2016年10月26日水曜日

東京青雲会~舞囃子《松尾》《山姥》・仕舞《杜若》・能《俊成忠度》

2016年10月26日(水)  14時~16時20分  宝生能楽堂

素謡《大江山》シテ金野泰大 ワキ田崎甫 ワキツレ木谷哲也
         地謡 金森良充 朝倉大輔

舞囃子《松尾》辰巳和麿
      地謡 佐野弘宜 金森隆晋 川瀬隆士 金井賢郎
   《山姥》内藤飛能
    地謡 藪克徳 金森良充 木谷哲也 田崎甫
    成田寛人 森貴史 柿原光博 大川典良

仕舞《善知鳥》 當山淳司
  《杜若キリ》川瀬隆士
  《是界》  金井賢郎
    地謡 辰巳大二郎 金森隆晋 金野泰大 上野能寛

能《俊成忠度》シテ武田伊左 俊成 今井基 トモ藤井秋雅
        ワキ森常太郎
        成田寛人 森貴史 柿原光博
     後見 朝倉大輔 佐野弘宜
     地謡 柏山聡子 内田朝陽 広島栄里子
        土屋周子 関直美 葛野りさ



宝生流は20~30代の本物の若手が熱い!
文字どおり、しのぎを削り合い、芸を磨き合う、白熱した青雲会。
今回はいつもにも増して全体的にレベルの高い舞台だった。


素謡《大江山》
素謡の並び方も流儀によって若干違っていて、
横一列に五人並んだ中央に、シテの金野さんではなく、金森良充さんが座るのは地頭だからだと途中から気づく。
宝生流の若手の謡は全体的に良く、とくにワキの田崎さんがバツグンにうまかった。

それにしても《大江山》って、どう考えても酒呑童子が可哀そう。
まつろわぬ民たちも酒呑童子のように、相手を歓待して酒宴を開いた際にだまし討ちにあったのだろう。この曲は、酒呑童子が象徴するまつろわぬ民への鎮魂歌なのかも。



舞囃子《松尾(まつのお)》
酒造神として有名な松尾大社を主題とした宝生流だけの現行曲。
どうして宝生流だけなのかな? たとえば京観世などは演能の要望があると思うのだけど。酒造メーカーが後援者だったりするし。
(要するに《高砂》の類曲というか、《高砂》の松尾大社ヴァージョンですね。)

シテの和麿さんがとにかくうまい!
新酒のようにスッキリした爽快な切れ味。
序破急のリズムとか、間の取り方とか、幼少期からの稽古の積み重ねもあるだろうけど、天性ものもあるのかもしれない。
謡いは満次郎さん譲りの深みのある声量で、謡っている時の表情も満次郎さんに似ていらっしゃっる。人気もうなぎのぼり。まちがいなく将来大物になる方だと思う。
(観世の関根祥丸さんに匹敵するのが宝生の辰巳和麿さん。)


舞囃子《山姥》
丁寧な舞のなかに静かな気迫がみなぎる。瞬きひとつしない高い集中力。
この方の山姥の迫力は外面的なものではなく、観る者に「命懸けの舞」と思わせるほどの凄みがじわじわと滲み出てくるようなそんな迫力だ。
とくに立廻り以降が素晴らしく、今現時点で出せるだけの渾身の力を尽くして舞っていらっしゃるのが伝わってきて、胸を打つものがあった。



仕舞《善知鳥》
うまい人だと思う。
血気盛んな荒武者のようなところが持ち味なのかな。



仕舞《杜若キリ》
川瀬さんは以前から注目していた方。
観ているうちに胸がじーんと熱くなり、身体が震え、涙があふれてきた。

まず舞う前の、立ち上がる瞬間からすでに杜若の精になっている!

すらりと伸びた杜若の花の精がじつに優雅に立ち上がる。
扇を持ち、腕を伸ばし、腕を広げて舞うその姿は、薄く透明な長絹を着けているよう。
透き通った薄紫の長絹の袖を翻すたびに、花の香りが漂い、女とも花ともつかない永遠の女神が幻影のように姿をあらわす。

「蝉の唐衣」で少し上を見上げ、そこから薄紫の杜若の精は白い光に包まれるように影が薄れ、数々の女の面影が花のイメージと重なりながら消えてゆく。

いつまでも観ていたいほど美しい仕舞だった。



仕舞《是界》
物凄く高い、攻めの飛び安座。
全体に力が若干入りすぎていた気がする。
ほんとうの実力は倍くらいある方ではないだろうか。

辰巳大二郎さん地頭の地謡がとても良かった!



能《俊成忠度》
まずは、角帽子を沙門付けにした僧形の俊成(今井基)と従者(藤井秋雅)が登場。
つづいてワキの岡部六弥太があらわれる。
常太郎さんは謡いもそうだけれど、「おまく」の掛け方もお父上そっくり。
秋雅さんがよく通る声で、六弥太とやり取りをする。

シテの武田伊佐さんは幕の出からいかにも貴公子の亡霊らしい優美な佇まい。
白大口にオレンジ色の厚板、肩脱した灰緑色の長絹が歌人としての忠度の繊細さを引き立てている。
面は今若だろうか。
中将よりも若い気がした。
シテは面使いも巧みで、身体と面が一体化している。

あの細い身体のどこにそんな力があるのかと思うほど、装束をつけた身体でしなやかに舞い、たくみに袖を巻き上げ、翻す。

カケリも決まって、修羅道での修羅王VS帝釈天・梵天の激しいバトルが始まるシテ謡「あれご覧ぜよ修羅王の……」ところも女流らしい声の質をのぞけば迫力のある謡。


うまい女流の方はこういう貴公子物がいちばん合う気がする。






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