2016年10月19日水曜日

第十一回 青翔会~能《八島》

2016年10月18日(火) 13時~16時10分  国立能楽堂

舞囃子《羽衣》シテ岩松由実 
 鹿取希世 飯冨孔明 大倉慶乃助 姥浦理沙
 地謡 深津洋子 柏崎真由子 村岡聖美
    林美佐 安達裕香

舞囃子《小督》シテ佐藤陽
 小野寺竜一 清水和音 柿原孝則
 地謡 佐々木多門 塩津圭介 佐藤寛泰 谷友矩

舞囃子《春日龍神》シテ関根祥丸
 高村裕 岡本はる奈 柿原孝則 澤田晃良
 地謡 山階彌右衛門 観世芳伸 角幸二郎
    木月宣行 杉浦悠一朗

狂言《柿山伏》シテ山伏 上杉啓太 
   アド畑主 野村虎之介 後見 能村晶人
   高村裕 岡本はる奈 柿原孝則 澤田晃良

能《八島》シテ老翁/義経 辰巳大二郎 
  ツレ男 金井賢郎 ワキ矢野昌平 
  ワキツレ村瀬提 村瀬慧 アイ河野佑紀
  熊本俊太郎 曽和伊喜夫 亀井洋佑
  後見 和久荘太郎 今井泰行
  地謡 辰巳満次郎 高橋亘 東川尚史 亀井雄二
     内藤飛能 當山淳司 金森隆晋 金野泰大





今回からプログラムの内容が変更され、以前は出演者全員のプロフィールが掲載されていたのが研究生・研修生のみとなり、舞囃子・能のシテのプロフィールさえ載っていないのでちょっと不便。



舞囃子《羽衣》
そんなわけで初めて拝見する笛方・鹿取希世さんのことが分からなくて、耳で聴いて推測。
一噌流でないのは確実なので、あの強い吹き込みはたぶん藤田流かな?、と思ってあとで調べたらやっぱり藤田流でした。

太鼓の姥浦さんがうまくなられていた。
ひと粒ひと粒が丁寧で、掛け声も好い。
(プロの中堅でも撥皮を度々はずす方がいらっしゃるから、ひと粒ひと粒を丁寧に意識を集中させて打つという姿勢はほんとうに大事だと思う。)

飯冨さんももちろんうまく、囃子全体を慶乃助さんがリードされていて、このあたりはさすが。

シテは足をかける時のねじり方がスムーズで切れ目がなくきれい。
女流だけで構成される地謡。
節も金春流独特の節なので、いちばん聴きなれている観世の《羽衣》とは別の曲のよう。



舞囃子《小督》
シテの佐藤陽さんは初めて拝見するけれど、緩急のつけ方がうまくて、舞囃子《羽衣》ではお囃子のほうにばかり目がいっていた観客たちも、シテの舞に集中していた様子。
わたしも惹き込まれました。

シテはおそらく内心では緊張されているのだろうけれど、それが顔に出ないタイプ。
(演者の緊張が伝わると見所も息苦しくなるので、それだけで得だと思う。)
ベビーフェイスでお公家さんのようにポワンとした雰囲気を持ちつつ、無駄な力みがなく舞っていらっしゃるように見えた。




舞囃子《春日龍神》
まったく目が離せない!
やっぱり凄い、祥丸さん、ダントツにうまい。
というか、「うまい」という言葉では括れない、弛みというものがまったくない次元の異なる隙のなさ。

とくに足拍子の時など、体型がこれだけ細長いと普通は遠心力に負けて、上半身が若干不安定になったり、腰の重心が定まらなかったりするものだけれど、素晴らしい腰の強さで軸のブレが一切なく、最上級の鋼のように強靭にしてしなやか。

そして、舞にどことなく陰翳があるのも祥丸さんならではの大きな魅力。


飛び返りは飛んでいる時の高さや滞空時間ももちろん大切だけれど、いちばん大事なのは着地した時に姿勢をビシッと決めたまま、少しもブレずに不動でいること。
着地時の静止状態の美しさが命。
九郎右衛門さんや紀彰さんの飛び返りがそう。
(若手では林宗一郎さんや武田祥照さん。)
この日の祥丸さんのも、そういう飛び返りだった。




狂言《柿山伏》
シテの上杉さんが憎めないキャラでかわいかった。



能《八島》
シテ・ツレともに宝生流若手のうまい方々なので楽しみにしていました。
(辰巳大二郎さん、独立されたのでしょうか。「サラメシ」には出ていなかったような。)

前場は、シテとツレの掛け合いなど同時に橋掛りや舞台に立つことが多いため、どうしても比較になってしまうのだけれど、

ツレの金井賢郎さんは体軸・下半身ともに充実していて、姿勢が美しく、とりわけ静止した時の佇まいがずっしりと安定している。


それにたいして、細身の大二郎さんは丹田の重心のあたりにやや薄さを感じてしまう。
とはいえ、この日の大二郎さんの良さはなんといっても謡だった。

外見を良い意味で裏切るような、面をかけてもよく通る、独特の渋みのある謡が、朝倉尉の面と溶け合いながら、春の海辺の情景を美しく描いてゆく。

後場で床几に掛かって仕方話をするところも、この謡が効いていて、激しい合戦の様子を頭に描きやすかった。

曽和伊喜夫さんの打音がきれい。
亀井洋佑さんがキャリアの差を見せつける貫禄と風格。


そしてなによりもこの舞台でよかったのが、河野さんの間狂言。
衒いのないまっすぐで誠実な語りで、聞いている側もすんなりと語りの世界に入っていける。
よけいな「自我」(変にもったいぶったところ)のないところが、今のこの方の間狂言の持ち味だと思った。




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