狂言 《鍋八撥》 シテ鍋売り 野村万作
アド鞨鼓売り内藤連 小アド目代 岡聡史笛 八反田智子
後見 月崎春夫 中村修一
上演時間45分という質・量ともに大曲で祝言性の高い脇狂言《鍋八撥》。
能《望月》と同様、芸尽くしの狂言なのでとても楽しめました。
まず、小アドの目代(もくだい)が、新たに市を立てるので一番乗りした者を、市司(いちつかさ:市場の代表で、さまざまな特権が与えられる)にするというお触れを出します。
(目代役の岡聡史さんは笑い顔が地顔なので、羨ましいなーと思いつつ拝見する。)
真っ先に駆けつけたのは鞨鼓売りの男。
自分が一番乗りを果たしたことを確認すると、鞨鼓をくくりつけた棒を脇座におろして、夜が明けるまでのあいだ眠ることにします。
そこへ浅鍋売りの万作師が登場。
ドジョウ鍋に使うような底の浅い土鍋をそれはそれは大事そうに持っています。
(きっと割れやすいように作られているのでしょう。
途中で割れちゃったら大失敗だから慎重に慎重に)。
鍋売りは、鞨鼓売りに先を越されたことに気づきますが、相手が寝入っているのを幸いに、鞨鼓売りの前に陣取って、何食わぬ顔でひと寝入り。
やがて目が覚めた鞨鼓売りは当然ながら怒り爆発、二人が言い争っているところへ、目代が仲裁に入り、鞨鼓売りVS鍋売りの芸能バトルが始まります。
ならば、と鞨鼓売りの内藤さんが、シュンシュンシュンッとヌンチャクを振り回すように見事な手さばきで棒を振り回し、最後は脇でバシッと挟んで決めポーズ。
対する鍋売り・万作師は、棒を貸してほしいと鞨鼓売りに頼むがあっさり断られ、しかたなく鍋の耳に通した紐を持って鍋を、割れないように恐る恐るフリフリ。
大事な商売道具を振った鍋売りの心がけに免じて、この勝負は引き分けとなりました。
そこで、鞨鼓売りは、同じく商売道具の鞨鼓を腰につけて、鞨鼓を打ちながら足拍子を踏み、舞を舞います。
ここからは笛が入って、舞台は一段と華やかに。
狂言《鍋八撥》の鞨鼓の舞は、囃子(笛の譜)も舞も能の「鞨鼓」とはぜんぜん違って、軽快な感じ。
これはこれで面白く、見ごたえがある。
いっぽう鍋売りは、鞨鼓売りに貸してもらった撥で、さながらタヌキの腹鼓のように腹にくくりつけた浅鍋を打ちますが、鍋が割れそうになり慌てふためくありさま。
この情けなく滑稽な鍋売りの仕草と表情が絶妙。
ふと見ると、万作さんのお顔は汗でびっしょり。
巧みな間合いで長時間演じ続けるのは、体力・気力を相当消耗するのでしょうね。
(最後の鍋を割る場面では、ゼイゼイと息が切れていらっしゃった。)
それから二人はそれぞれ腹にくくりつけた鞨鼓と鍋を、鞨鼓売りは撥で、鍋売りは(鍋が割れないように)若枝の束で打ちながら、笛に合わせて舞を舞うのですが、鍋売りが鞨鼓売りの真似をしながらワンテンポ遅れて舞うところが笑いを誘います。
最後に、鞨鼓売りは水車返り(側転)をしながら舞台を横切り、そのまま橋掛りを渡って、揚幕の中へダイヴ。
曲芸師のような軽快な技に見所大拍手。
残された鍋売りは水車返りの真似をしようと、おずおずと横ばいになって、床をゴロゴロ転がっているうちにバキッと音が……。
起き上がってみると、腹に括りつけた浅鍋が粉々に割れていたので、鍋売りはひと言、「おおっ! 数が多なってめでたい!」
落語のオチのような最後でめでたしめでたし。
名人芸と若手狂言師の軽妙な芸の数々、堪能しました♪
碧風會《望月》につづく
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