2017年1月1日日曜日

白洲正子ときもの展

2016年12月27日-2017年1月16日    松屋銀座



お年賀と正月飾りを買うついでに8階の特別展へ。
(年の瀬だったのでデパ地下は激混みだったけど、展覧会場は人影もまばら♪)


7歳から50歳まで能を習っていた白洲正子。
観る側と演る側の、二つの視点をあわせもつ彼女が書いた数々の能楽関連書は、
能楽師や研究者の書いたものとはひと味もふた味も違っていて、
わたしのような素人にはとっても貴重。
それに、何よりも面白く、読んでいてワクワクする。


本展覧会では、戦時中、白洲正子が師匠である二世梅若実から、
「先生の私物ではない、日本の国のためです」と言って預かり、
鶴川の武相荘に疎開させた江戸期の能装束なども展示されていた。


おそらくこれらの装束のなかには、
維新後のあの激動期に東京に残り、能楽界に残った能役者たちが、
風呂敷を揚幕代わりに使いながら、必死の思いで演能を続けた時や、
震災で焼失した厩橋の舞台を再建した際に使ったものもあるのだろうか。


擦り切れた能装束には、当時の能役者たちの情熱や汗や
血のにじむような思いが沁み込んでいるようで感慨深い。


会場を入るとまず目についたのが、
正子の舞台写真とともに展示されていた黒地紬金擦箔吹き寄せ文着物。

単衣の黒い紬の裾と袖にぼかし技法を使った金の擦箔で
枯葉や毬栗の文様が施された豪華でシックな一枚。

渋い紬で舞囃子を舞うというセンスが、いかにも白洲正子らしい。




鶴見和子が、志村ふくみとの対談集『いのちを纏う――色・織・きものの思想』で、
着物という形なきものに形を与えているのは姿勢であり、
姿に勢いがなければ、着物は着られない、
姿勢の訓練をするには能が一番いい、
というようなことを言っていたが、これにはまったく同感。

姿に勢いのある着姿の典型が、白洲正子のきもの姿だと思う。

一見、無造作に着ているようだけれど、
普通の人なら似合わないような色柄の着物でもあれだけスッキリと着こなせるのは、
子供のころから稽古によって鍛えてきた姿勢の美しさ、体幹の強さ、
身体に沁みついた立ち居振る舞い、
そして何よりも、彼女の潔い生きざまがあってのことだろう。


着物の着こなしって、年を重ねれば重ねるほど、
その人の意志の力や生きざま、性格や人間性が反映される。

篠田桃紅さんも、着姿自体が彼女の作品であり、
そこに彼女の生き方そのものがおのずと映し出されている。


さてさて、展覧会のメインは
白洲正子が銀座に構えた染織工芸の店「こうげい」で扱った着物たち。

どれも、織と染の技術の粋が凝らされた渋い着物ばかりで、
工芸の「用の美」と同じく、
着れば着るほど独特の味わいが出るざっくりとした紬の作品が多い。

ほんとうは鑑賞するのではなく、
実際に身につけ、身体に触れて楽しむものなのだろう。

個人的には、梅原龍三郎夫人が買い求めたという田島隆夫作・紬格子文着物の、
深い藍と青に心惹かれた。






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