇まいもきれい。
女御に詰め寄るところなども気合が抜けず、見応えがある。
ツレの方も巧い方で、玄人による演能を拝見したような充実感。


この日のお目当ては和英宗家地頭の地謡、
そして、はじめて拝見する高安流ワキ方の村山弘師と幸流小鼓方の竹村英雄師。


村山師と竹村師はどちらも京都を中心に活躍する能楽師さんだそうで、
とくに高安流のワキ方は東京では珍しいから楽しみにしていました。


村山師は恰幅が良く、姿勢がきれいで、堅実な芸風。
高安流の謡は、どちらかというと下宝よりも福王流に近い硬質な謡に聞こえ、
それが《祇王》の瀬尾太郎や《綾鼓》の臣下の役にとても合っていました。
もっといろんな役で拝見したい。


小鼓方の竹村師は70代後半くらいですが、背筋がスッと伸びて安定感のある演奏。
(去年亡くなったわたしの義父に雰囲気が似ていらっしゃるので、なんだか懐かしくなりました。)



和英宗家地頭の地謡はグッと引き締まってやっぱり好い。
それまで猛烈な睡魔に襲われていたのですが、
爽快なシャワーを浴びたように一気にリフレッシュ。
最近ますます御家元オーラが強くなられた気がする。





2016年6月18日土曜日

第三回東京真謡会大会

2016年6月18日(土)  分林道治師社中会    国立能楽堂

番外仕舞《雨之段》  片山九郎右衛門

能《羽衣・和合ノ舞》
    ワキ 福王和幸 ワキツレ 村瀬提
    杉信太郎 成田達志 柿原弘和 観世元伯
    地頭 片山九郎右衛門
    後見 分林道治

他に能《清経》、舞囃子8番(柿原孝則さん5番担当)、仕舞・素謡・連吟・番外仕舞など。
地謡は関西陣+銕仙会+梅若会から角当直隆さんが参加。




セルリアンタワー15周年記念公演以来、心待ちにしてきた番外仕舞!
7~9月の舞台までに九郎右衛門チャージができて有り難い。


九郎右衛門さんの仕舞は、
ほとんど静止しているような微少な動きのなかに、
想像力をかき立てるさまざざなものが凝縮されていて、
わたしにとっては能10番分にも匹敵するほどの価値のあるものなのです。


能《羽衣》の直前に番外仕舞が組み込まれていたため、仕舞の最中でも人が大勢でガサゴソと見所に入ってきたり大声で話し続ける人が多かったりと、わたしが経験した中でワースト5くらいの騒々しく雑然とした状態だったのですが、九郎右衛門さんが舞う空間だけは異次元に属していて、何ものにも侵されず、清浄で閑かな時間が流れていました。



仕舞《雨月・雨之段》

澄み切った秋の夜空。
時雨を思わせる松風の音。

庭には吹き散らされた木の葉が積もり、金色の月の光が降り注ぐ。


月光で満たされた舞台の上で静かに、ゆったりと舞うシテの姿。
一瞬、一瞬が露のしずくのように煌めきながら弾けてゆく。


どの瞬間をとっても、
わずかな弛みも、崩れもなく、

舞台空間に気を漲らせつつも、
余分な力みがまったくない。

肩の力を抜いた高度な緊張感。



積もる木の葉をかき集め 雨の名残りと思はん


この落ち葉をかき集める型に枯れ寂びた趣きがあり、
露に濡れ、紅葉色に染まった袖の色彩や湿り気さえ感じさせる。



九郎右衛門さんが織りなす禅竹の世界。
なんて、きれいなんだろう!

充実した身体が生み出す精巧な表現力に圧倒された。


この日の九郎右衛門さんからは、
1年前には感じなかった透明感のある風格のようなものを感じた。



そして、能《羽衣》で地頭を勤めたあと、片山家当主は翌日の福岡での白式神神楽に備えて国立能楽堂をあとにしたのだった。



能《清経》のシテは分林道治さんの御親族で、有名な実業家の方。
舞台馴れしていて、装束も豪華。とてもきれいでした。


舞囃子《邯鄲》を舞われた方は、たしか昨年の佳名会・佳広会でも、舞囃子《鵺》(シテ片山九郎右衛門)で、大鼓を打っていらっしゃったように記憶。
この日もセミプロレベルのとても魅力的な舞を披露されていました。



お囃子もゴージャスで、とくに元伯×ナリタツの組み合わせは嬉しいかぎり。
序ノ舞の序の小鼓と太鼓の掛け合いが凄くカッコよかった!!






2016年4月24日日曜日

謳潮会大会

2016年4月24日(日) 15時半~19時  セルリアンタワー能楽堂
(番組は拝見したものだけを記述)

素謡《定家》シテ 社中の方 ワキ 武田祥照

舞囃子《敦盛》《砧・後》《胡蝶》《蘆刈》《吉野天人》
 一噌隆之・杉信太郎 観世新九郎 柿原弘和 観世元伯
 
独鼓《鶴亀》 観世元伯
 
番外舞囃子《野守》  武田祥照
       杉信太郎 岡本はる奈 柿原弘和 観世元伯
       地謡 武田尚浩 小早川修 武田友志
           武田文志 佐川勝貴

番外能 《田村》 武田崇史
       ワキ 大日方寛 アイ 山本泰太郎
       一噌隆之 観世新九郎 柿原孝則
       後見 武田宗和 武田尚浩
       地謡 武田志房 松木千俊 藤波重彦 武田友志
           角幸二郎 武田文志 武田宗典 佐川勝貴





このブログで何度か書いているけど、武田祥照さんは宝生宗家・関根祥丸さんと並んで注目している若手シテ方さん。
九郎右衛門さんにも早くからその才能を見出され、来月の《翁》でも千歳を勤められます。
去年の番外舞囃子《三輪》で鳥肌が立ったので、今年も楽しみにうかがいました。


素謡《定家》のワキの謡をはじめ、シテの社中の方も、地謡も素晴らしく、脳内で舞台の情景がありありと浮かんでくる!
(舞良し、謡良し祥照さん、味方玄師の《定家》のときも見所(かな?)にいらしていたような……帰りにお見かけしました。)

舞囃子が始まるころにはほぼ満席の盛況ぶり。

囃子陣は神遊を再結成したような配役で、相変わらずカッコよく、息もぴったり。
大小鼓の間合いとか、とても勉強になる。
とくに最近、新九郎さんの鼓が好い、と思うことが多くなった気がする。


杉信太郎さんの笛は昨年末の「広忠の会」以来だけれど、森田流らしく好い具合にクセのある響きと独特の音色。
東西をまたにかけて活躍していらっしゃる超売れっ子笛方さんなのも納得です。


番外舞囃子《野守》 武田祥照
シテも囃子も地謡もとてもよかった!

岡本はる奈さんの小鼓も良い響き。
笛の信太郎さんは、盟友・祥照さんの舞台だからか最初緊張されてた様子だけれど、祥照さんと二人できっと将来、一流のシテ方さん・笛方さんコンビになりはるんでしょうね。

元伯師の舞働はいつもながらビシッ決まっていてタイトな音色。

シテの祥照さんは足拍子・謡とも迫力満点。
身体はまだ少し薄いけれど、凄まじい気迫です。
そして、とびっきり高さのある飛び返り3回。
一瞬、空中で止まったかと思うほど滞空時間が長く、そして美しい。

来月の千歳がほんとうに楽しみです。
(わたしも連休明けに九郎右衛門さんの舞台があるのを支えに、ハードなGWを乗り切ります!)



番外能 《田村》 武田崇史
祥照さんも去年3月に青翔会で舞われた《田村》。

弟の崇史さんは立ち姿がきれいなシテ方さん。
去年拝見した時にハコビが逆ムーンウォークっぽいと思ったのですが、今年はよりお能らしいハコビに。

前シテは朱色縫箔着付にグリーンの水衣というヴィヴィッドな色合わせ。
たぶん童子の面?
シテがスラリとしているので、同じくスラッとしたワキの大日方さんと名所教えの時に仲良く並ぶと現代的でフォトジェニック、絵になるお二人です。
シテは下居姿も美しく、舞台映えします。

後場はカケリで、柿原孝則さんの前のめりの大鼓が炸裂。
舞いもキリッと清々しく、良い意味で若さの際立つ颯爽とした勝修羅の舞台でした。










2016年3月28日月曜日

第一回東京合同発表会 すはま会

2016年3月26日(土) 10時~17時  矢来能楽堂

番外仕舞《猩々》 林喜右衛門
  地謡 林宗一郎 河村晴久 河村晴道 味方團
      田茂井廣道 松野浩行 河村浩太郎 樹下千慧

(ほかに仕舞、素謡、独吟、独調など盛りだくさん)



2時ごろの仕舞《定家》から拝見しました。

こういう社中会は東京で林一門の芸を拝見できる貴重な機会。
社中会にうかがうのはこれで3度目くらいなので、
ようやく門下の方々のお顔とお名前が一致してきたかも。
(人の顔と名前を覚えるのが不得手なのです……。)


リニューアルした矢来は初めて。座席のあいだが広くなってスッキリ。
こども教室の発表もあってチビッコたちが元気に走り回っていたのですが、わたしの席の前をお子さんたちが追いかけっこをしながら通り抜けても、こちらが足先をひょいと座席の下に引っ込めれば、ぶつかることなくスルリと通れるくらい。
矢来のシックでレトロな雰囲気はそのままで心地良く鑑賞できるので、うまく設計されているなーと感心したものです。


で、肝心の社中会。
社中の方々、皆さんレベルが高くて、曲に集中しつつ楽しみながら舞っていらっしゃるのが伝わってきました。


そして何よりも、林一門の地謡が味わい深い。
矢来なので音響の良さも相まって、その清澄で華やかな謡いに
うっとりと聴き惚れる、聴き惚れる……。


同じ京観世でも、片山家とは少し趣きが異なるのですね。
幽雪師時代の片山家の謡は存じ上げないのですが、
当代九郎右衛門さんの謡はどちらかというと幽雪師よりも、
(CDなどで聴く)八世銕之丞の謡いに近いようにわたしには感じられます。
それに九郎右衛門さんは東京で地謡に入る機会も多いので、
東京観世流の謡が大分混じっているように思うのですが、
林一門の謡は、わたしがイメージする「ザ・京観世」の謡い。
祇園白川の宵桜、水面に花びらがはらはらと舞う風情なのです。

(あくまで京都の観世流のことをあまり知らない人間の独断と偏見ですので、
トンチンカンな感想でもご容赦を。)


そんなわけで林一門の香しい謡を存分に堪能したあとは、
お待ちかねの喜右衛門師の番外仕舞。


肩の力が抜けた、洗練の極みのような舞姿はどこか万三郎師を思わせる。

もちろんそれぞれ芸風は異なるけれど、
喜右衛門師も万三郎師と同様、
感情を過剰に表現したり、物語を説明的に演じたりするようなクドさがない。

純度の高い抽象的な舞。
世阿弥のいう、閑花風に入る芸境といえばいいのか。
銀の椀に雪を積む、白雪のような輝き。


喜右衛門師のお能は拝見したことがないので、ぜひ観てみたい。





2016年2月29日月曜日

矢車会

2016年2月20日(土) 11時~17時15分  国立能楽堂
                  観世流太鼓方宗家社中会
番外連調《金札》
舞囃子
《高砂》   シテ 坂井音雅
《吉野天人》   高橋弘
《小塩》     上田公威
《弓八幡・五段》 坂井音晴
《巻絹・神楽留》 梅若玄祥
  笛  藤田次郎/一噌庸二
  小鼓 鵜澤洋太郎/大倉源次郎
  大鼓 安福光雄/柿原弘和

番外一調 
《唐船》 坂井音雅×小寺真佐人
《野守》 上田公威×田中達
《百萬》 中森貫太×麦谷暁夫
《春日龍神》 坂井音晴×林雄一郎

舞囃子 
《賀茂・素働》             観世恭秀
《遊行柳・青柳之舞・朽木留》木月孚行

独鼓《六浦》 坂真太郎
一調《山姥》 藤波重彦
   《西行桜》梅若玄祥

舞囃子
《阿漕》 中森貫太 待謡 森常好
《邯鄲バンシキ》藤波重孝
    大鼓 佃良勝

一調一管《雲林院》梅若玄祥×一噌仙幸
連調《呉服》全員社中の方
  《箱崎》観世元伯・御令嬢

番外一調《杜若》木月孚行×小寺佐七
    《松山鏡》坂井音隆×徳田宗久

舞囃子
《当麻・乏佐之走》観世喜正
      待謡 森常好
《梅》       関根祥六→休演
《養老・水波之伝》 浅見重好
《葛城・大和舞》  武田尚浩
《誓願寺》     角寛次朗
《三輪》      坂口貴信
《難波・五段》   坂井音隆
   笛  一噌仙幸/一噌隆之/寺井宏明
   小鼓 観世新九郎/幸清次郎
   大鼓 亀井忠雄/亀井広忠



今回、出演シテ方は全員観世流。
せっかくなので舞囃子については虚心坦懐に、
初めて能を観る外国人になった気持ちで鑑賞することにしました。


曲の内容や詞章の意味は気にせずに、
身体表現や体軸、腰の位置や重心のとり方、
演者から発せられる「気」とその圧力などにポイントを絞って拝見。


身体が細い、というか身体が薄いと、型の遠心力に振り回されて、
舞いの形がカクカクと角張った印象になりがちです。
重力波ではないけれど、ある程度の重力がないと
舞台の時空間に大きく作用して
観る者をグイグイ惹きつけるのは難しいのかもしれません。
(太りすぎも良くないので、
自分の骨格に合わせて身体をどうつくっていくかという問題もありますが。)


とはいえ、身体がスリムでも、
観世恭秀師や木月孚行師レベルになると腰が安定し身体が充実して、
体軸に沿って気がスーッと通っているため、型に振り回されることなく、
舞の輪郭がしなやか且つ、しっかりして美しい。



認識を新たにしたのが、中森貫太師の舞。
かんた先生については謡いに惹かれることのほうが多かったのですが、
この日は舞姿がほんとうに素晴らしく、訴求力の高さに圧倒されました



坂口貴信さんの舞も久しぶりに拝見したのですが、
さらにさらにグレードアップされていて、
おそらく外国の方が何の予備知識もなく鑑賞されたとしても、
何か神秘的でドラマティックなシーンが展開されているのが
伝わって感じるものがあったのではないでしょうか。
(優れた能役者の芸は言葉を超えて人を感動させるだけのパワーがあると思う。)
坂口さんの高い集中力と曲への没入感には味方玄師のそれを思わせるものがあります。


このほか一流の舞い手ばかりなので、どこで休憩を取るか悩む~。
分身の術を使えたらいいのに。



社中の方々も皆さん、下半身もフォームがしっかり安定していて、
どなたも素晴らしい演奏でした。

なかでも聴きごたえがあったのは《邯鄲バンシキ》と《養老・水波之伝》を打たれた方々。


《養老・水波之伝》は舞の囃子のなかでいちばん好きな曲で、
もしもわたしが太鼓を習っていたとしたら、
絶対に憧れて目標にしていたと思います。


その曲を、一流の方々を相手に堂々と打っていらっしゃって「凄い!」の一語に尽きます。
掛け声も良く通っていて、どれくらいお稽古をされているのだろう。
セミプロレベルでした。
舞台であれくらい打てたら気分爽快だろうなー。



とても勉強になった社中会でした。



2015年12月7日月曜日

東京達磨会~成田達志師社中会

2015年12月7日(月)  9時45分~17時半   川崎能楽堂

(以下の番組は11時半から拝見したもののみ掲載)

舞囃子《安宅》 片山九郎右衛門
         一噌隆之 社中の方 亀井洋佑
         地謡 観世喜正 味方玄 林宗一郎

舞囃子《井筒・段之序》 友枝雄人
          松田弘之 成田達志 社中の方
          地謡 友枝真也 大島輝久

居囃子《砧》    一噌隆之 社中の方 白坂信行
          シテ片山九郎右衛門 ツレ味方玄 河村晴道

舞囃子《山姥》 友枝雄人
          一噌隆之 社中の方 白坂信行 小寺眞佐人
          地謡 友枝真也 大島輝久

居囃子《三輪・白式神神楽》 松田弘之 社中の方 亀井洋佑 小寺眞佐人
           シテ片山九郎右衛門 味方玄 林宗一郎

  
一調《玉之段》  辰巳和麿  社中の方

居囃子《卒塔婆小町》   松田弘之 社中の方 松田弘之
          シテ片山九郎右衛門 ワキ河村晴道 味方玄

舞囃子《桜川》   観世喜正
            一噌隆之 社中の方 亀井洋佑
            河村晴道 味方玄 林宗一郎

舞囃子《歌占》     味方玄
              松田弘之 社中の方 白坂信行
              片山九郎右衛門 河村晴道 林宗一郎

舞囃子《弱法師》    林宗一郎
             河村晴道 味方玄 観世喜正

舞囃子《砧》    櫻間金記
           松田弘之 社中の方 白坂信行
           本田光洋 本田布由樹

舞囃子《天鼓・盤渉》   味方玄
            松田弘之 社中の方 白坂信行 小寺眞佐人
            観世喜正 河村晴道 林宗一郎

舞囃子《清経》    河村晴道
            松田弘之 社中の方 白坂信行
            片山九郎右衛門 味方玄 観世喜正

舞囃子《融》     味方玄
             松田弘之 社中の方 白坂信行 小寺眞佐人
             片山九郎右衛門 観世喜正 林宗一郎

番外一調《柏崎・道行》   本田光洋    成田達志



はじめてうかがった川崎能楽堂とナリタツさんの社中会。
能楽研究者のお弟子さんも何名かいらっしゃって、皆さん素晴らしく、
聴きごたえありました。

京観世好きにはたまらないとっても幸せな一日でした。
京観世以外でも、大好きなシテ方さんたちの舞と謡を心ゆくまで堪能しました。

神遊最終公演のチケット争奪戦に参戦してから電車に飛び乗ったので途中から拝見。
九郎右衛門さんの舞囃子にギリギリ間に合ってよかった!
(大島さんの舞囃子は逃してしまった (T_T))

九郎右衛門さんはちょっと風邪気味っぽかったので心配です……。
どうか、どうかご自愛くださいませ。
九郎右衛門さんの舞囃子は一番しかなかったけれど、
地頭で謡いをたくさん拝聴できたので大満足。
土曜日の《殺生石・白頭》、楽しみにしています。


それにしても、成田さんの番組企画のセンスは素晴らしい!
片山家といえば《砧》と《三輪・白式神神楽》、喜多流といえば《井筒》と、それぞれの家や流儀が大切にしている曲を舞囃子・居囃子にするという豪華さ。

それに、最後の舞囃子では地謡に、片山家・林家・矢来観世家の当主・次期当主が並ぶという贅沢ぶり。
こういう組み合わせって、三響會以外ではなかなか拝見できない。

さらに、東京に拠点を置く観世・宝生・喜多・金春の四流派の夢の競演も、ありそうでなかなかない。

この「ありそうで、なかなかない」という取り合わせを実現しちゃうのが成田達志師の人脈と企画力。
だから、だから、TTR東京公演もぜひぜひ実現させてください!!


友枝雄人さんはたぶん、初めて拝見するけれど、舞囃子《井筒》は地謡の巧さと相まって感動的でした。

この社中会では舞囃子も居囃子も、東京の通常のものよりも長めで、それを一流の舞い手と謡い手が担うので、どれも能一番を拝見したような内容の濃さと充実感。


とくに、京観世による居囃子《三輪・白式神神楽》は、もう凄まじいほどの迫力で、
見ている側の身体が自然と反応してガクガク震えるほど。
地謡三人(片山九郎右衛門 味方玄 林宗一郎)だけなのに、
まるで謡のオーケストラを聴いているようなダイナミックな重厚感。

謡の力によって神代の壮大なドラマが時空を超えて能舞台に出現する。
その謡のパワーに圧倒され、全身が共振して、細胞のひとつひとつが躍動するような感覚。

この一番だけで、サンタさんから早めのクリスマスプレゼントをもらったような幸せな気分♪



宝生流から一人だけ参加した辰巳和麿さんの一調《玉之段》もよかった。
和麿さん、謡もうまいなー。



東京観世(そういう言葉があるのかしら?)から一人だけ参加の観世喜正さん。
巧くて、舞姿も美しく、謡いも抜群にうまい。好きなシテ方さんのひとり。
だけど、肩の力が抜けすぎて見えることが、かえって仇になっているのではないかと最近思うことがある。
技術的には申し分ない。
ただ、きれい、美しい、そつがない、という印象だけで終わってしまうのだ。




味方玄さんの舞は一年ぶりに拝見するけれど、この方、ほんとに凄いですね。
身体能力が最高級レベルなのはもちろんのこと、気の込め方と集中力が尋常でないほど並はずれている。
直面は完全に能面化していて、まばたきひとつしないし、
《歌占》舞囃子の冒頭は、かなり長い間、地謡前に下居しているのだけれど、
この時、味方さんはほとんど仏像化・無生物化していて、見事なまでに微動だにせず、
内面では膨大な量の気が充満しているのが感じられる。

この方は人気があまりにも高すぎて、こちらが引いてしまうことがあるけれど、人気の高さは実力の高さにしっかりと裏打ちされている。
認めます、納得です、別格です、凄い人です。



片山家と林家の違いがいちばん良く分かるのが、河村晴道さん。
林喜右衛門の端正で品格のある芸系を忠実に受け継いでいらっしゃる。
全体的に姿形がスラリとしているのも林一門の特徴。


林宗一郎さんでいつも思うのは、口がほとんど開いていないし、口元の筋肉も全然動いていないのように見えるのに、謡いがうまいし声量も非常にボリュームがあるということ。
完全に腹式の謡用の発声なのだろう。



最後の番外一調
やっぱり成田達志さんの小鼓、好きだなあ。
心地良い豊かでふくよかな音色と響き。
そして、あの幸流独特の色っぽい掛け声。
とくにナリタツさんの掛け声には女性の嗚咽のような、何ともいえない哀調と情念を帯びた色気がある。
いつまでも、いつまでも、聴いていたかった……。






2015年10月31日土曜日

府中青嵐会 三十五周年記念会~河村晴道師会

2015年10月31日(土)  9時45分~17時50分   セルリアンタワー能楽堂

番外仕舞《高砂》  樹下千慧
    《田村キリ》河村浩太郎

舞囃子《難波》《敦盛・二段之舞》《須磨源氏クツロギ》
      藤田六郎兵衛 吉阪一郎 河村大 小寺眞佐人

能《猩々》シテ社中の方、ワキ殿田謙吉
      藤田六郎兵衛 吉阪一郎 河村大 小寺眞佐人

素謡《道成寺》シテ社中の方、林宗一郎
       河村和貴 河村和晃 茂山良暢

舞囃子 《山姥・立廻》 《江口》 《船弁慶・後》
      藤田六郎兵衛 吉阪一郎 河村大 小寺眞佐人

番外仕舞《井筒》林喜右衛門
    《殺生石》林宗一郎

番囃子《楊貴妃》 宝生欣哉
    藤田六郎兵衛 吉阪一郎 河村大 

番外仕舞《国栖キリ》  河村紀仁

舞囃子《右近・破之舞》《松風》《砧・後》
     藤田六郎兵衛 吉阪一郎 河村大 小寺眞佐人

番外仕舞《松虫キリ》   河村晴久
    《班女・舞アト》 河村和重

番外能《羽衣・彩色之伝》 シテ河村晴道 ワキ宝生欣哉
        藤田六郎兵衛 吉阪一郎 河村大 小寺眞佐人
        後見 味方團 川口晃平
        地頭 林喜右衛門
附祝言



とっても楽しみにしていた河村晴道師の社中会。
地謡はもとより囃子方も笛・大小鼓を名古屋・京都から呼び寄せるという贅沢さ。
見所は終始ほぼ満席の盛況ぶりでした。

スタートは、樹下千慧さんと河村浩太郎さんの番外仕舞から。
去年の東西合同研究発表会で舞囃子を拝見した時から気になっていたお二人。
樹下さんは去年よりもさらに身体の芯が強化されてしなやかさが増し、
浩太郎さんも力強さがアップして、それぞれに見る者を惹きつける魅力的な舞だった。

この年代がめきめきと着実に芸を磨いているのが何よりも素晴らしい。



独吟を挟んで舞囃子3番。
この日のお囃子は藤田六郎兵衛師、吉阪一郎師、河村大師、小寺真佐人師だけで
舞囃子9番、能2番、番囃子1番を勤めるという相当ハードなもの。
とくに笛と大鼓はヘロヘロになってたんじゃないかなー。

とはいえ、東京でこのメンバーで拝見するということはめったにないので
見る側としては大変有り難い。

とりわけ河村大師は、映像以外では初めて拝見するので興味津々。
石井流大鼓自体、初めてかもしれない。
化粧調べを膝の後ろに垂らすところは高安流に似ている。

打ち方は、葛野流の忠雄氏のようにドライブを効かせて打つのではなく、
かといって、高安流の柿原師のように腕を真っ直ぐに伸ばして
鼓に吸い込まれるように打つのでもなく、
手のひらを前後にひらひらしならせて打つ。
もしくは大倉流の山本哲也師のように、お仕置き系というか、
お尻ペンペンするような打ち方も時折見られるが、
これは同じ地域で活動するうちに自然に受ける影響の結果かもしれない。
手組については分からないけれど、石井流独特の手もいろいろあるのだろう。

打音は高安流・葛野流に比べて角のとれたソフトな音色。
掛け声は、下顎を大きく下に引いて出す、
どこか引き延ばすような粘りのある掛け声だけれど、これは石井流というよりも
河村大師独特のものかもしれない。


さて、能《猩々》や素謡《道成寺》を経て、林父子の番外仕舞。
喜右衛門・宗一郎父子に注目したのは、ちょうど観能を始めた2年前に宝生能楽堂で開かれた社中会で喜右衛門・宗一郎による番外舞囃子《乱・双之舞》を拝見したときから。
相舞なのにゴーイングマイウェイ的な、それぞれの個性、カラー、テンポが際立つ舞いっぷりと、「不調和の美」ともいうべき不思議な魅力に衝撃を受けたのだった。

仕舞《井筒》 林喜右衛門
これほど哀切を帯びた、陰影の奥深い《井筒》を見たのは初めて。
「しぼめる花の色なうて匂ひ残りて」で
スローモーションのようにゆっくりと下居し、扇で顔を隠す。
その一瞬ごとに、色彩がしだいに薄れてモノクロの世界に変わってゆくよう。
花も女もやがて萎れて色褪せてゆく、
とらえどころのない美のうつろいや儚さが表現された仕舞だった。


仕舞《殺生石》 林宗一郎
宗一郎師は、東西合わせてシテ方三十代部門で群を抜いていると思う。

一言でいうと「凄い!」。
隙や気のゆるみというものがまったくない。
ダイナミックで見事なフォームの飛び返りをしても呼吸がまったく乱れない。
鋭利な名刀のような切れ味の芸の技。
将来名人になる人って、おそらくこういう人なのだろう。
格や次元がまるで違う。
以前、坂口貴信之會で観世流の若手シテ方10人が仕舞を舞ったのだけれど、
その中で宗一郎さんと関根祥丸さんだけは別格だった。
(国立能楽堂主催の公演もこういう実力のある若手をもっと出してほしい。)


番外能《羽衣・彩色之伝》
初めて拝見する河村晴道師の番外能。こちらも楽しみにしていました。

ワキは宝生欣哉師。 ワキツレは連れずに一人で登場。
一声と名乗りの後、(時間短縮のため?)下歌・上歌はカットして、橋掛りの欄干に掛けてあった美しい衣を発見、持ち帰って家宝にしようとします。

そこへ揚幕の中から「のうその衣はこなたのにて候」という声。
「それは天人の衣とて」でようやく幕の中から姿を現したシテは、
後光が射しているようなそれはそれは美しい天女でした。

シテの晴道師は細身で背が高いので、朱地藤模様縫箔を腰巻のモギドウ出立の胸に
補正をいっぱい詰めたその姿は、ボン・キュッ・ボンのグラマーな八頭身の現代風天女。
面の増女もシテのスリムな体格に合う、目鼻立ちのはっきりした超美形。

白蓮の天冠をつけているため余計に背が高く見え、
髻を高く結いあげた、少女のように可憐で美しい鞍馬寺の定慶作・聖観音に似ていて、
うっとりと見入ってしまう。

とはいえ、お能では縦長体型でなおかつ天冠をつけていると、
遠心力が働いて重心が取りづらく、身体のバランスが時折若干崩れがちだった。
(おそらく疲労もあったのかも。アウェイでの大規模社中会の最後に自身がシテとなって
能1番を舞うというのは並大抵の気力・体力ではないと思う。ただただ、敬服!)

物着(後見の團さんは装束付けが上手い)の後、
シテはプラチナカラーの立涌地紋舞衣姿となり、クリ・サシ・クセは抜いてさっそく序ノ舞。
艶やかな舞姿に、六郎兵衛師の盤渉序ノ舞が冴える。
その後、橋掛りでイロエ。

地謡も本会全体を通じて強吟・弱吟ともに味わい深く(情感豊かな弱吟はとりわけ秀逸)、
モデルさんのように容姿の美しい21世紀型の天女を堪能。
京観世・林一門のレヴェルの高さをあらためて実感しました。

社中の方々も皆さんお上手で、舞囃子《松風》と《砧》を舞われた方はとくに素晴らしかった。
素敵な社中会を拝見させていただきありがとうございました。


追記:大鼓の河村大師を初めて拝見すると書いたけれど、
拙ブログを検索してみると、京都観世会館で拝見済みだった。
九郎右衛門さんに意識が集中しすぎて、他がまったく見えていなかったみたい……。


2015年9月20日日曜日

柿原繁蔵十三回忌追善囃子会

2015年9月20日(日) 10~19時  国立能楽堂

番外連調《海士キリ》 柿原崇志 柿原弘和 柿原光博 柿原孝則
             松田弘之 大倉源次郎 桜井均

番外一調《江口》    梅若玄祥 白坂信行

番外能《猩々乱》シテ武田尚浩 ワキ殿田謙吉
         一噌隆之 曽和正博 柿原孝則(披キ)観世元伯
         後見 野村四郎 藤波重彦
         地謡 浅見重好 小早川修 馬野正基
            長山桂三 坂井音隆 武田祥照

舞囃子出演シテ方・狂言方(出演順)
 観世喜正、坂真太郎、山本泰太郎、広島栄理子、佐藤双早子、桑田貴志
 坂井音雅、佐久間二郎、遠藤喜久、小倉健太郎、藤波重彦、角当直隆
 佐野登、横井徹、野村四郎、山崎正道、馬野正基、長山桂三、坂井音隆
 浅見重好、武田祥照、坂井音晴



柿原ファミリー総出演のお祭りのような囃子方社中会。
思い出の写真入りの豪華な番組に記された「御挨拶」によると、
柿原繁蔵師は崇志師の父(弘和師・光博師の祖父)で、
趣味で能楽を始めて、五人の子を育てながら安福春雄師に師事、
やがて職分となり、高安流大鼓方として福岡で活動したとのこと。

つまり、能楽界での4代にわたる柿原家の繁栄の礎を築いた方らしい。

柿原家は、古くから代々続く大鼓方の家系だと思っていたので意外だった。
それから、同じく高安流大鼓方の白坂信行・保行師は弘和師の従兄弟だそうです。
これも知らなかった。
柿原家囃子方の人々が九州男児の血を引いているというのも分かる気がする。

ロビーには花々で飾られた、大鼓を打つ繁蔵師のお写真が。
手を合わせてから隣のテーブルを見ると、
崇志師が日本芸術院恩賜賞を受賞した際のご家族のアルバムも公開されていて、
追善会だけれど、御先祖孝行の心のこもったおめでたい会なのが伝わってくる。


《三番三》 山本泰太郎
舞囃子の前半の見どころは、なんといっても三番三。
山本泰太郎さんが汗びっしょりの熱演で、
たぶん汗が目の中に入って痛いだろうけど、泰太郎さんは瞬きひとつせず、
全身全霊で、神への祈りを込めるように勤めていらっしゃった。
高いカラス飛びに、集団をエクスタシーに導く昂揚感のある鈴の段のラスト。

社中の方の披きでしたが、揉み出しがかっこいい!
わたしもエア大鼓で揉み出しにチャレンジしたことがあるけれど、
情けないことにすぐに筋肉痛になってしまう。 
(とはいえ、エア大鼓でもストレス解消になって気分スッキリ。)



以下は、印象に残った舞囃子のメモ。(柿原ファミリーの番外連調には間に合わず)

《班女》 桑田貴志    深みのある謡。

《蝉丸》 坂井音雅    表現力豊かで情景が目に浮かぶよう。
音雅師のお能は去年《玉鬘》を拝見したきりだけれど、芸をさらに深化させたように思った。要チェックのシテ方さんだ。
      

《龍田》 遠藤喜久  とにかくきれい。以前に拝見した時よりも心惹かれるものがあった。

《船弁慶・前》 小倉健太郎  だいぶ痩せて体型がすっきり。
      先月の薪能で地謡を休演されていたけれど、そのことと関係があるのだろうか。

《砧・後》 藤波重彦  地謡 梅若玄祥、山崎正道、馬野正基
    シテももちろん良かったのですが、やっぱり凄い、地謡のこのメンバー!
    まさしくお能を見ているみたいに心をガンガン揺さぶってくる。
    非常に濃厚で充実した舞囃子だった。


《野守》  馬野正基
      飛び返り3回くらいされたんじゃないかな。
      しかも、高さと飛距離のあるクオリティの高い飛び返り。
                今度はお能で見てみたい。


《巻絹》  長山桂三
    長山桂三さんは何度か拝見してるし上手い人とは思っていたけれど、
    今までは比較的ニュートラルな感想しか抱いていなかった。
    でも、この日はなんというか、それまで強烈な睡魔に襲われていたのに
    それが一気に吹き飛んで、目が舞台に釘付けに。
          間の取り方や緩急の付け方、重心の置き方などがどことなく関西風で
    わたしの好み(神楽などでは関西的な部分が出やすいのかも)。
    舞うごとに空気が清浄になっていくような、厳かで魅力的な舞だった。
    
 


《野宮・合掌留》 浅見重好
     不覚にも休憩を取ってしまって途中から拝見。
     素晴らしかった。この方、女面をかけるとすごい美人になりそう。
     お能で浅見師の《野宮》を観てみたい。


《春栄》 武田祥照
 前にも書いたかもしれないけれど、武田祥照さんは関根祥丸さんとともに
 観世流二十代部門で大注目しているシテ方さん(どちらも非凡)。
 舞もきれいだし、そして何よりも謡がとびっきりうまい!
 九郎右衛門さんや味方玄さんの目にも早速とまって、
 すでに舞台を何度か御一緒されている。
 今度は九郎右衛門さんのツレで《松風》か《蝉丸》をやってほしい、もちろん東京で!


番外能《猩々乱》
  柿原孝則さんの披き。 おめでとうございます!
  (後見に控える弘和パパは歳の離れたお兄さんのように見えるけど、
   美しく端座する姿からは威厳のオーラ。とっても貫禄があった。)

  孝則さんの大鼓ははつらつとしていて、披きにふさわしいフレッシュ感。
  そして何よりも彼の凄い点は小鼓や太鼓と合わせるべき時に音のずれがなく、
  決めるべきポイントは必ずきっちり決めるところ。
  他の囃子の呼吸と合わせたり、
  地謡やシテの息使い、舞台の気の流れをつかんだりするのは
  通常ならば並大抵のことではないのだろうけれど、
  さすがは鼓の家で生まれ育った人、本能的にそれが分かるのかもしれない。
  (たぶん、天性の才能もあるのだろう。)

 追善と新しい門出、良いお社中会でした。






  

2015年7月30日木曜日

裕月会

2015年7月30日(木) 11時~18時    国立能楽堂

番外独鼓  《羽衣》  松山隆之  清水和音
        《高砂》  鵜澤光    飯冨孔明

番外素囃子 《天女之舞》
       竹市学 田邊恭資 原岡一之 梶谷英樹

舞囃子
  《鶴亀》 梅若紀長→梅若万三郎 
       一噌康二 社中の方 高野彰  吉谷潔
  《熊坂》 山中迓晶 
       竹市学 社中の方 安福光雄 梶谷英樹
  《羽衣》 北浪貴裕
        一噌康二 社中の方 原岡一之 梶谷英樹
  《定家》 清水寛二
        竹市学  社中の方 安福光雄 

(休憩)
能 《橋弁慶》 シテ 武田文志  トモ 佐川勝貴
      アイ 野村又三郎 野口隆行
      笛 帆足正規 小鼓 社中の方 大鼓 大倉栄太郎
      後見 松木千俊 坂井音晴

(休憩)
番外舞囃子 《石橋・獅子》  馬野正基
           竹市学 大山容子 原岡一之 吉谷潔

独鈷(小鼓は社中の方)
   《鵜之段》  佐久間二郎
   《松虫》    山中一馬
   《敦盛》    宇高竜成
   《融》      工藤寛

舞囃子
   《百万》   坂井音晴
          帆足正規 社中の方 高野彰 吉谷潔
   《二人静》  鵜澤久  鵜澤光
          一噌康二 社中の方 高野彰
   《当麻》   岡久広
          竹市学 社中の方 安福光雄 吉谷潔

独鈷
   《巴》     辰巳満次郎
   《蝉丸》    前田親子
   《半蔀》    津村禮次郎
   《笠之段》   高橋章


舞囃子  《邯鄲》  浅見慈一
            竹市学 社中の方 安福光雄 吉谷潔
       《三井寺》 津村禮次郎
             一噌康二 社中の方 安福光雄
       《歌占》  松木千俊
              一噌康二 社中の方 高野彰

番外一調   《善知鳥》 観世銕之丞   大倉源次郎
         《勧進帳》 岡久広      古賀裕己

(地謡出演シテ方)
佐川勝貴 桑田貴志 小島英明 伊藤嘉章 長谷川晴彦 長山桂三 
佐久間二郎 松山隆之 浅見慈一 馬野正基 観世銕之丞 清水義也 
北浪貴裕 藤波重孝 下平克宏 岡久広 上田公威 鵜澤久 山中迓晶 
清水寛二 津村禮次郎 坂井音晴 鵜澤光





能楽公演の少ない渇いた真夏に恵みの雨ような小鼓方・古賀裕己師の社中会。

舞囃子のシテ方では麻の紋付き率が高く、見所の女性客では紗の着物率が高かった。
目で涼を感じる日本人ならでは。
暑い夏を楽しもう!

盛りだくさんだったので、印象に残ったことなどを以下にメモ。


舞囃子《鶴亀》
近眼なので見間違いかと思ったけれど、
舞台にいらっしゃるのはどう見ても梅若紀長師ではなく万三郎さん。
代役(?)なのかしら。
(うれしいサプライズだけれど、紀長師、どうされたのだろう。)
光源氏が年を重ねたらこんなふうに舞うのかと思わせる典雅な舞姿。
生まれや育ちからして常人と違うような気がする。

一噌康二師も復帰されていてひと安心。


舞囃子《熊坂》
迓晶さん、キレのある長刀さばき。
激しい動きの中にも華やかな品があり、好みの芸風です。



舞囃子《羽衣》
北浪師、ふわりとまとった真っ白な麻の紋付きは羽衣を思わせ、清々しい天女だった。


能《橋弁慶》
シテの武田文志さん、一段とグレードアップされていて、
素人の子方さん相手の難しい役をうまくこなされていた。
又三郎さんの存在感の大きい間狂言も面白い!

そして個人的に大注目は、京都森田流笛方の帆足正規(ほあしまさのり)師。
おそらく80代だと思うけれど、高齢でこれほど姿勢のきれいな囃子方を見たことがない。
肺活量もそれほど衰えず、ややかすれ気味のヒシギを除けば美しい音色。
プロフィールを拝見すると、貞光義次に師事したとのことだけれど、芸系がよく分からない。
田中一次系でもないし、強いて言うと、京都の杉家と東京の寺井家を足して二で割って、
プラスαで何かを加えて、何かをさらに引いたような?
とにかく、現在の東京でよく聴く笛方では近い人はいない。
京大出身で狂言作家でもあるという異色の笛方さん。
中谷明師もたしか東大出身だったかな。
森田流には異色の笛方がいらっしゃるのですね。
東京ではめったに聴けないので、貴重な体験でした。



番外舞囃子《石橋・獅子》
大好きな笛方・太鼓方が抜きんでた《獅子》。
元伯ファンがこんなことを言ってはなんだけど、
こと《獅子》(石橋)に関しては、
笛は藤田流、太鼓は金春流がより華やかでダイナミックになると思う。
竹市さんの笛はシャープでエッジが効いてて、ただただ、かっこいい!

露ノ手の小鼓の静謐な間が美しかった。


独鼓
前半・後半合わせると、四流が出そろった豪華な独鼓。
利き酒ならぬ、「利き謡」を堪能した。

《鵜之段》の佐久間二郎師、うまいですね!
九皐会系というか、観世喜之・喜正系の少し鼻にかかったような独特の謡。

金春流の《松虫》。語尾が少し伸びるようなところが特徴的なのかな。


金剛流の《敦盛》。
宇高竜成師、上手い! 凄すぎる!

思いを須磨の山里のかかるところに住居して
須磨人になりはつる一門の果てぞかなしき

聴き惚れてジーンとくる。
彼の謡から発せられる一言一句が透明な珠のように美しく、
それがひとつひとつ響きながら弾けて、《敦盛》の世界を丁寧に描きだしてゆく。
若いのに、恐るべき実力派。
京都だけでなく、ぜひぜひ、東京でも公演をしてください!



満次郎さんの《巴》と《笠之段》(高橋師と連吟)。
やっぱりこの人の謡はいい!
一時期ちょっと離れていたけれど、また満次郎さんの舞台を拝見しようと思った。


舞囃子《二人静》
鵜澤母子の相舞。
ふつう、若い人のほうが早くなってしまうのに、
こんなにそろった相舞見たことない、っていうくらいそろっていた。
こうやって相舞のお稽古をしながら、師匠の間の取り方や緩急のつけ方を
身体で覚えていくのかしら。



舞囃子《邯鄲》
クリームイエローの麻の紋付に若草色の袴という爽やかな出立の浅見慈一さん。
吉谷&竹市コンビが冴える、冴える!
ただ、盧生が夢から覚める前後の拍子が急転するところが
社中の方には難しかったようで、テンポが遅れて、プロの囃子方と合わず、
吉谷さんがしきりに社中の方のほうを見ながら打ってらっしゃったのが印象的だった。



番外一調
銕之丞氏の大迫力の気合の入った熱唱。
源次郎さんの音色のクオリティが高い!
やはり別格です。

初めて聴く古賀裕己さんの一調。
性格のまっすぐな方なのでしょうか、力みや衒いのないまっすぐな鼓。
心に響く掛け声と岡久広師の渋みのある謡が響き合う……。


楽しい社中会、ありがとうございました!




2015年6月29日月曜日

佳名会・佳広会

2015年6月27日(土) 10~18時   国立能楽堂

【出演シテ方:舞囃子出演順】
和久荘太郎
坂口貴信
片山九郎右衛門
谷本健吾
辰巳満次郎
川口晃平
木月孚行
朝倉俊樹
亀井保雄
観世銕之丞
観世喜正
山崎正道
高橋章
梅若紀彰
梅若玄祥
観世清和
浅井文義
大坪喜美雄

【囃子方:出演順】
一噌隆之
飯田清一
金春國直
鵜澤洋太郎
藤田六郎兵衛
杉信太朗
観世新九郎
幸正昭
観世元伯
大倉源次郎
亀井俊一
松田弘之
亀井広忠

田中傳左衛門
田中傳次郎



卒倒しそうなくらい絢爛豪華な社中会。
まさにシテ方の競演、素人の方々もとてもうまく、たいへん見応えがあった。

なかでも、九郎右衛門さんと紀彰さん。
犬王と世阿弥の立合もかくやらんと思うほどの凄まじくも美しい対決で、
思わず身を乗り出しそうになってしまう。

お二人とも季節先取りで絽の紋付をお召になっていて、
紀彰さんは地謡の時は黒紋付、舞囃子の時は《邯鄲》と《安宅・延年之舞》の時とでそれぞれ違う趣味の好い色紋付袴をお召になっていた。

そして、お二人とも舞囃子2番を舞われたのだけれど、
ともに2番目の、紀彰さんの《安宅》と九郎右衛門さんの《歌占》が最高に素晴らしく
(気迫みなぎる延年之舞と鬼気迫る地獄の曲舞、見事な技の連続に背筋がゾクゾクした)、
いずれも能1番を拝見したような充実感・大満足感。

この二人の舞台はなるべく見ておきたい。
とりあえず、来月の銕仙会と梅若会が楽しみ!!


観世宗家は明らかに社中会モードで、脱力した舞。
玄人会の「これぞ!」という舞台の時と、気の放出量がぜんぜん違う(笑)。
社中会に御出演される時は、きれいだけれど、どこか放心したような感じになるのですね。


囃子方で印象に残ったのは、金春國直さん。
この半年間で長足の進歩を遂げられて、そうそうたるメンバーの中で堂々と、御家元らしい風格を漂わせながら演奏していらっしゃった。
なんだか感無量。
(わたしも國直さんと同じ年のころに父を亡くしたので、よけいに感慨深いのかもしれない。)


それにしても九郎右衛門さん、忙しすぎじゃないかな。
この日もとんぼ返りで翌日は京都観世会館で《采女》のシテ、
その次の日は京都能楽養成会発表会の監督(?)。
そして次の週末は、東京の観世会で《西行桜》のシテ。
さらにその週の金曜日は銕仙会で《是界》のシテ。
その次の週末は大津で《蝉丸》のシテ。
それぞれの舞台の合間に、素人玄人弟子と御子息のお稽古、地方の小中学校巡業、各理事のお仕事、そしてご自分のお稽古……。
うーん、ファンとしてはお身体が心配です。
九郎右衛門さんはどんな舞台でも(社中会の地謡でも)全力投球されるし、
そこがいいところで、そのひたむきな姿に憧れ、惹かれるのだけれど。









2015年6月17日水曜日

鼓調会

目眩がするほど豪華な社中会。
(以下はメモ)

囃子方社中会の舞囃子は、観能歴の浅い私にとって「動くカタログ」のようなもの。
初めて拝見する方もいらっしゃったので、公演を選ぶ際の参考になる。

舞囃子でとりわけ印象に残ったシテ方さん(敬称略)。

浅見重好
北浪貴裕
中村邦生
長島茂
武田尚浩
武田志房
関根知孝

特に武田志房師の《砧》(後)は、地謡・お囃子ともに素晴らしく、感動で鳥肌が立った。


さて、大注目の能《道成寺》。
大鼓を打たれる社中の方は、たしか去年、元伯さんの矢車会で観世家元を相手に能《巻絹》で太鼓を打たれた方。
その数年前には山本東次郎師を相手に、三番叟の大鼓も打ったというスーパー素人さん。

舞台度胸もあって、そうそうたる顔ぶれの中でも堂々とされていて、
実力・財力・体力の三拍子がこれだけそろった方もそういない。

私のような縁もゆかりもない一般庶民にもお土産(道成寺にちなんで龍村の鱗権太夫文経錦。魔除けになるのだそう)までいただいて忝い。

《道成寺》のお囃子は、神遊の囃子方メンバーを1人入れ替えたような構成。
その中で、社中の方はほんとうに素晴らしい演奏で、通常は掛け声がネックになるのだが、女性でこれだけ気迫のこもった掛け声を出せる人も稀だと思う。
(手も相当痛いと思うし)

他のメンバーも気合が入っていて、
今までノーマークだった新九郎さん、
だてに観世新九郎を名乗っているわけじゃないって実感。

元伯さんはお弟子さんが隣で熱演されているせいか、ほとんど神憑っていて、人間業とは思えないイノリの太鼓。
ビリビリとした強力な呪力を感じさせる表現力。
前日の青翔会で玄人弟子の澤田さんの太鼓を褒めたばかりだけれど、弟子が向上すれば、師匠はさらに高みに昇る。
追う者と追われる者の相乗効果を見た気がした。

シテの岡久広師も、前場の登場から蛇というか、爬虫類を感じさせる不気味なハコビで、この方も良い意味でそれまでの印象を覆してくれた。

2015年5月12日火曜日

父 幽雪を偲んで 幽謳会春季大会

                          
2015年5月10日10時始 京都観世会館  (素謡《半蔀》から拝見)

番外独吟 《松虫》クセ  片山九郎右衛門

仕舞・連吟・独吟など

10時45分頃  
素謡 《杜若》、《半蔀》
仕舞 《龍田》

12時頃
舞囃子 《羽衣》、《西行桜》、《藤戸》、《花筐》
 出演囃子方 杉市和 曽和尚靖(鼓堂) 河村大 前川光長
連吟   《井筒》クセ

13時30分頃
素謡 《隅田川》   武田大志    
    《正尊》  義経 橋本忠樹  姉和 梅田嘉宏

連吟 《杜若》

15時頃
舞囃子 《砧》、《山姥》、《唐船》、《融》替之型

番外仕舞 《江口》   片山九郎右衛門


                
                

土曜日に実家の用事で帰省したので、翌日、京都観世会館へ。

玄関ロビーには祭壇が設けられ、笑顔の幽雪さんの遺影に花が添えられていた。
お焼香をあげ、手を合わせると、亡くなられたという実感が込み上げてくる。
この能楽堂を見守る神さんになりはったんやなぁ……。


観能歴の浅い私は、幽雪さんの舞台をごくわずかしか拝見していない。
昨年5月の国立能楽堂企画公演での仕舞《砧》とテアトル・ノウの舞囃子《三笑》だけ。
それでも幽雪さんの存在感とそこから発散される凄まじい「気」は、
胸に深く刻まれています。


             
この日も、幽雪さんの愛した《砧》の砧の段を、九郎右衛門さんと味方玄さんが
地謡後列に並んで、師匠に手向けるように謡っていらっしゃった。
                      

「蘇武が旅寝は」から「いざいざ衣うとうよ」までは強めに熱く謡いあげ、
そこからしだいに謡い鎮めて、
「月の色、風の気色、影に置く霜までも」は幽かに、やさしく、
「ほろほろ、はらはらはらと……」のところは抑制を効かせた謡い。
感傷的になりすぎない謡いが、かえって見る者の心に沁みる。


主催者の九郎右衛門さんは当然ながら出ずっぱりで、
連吟以外はすべて地頭として出ていらっしゃったのだけれど、
どの曲も九郎右衛門さんの声がはっきりと聞き分けられるほど声量豊かに、
まっすぐな心で(時々顔を真っ赤にしながら)謡っていらっしゃるのが伝わってきた。

幽雪さんに捧げるために天まで届くよう、
一曲一曲、全力投球していらっしゃるのだろうか。
           
こちらも居ずまいを正して、一曲一曲、噛みしめるように味わう。
どこか切なく、芳しい味わい。



先月、Eテレで放送された《吉野琴》でツレをされた梅田嘉宏さんは
ハコビと所作が美しく、私が注目していた能楽師さん。
この日の素謡《正尊》でもツレの姉和をされていて、謡いがとても素晴らしく、
いつか御舞台を拝見したいと思った。


お社中の方々も皆さんレベルがとても高くて、扇の扱いや謡いはもちろん、
何もしていない時の佇まいが美しく、品がある。
御高齢の方は姿勢がやや屈み気味でも、
うねりのある繊細な枝ぶりのような趣を醸していて素敵だった。


そして、幽雪さんへの献花となった最後の番外仕舞《江口》。

白い袴に着替えて切戸口から現れた九郎右衛門さんは、白象に乗る普賢菩薩そのもの。
装束や面はつけなくても、肉体の生々しさは消えて、この世ならぬ存在となり、
握りしめた左手の強さだけが、彼がまだ人間であることを伝えている。

胸が締めつけられるような哀調の漂う優美な舞姿。
舞い終えた時の、九郎右衛門さんの名状しがたい表情が忘れられない。


思へば仮の宿に心とむなと人をだに諌めし我なり
        
これまでなりや帰るとて
すなはち普賢菩薩と現はれ舟は白象となりつつ
               
光とともに白妙の白雲に打ち乗りて
西の空に行き給ふ
          
有り難くぞ覚ゆる
        
有り難くこそは覚ゆれ