2018年10月12日金曜日

梅若実トークレクチャー勉強会

2018年10月11日(木)18時~19時30分 大阪商工信用金庫本店内2階ホール

拝見した梅若家秘蔵の江戸初期の唐織
1.梅若家と能
2.公演記録映像
  世界遺産で舞う「永遠に咲く花のごとく」上賀茂神社
  《ボレロ》 梅若六郎×マリア・プリセツカヤ×藤間勘十郎
  エピダウロス古代劇場・新作能《冥府行~ネキア》
3.梅若家秘蔵の装束披露



梅若実師のトークは初めて。お話、映像、秘蔵の装束、どれもが素晴らしく、とても貴重な機会でした。会場内は後援会と信用金庫の方々がほとんどで、前方の席は若いビジネスパーソンが多く、能楽講座というよりも、なんとなくセミナーっぽい雰囲気。


【梅若家と能】
まずは、梅若実師のお話から。印象に残ったことをざっと書き出していくと;

梅若家の起源は丹波猿楽までさかのぼり、戦国時代は織田信長に、武士として能を教えていたが、丹波はもともと明智家の領地で、明智家とのつながりが強く、本能寺の変の際にも、梅若太夫は光秀とともに信長を討ったという(本能寺の変の直前に徳川家康をもてなすための饗応の宴で舞ったのも梅若太夫だったが、このとき光秀が何らかの失態を犯し、光秀とともに梅若太夫も信長の不興を買ったらしい)。

本能寺の変で重傷を負った梅若太夫は、丹波に引き返すが、その子息で「妙音太夫」と呼ばれるほど謡の名手だった梅若九郎右衛門玄祥が徳川家康の寵愛を受け、梅若家中興の祖となる。しかし、初世玄祥は観世太夫を立てて、自らはナンバー2に徹したという。

ここで、時代は一挙に飛んで明治時代のお話へ。

(維新後の梅若家の奮闘・活躍は周知のとおりなので、拙ブログでは省くけれど、あの激動の時代を駆け抜けた初世・梅若実の波乱万丈の人生を四世梅若実師から直接うかがうのは、なにかちょっと、胸が熱くなるような体験だった。
初世梅若実が奔走して、岩倉具視邸で明治天皇の天覧を賜った行幸啓能の際に、宝生九郎を推挙し、実自身は「影の存在」となって能を盛り立てたというお話がとりわけ印象深く、また初世実にはお弟子さんが1000人もいたという話も驚異的。
「……それだけ人間的に魅力的な人だったのでしょう」とおっしゃった当代実師の感慨深げな表情が心に残った。)



【公演記録映像】
2本を抜粋で見せていただいたのですが、これが凄かった!
まずは、梅若六郎時代にマリア・プリセツカヤと、御子息の藤間勘十郎さんとともに上賀茂神社で舞った《ボレロ》。
梅若六郎師が「鷹」役で、紋付袴の上に鳥の羽をつけ、羽根を持って舞い、藤間勘十郎さんが「蝶」の役で紋付袴の上から黄色い舞衣をまとい、プリセツカヤが「桜」役で黒いパンツスーツの上から長絹を羽織ってダンス。

お能らしい静的な舞を舞う六郎師と、バレエの動的で華やかなダンスを舞うマリア・プリセツカヤとの橋渡しをするのが、「能とバレエの中間を行く表現」で舞った藤間勘十郎さん。

勘十郎さんはほんとうに才能のある方なんですね。
マリア・プリセツカヤと二人で舞うところなど、ため息もの。桜の花に胡蝶が戯れるような美しさ。
勘十郎さんが能楽師だったらどんなに素敵だろうと、思わず想像してしまう。

なによりも驚異的だったのは、このときマリア・プリセツカヤがすでに80歳を過ぎていたこと! 彼女の年齢を聞いて会場の誰もが驚いたと思うけれど、姿もダンスもあまりにも美しすぎて、人間であることのあらゆる限界を超越していて、奇蹟のような存在だった。まさに桜の妖精のように、花びらがはらりはらりと散るように、夢のようにはかなく、しなやかに舞っていた。

三人ともほとんど即興で舞っていらっしゃるんだけれど、能とバレエと日舞という三人三様の舞が、一瞬ごとに変化しながら、上賀茂神社という神聖な空間に溶け込み、三人の呼吸と場の空気が心地よい調和を生み出している。
映像を見ているだけで、幸せだった。。。。


2本目は、エピダウロス古代劇場・新作能《冥府行~ネキア》。
こちらは時間の都合でほんの少ししか観れなかったけれど、1万人以上の観衆を前にした一大ページェント。50メートルもの長い橋掛りや広大な古代劇場を巧みに生かした演出だ。イタリアの演出家との意見の相違が度重なり、なんども休止になりそうになったという。大変なご苦労の末、壮大な舞台が生み出された。
映像を見ているだけでも、そのスケールの大きさは圧巻。
これは梅若実師と敏腕プロデューサーの西尾智子さんだからこそ実現したのでしょう。




【梅若家秘蔵の装束披露】
今回は上の画像に紹介した400年前の唐織の名品を見せていただいた。
縫い目はほつれているけれど、江戸初期のものとは到底思えないほど、織や染色に艶やかな色香があり、みずみずしく輝いている。
こうした類まれな装束たちを梅若の名手たちはいつもじつに見事に着こなしていて、能楽師と装束が相思相愛の関係なのがこの唐織の色艶からも伝わってくる。




マリア・プリセツカヤ








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