2019年7月7日日曜日

七夕に京観世の謡を聴く ~伝統文化の源流に触れる

2019年7月7日(日)国立文楽劇場

第1部「朗読劇としての謡曲の魅力」
京観世の歴史など 吉浪壽晃
《高砂》の謡体験
素謡《井筒》シテ 吉浪壽晃
 ワキ 寺澤幸祐 寺澤拓海

第2部「劇としての能、夢幻能と現在能」
お囃子の解説と実演 MC 上田敦史

能《橋弁慶》シテ弁慶  吉浪壽晃
 子方牛若丸 吉浪絢音
 赤井要佑 上田敦史 森山泰幸
 寺澤幸祐 寺澤拓海



文楽劇場で能の公演はめずらしい。
「謡よし、舞よし」の京都観世の実力派・ 吉浪壽晃さんのイベント、とっても楽しかった!

冒頭、七夕にちなんだ《楊貴妃》の一節「その初秋の七日の夜、二星に誓ひしことの葉にも、天に在らば願はくば比翼の鳥とならん、地に在らば願はくは連理の枝とならんと誓ひし事を密に伝へよや、私語なれども今洩れそむる涙かな」を 吉浪壽晃さんが謡うと、会場がシーンと水を打ったように静まりかえる。
いい声……聴き惚れてしまう。

謡でグッと観客の心をつかんだあとは、吉浪さんによるお能や京観世の歴史などの解説。京観世の歴史が興味深かった。


江戸初期の観世太夫・九世左近身愛(黒雪)の甥が京都に隠居して、服部宗巴と名乗り、観世屋敷を拠点に素謡の教授をはじめる。このときの5人の弟子たち(岩井七郎右衛門・井上次郎右衛門・林喜右衛門・浅野太左衛門・薗九兵衛)が京観世五軒家と称され、立方である片山家のもと、地謡方を勤めるようになる。

五軒家で今も残っているのは、林喜右衛門家のみ。
現在の井上家は、五軒家の井上七郎右衛門家ではなく、薗家の親戚筋だった井上嘉介(嘉助?)が芸系を受け継ぎ、当代裕久師へ至ったもの。

岩井家の芸系は、門弟の大西家と大江家に継承された(大西家と大江家は京観世系だったんですね)。

しかし、大正昭和に入ると、観世流の全国統一の動きが加速され、京観世の謡はしだいに廃されてゆく。戦後になると継承者がなく、ほとんど消滅したという。

京観世の謡の特徴は、素謡としての自律性が強く、拍子よりは旋律と情感本位の謡だった点にある。また、「イロ」「アタリ」などの装飾的なフシを比較的重視し、ツヨ吟が現行謡よりも旋律的でヨワ吟に近かったという。
部分的な節扱いに宝生流および下掛りと同じ技法がみられ、吉浪さんが昔の京観世の謡のテープを聴いても、まるで他流の謡のように聴こえるとおっしゃっていた。

現在は、宗家系の謡に統一されたとはいえ、私などが聴くと、京都観世の謡は東京の観世流の謡とは違うように聴こえる。

とくに息づかい。
たとえば、片山九郎右衛門さんが地頭に入った時と、京都観世のみで構成される地謡とではずいぶん違う。

九郎右衛門さんの息づかいは東京の銕仙会風で、息づかいが力強い。息の強弱をはっきりと意識して歌っているのがよく分かる。いっぽう京都観世の地謡は、たおたおとした嫋やかな情感にあふれていて、息づかいは繊細でさりげない。

関東の荒々しい気候と坂東武者の気風が東京の謡に反映されているとすれば、京都の謡には、なだらかな山々に囲まれた穏やかな気候と公家や町人の和やかな気質が溶け込んでいる。


素謡《井筒》
吉浪さんのシテと、寺澤幸祐さんのワキ。
かねてから謡がうまいなぁと思っていたお二人の組み合わせ。とても素敵な《井筒》だった。井上門下の謡は自己主張がなく、純粋に美しい。ひたすら聴覚にやさしい謡だ。私は肩の力を抜いて美しい謡に身をゆだね、心地よさに浸りながら聴いていた。



お囃子の解説と実演
小鼓の上田敦史さんがMCをされていて、テンポのいい軽妙なトークに大爆笑。
たぶん、私が今まで聞いた囃子方さんのなかでいちばんトークがうまいんじゃないかな。副業でMCタレントをしてもいけるかも?

小ホールの最前列で観ていたので、めっちゃ至近距離でお囃子の演奏を拝見。
目にも耳にも、ド迫力!

ヒシギをこんなに近くで聴いたのもはじめて。隣の小鼓が難聴になったりするって聞いたことがあるけれど、納得するくらい、すごい音。鼓膜が破れるかと思った。
赤井要佑さんの笛、好きだから、間近で聴けて良かった。

あと、森山泰幸さんは観世流の大鼓方なんですね。
大鼓に観世流があるのをはじめて知った。たしか、東京にも京都にも大鼓方観世流はなかったと思う。大阪・奈良にしかないのだろうか? どういう歴史があって、現在、どういう人たちが大鼓方観世流なんだろう? 興味津々。いつか訊いてみたい。
ほかの大鼓の流儀とどう違うのか、ちょっと聴いただけでは分からないけれど、打ち方や掛け声など、上品な印象。観世流の太鼓と合いそう。



半能《橋弁慶》
吉浪さん、去年のチャリティー公演の《葵上》を観た時から注目していたけれど、やっぱり能の舞台もいい!
通常よりも狭い舞台なのに、薙刀さばきも鮮やかで、キレと品がある。ご息女・絢音さんとの立ち回りも息が合っていた。いつかじっくりお舞台を拝見したい。



こちらは、文楽劇場展示室の《勧進帳》の弁慶



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