2019年3月21日(木) 京都観世会館
体調を崩していたため家で休養すべきか迷ったが、少しでもお能の空気に触れたくて、味方玄さんの社中会にお邪魔した。
長居はできなかったけれども、行ってよかった。
片山九郎右衛門さんの番外仕舞《網之段》。
桜川の水を扇で汲み上げる型は、わが子の魂を手の中に集めるような愛おしげな所作。
水面に浮かぶ桜の花びらが扇の中でゆらゆら揺らめき、陽光を反射する水の透明感がシテの顔に明るく映っている。
水の質感、実体感がたしかに感じられる。
このリアリティがあるからこそ、桜子の母の情感と、そこに込めた世阿弥の美意識がひしひしと伝わってくる。
能《海士》のシテを舞われた社中の方も素晴らしく、とりわけ玉之段が見応えがあった。
そして、圧巻は舞囃子《融・舞返》!
杉信太朗さん、成田達志さん、白坂信行さん、前川光範さんのお囃子が超絶カッコいい!!
もう完全に、ロック! これぞ、ロック! アグレッシブな、攻めロック!
とくに早舞から急テンポの急ノ舞に転じるところ、
成田達志さんの小鼓が冴え渡り、前川光範さんの早打ちが炸裂し、ビシビシッと凄まじい「気」が舞台全体に充満する。
そこへ、九郎右衛門さん、味方玄さんたちの地謡が、まるで獅子のような迫力で覆いかかる!
最高の能楽師さんたちから発せられる最高の「気」が、ビシビシッと鍼のように飛んできて、ツボの経絡に次々と突き刺さる。
しびれるような電流が走り、足元から鳥肌が立った。
やっぱりお能は、「気」の芸術なのだ。
最高のパフォーマンスに遭遇すると、身体がおのずと反応する。
分泌されるホルモンや神経伝達物質が変化して、心と体のバランスが整ってくる。
難しい意味なんか分からなくてもいい、言語の壁なんか関係ない。
主客の「気」が交流すれば、身体そのものが変化する。
大事なのは「気」、技術と表現力をともなった「気」なのだ。
成田奏さんの小鼓も聴きたかったし、味方ファミリーの番外仕舞も拝見したかったけれど、もうこれが限界。後ろ髪を引かれる思いで、会場を後にした
でも、大好きな能楽師さんたちから良い「気」をいただいたおかげで、いろいろあって心身ともに弱り切っていたわたしも、少し前向きになれた気がする。
幸せな気分で白川沿いを歩いていると、なんと、水車稲荷さんが無くなっているではないですか!
ここは、明治期に琵琶湖疏水から水を引いて水車を回した竹中製麦所の水車用水路跡。この水路の安全祈願のために祀られたのが、水車稲荷(三谷稲荷社)だったという。
こんなに無残に祠が撤去されたのを見たのははじめてなので、ショック。
隣接する家屋の建て替えか何かで、どこかに移転されただけならいいけれど。
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