第三回 紀彰の会《半蔀・立花供養》前場からのつづき
日本刺繍講師の鍔本寛子氏が制作した前シテ装束 (紀彰の会チラシより) |
能《半蔀・立花供養》シテ梅若紀彰
ワキ森常好 アイ山本東次郎
杉信太朗 大倉源次郎 亀井広忠
後見 梅若長左衛門 山中迓晶 松山隆之
地謡 梅若玄祥 松山隆雄 山崎正道 小田切康陽
【後場】
〈後シテ登場〉
後シテは前場と同じ面に、夕顔の蔓に見立てたような金色の蔦模様をあしらった輝くばかりの白地長絹。
露は色大口と同じ黄蘗色。
全体的に花の精というよりも、白い花の女神のような気品のある神々しさを感じさせる。
ボッティチェリの描くフローラのような憂いを含んだ面影。
そして微かに狂気を秘めた、とらえどころのない艶やかさ。
シテは一の松に置かれた半蔀の作り物のなかでしばらく床几にかかったのち、「さらばと思ひ夕顔の」で立ち上がり、「草の半蔀押し上げて」で、右手にもった閉じた扇で半蔀を押し上げる所作をして、作り物から出て舞台へ。
〈クセ〉
源氏との思い出を語るクセのはじめ、シテはしばらく大小前に立ち続ける。
いつもながら紀彰師の静止の姿はまことに美しく、静止の状態も、能の舞の流れの一部であることを強く感じさせ、強力な磁場のように観る者を引き寄せる。
(静止の姿の美しさ・誘引力は、とりわけ芸の力に比例すると思う。)
「今も尊き御供養に」で、ワキに向かって下居合掌、
「(その時の思い出でられて)そぞろに濡るる袂かな」で、二度シオリ、
「(惟光を招き寄せ)あの花折れと宣へば」で、右手の扇で幕のほうを指す。
「源氏つくづくと御覧じて」から舞に入ってゆく。
〈序ノ舞〉
シテの舞う舞いそのものが、清らかな白い花の美の世界。
花の命の短さ、儚さ。
儚さゆえの一瞬のきらめき、輝き。
それらすべてが凝縮された優艶な序ノ舞。
舞の途中、三段目あたりでシテとワキが舞台の対角線上に向き合い、スーッと美しく二人揃って下居し、おごそかに合掌。
この能全体が、この日の舞台そのものが、立花供養という厳粛な儀式なのかもしれない。
夕顔の君は白い花の女神の仮の姿であって、
僧の供養に感謝して女神自身がこの世に降臨したようにわたしには思われた。
舞い終えたシテは半蔀のなかへ、そして花の世界へと還っていった。
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