2019年7月17日水曜日

囃子Labo Vol.5

2019年7月15日(月)京都府立文化芸術会館
京都府立文化芸術会館(1969年、富家宏泰設計)
オープニング《船弁慶》より
 早笛・舞働スペシャルメドレー

太鼓流派の比較 光範×井上

一調《野守》井上敬介×竜成

居囃子《安宅》
 信太朗 大和 渡部 光範

居囃子《石橋》
 信太朗 大輝 渡部 光範

〔メンバー〕杉信太朗、林大和、林大輝、渡部諭、前川光範 〔ゲスト〕井上敬介、金剛龍謹、宇髙竜成


初参加の囃子Labo、お囃子と謡の魅力がギュッと詰まった密度の濃~い内容で、楽しかった~!
その名のとおり、ほかでは体験できない実験的試みが満載。お囃子好きの私は興味津々で聴き入ってました。
スギシンさんの噛み噛みのMCも可愛くて、アットホームな和室のなか、至近距離で聴く囃子と謡の生演奏は最高!(囃子方さんたちの地声は聞いたことがなかったから、こういう声なのか~、という意外性も。)


【太鼓の流派の比較】
なかでも面白かったのが、太鼓の流派の比較。
あらためて比べてみると、へえ~、こんなに違いがあるんだ!と目からウロコの連続でした。
自分用の覚書として以下に違いを列挙すると(用語は曖昧です (;^_^A)

(1)バチの持ち方
観世:中指・薬指・小指の三本で持つ。スナップはあまり利かせない。
金春:親指・人差し指・中指の三本で持つ。

(2)バチの構え方
観世:両バチ均等にバチを構える
金春:右のバチは伏せて手のひらを下に向け、左のバチは起こして手のひらを上に向ける。

(3)ツケガシラ?
観世:カシラの前に「ツクツ」と打つ。
金春:「ツクツ」が入らない。

(4)オロシの掛け声が違う

(5)調べの掛け方や結び目
観世:縦締めを観客側、横結びを奏者のほうへ向ける。
金春:結び目を奏者のほうへ向ける。

(6)太鼓を横に立てておく時の撥革の向き
観世:外側に向ける
金春:奏者のほうへ向ける


と、こんな感じで、観世流の石井敬介さんと金春流の前川光範さんが実演を交えながら解説。
その後、「皆さんも打ってみましょう!」ということになり、全員でカシラの撥扱いをエア太鼓で練習したのですが、このエア太鼓、楽しすぎて、もっとやりたかったくらい。やっぱり、太鼓が好きだなぁ。

メモ:カシラを打つ時、観世流では左脇を締め(刀)、金春流では左脇を水平に上げる(弓)。



【太鼓+謡で観世・金春の太鼓比較】
次に、金剛流若宗家とタツシゲさんも加わり、光範さんと井上さんが《嵐山》を同時に打って、どれだけ二流派が違うのかを比較。
こうして聴くと、手組がずいぶん違う。全体的に金春のほうが手数が多い感じ?



【太鼓+謡+小鼓二丁で、太鼓の流派に合わせた時の小鼓の手組の比較】
太鼓が入ると、太鼓がお囃子を主導し、ほかのパートは太鼓の流派に合わせます。
そこで、太鼓の流派が違うと、小鼓の手組がどのように変化するのかを実験するべく、林大和・大輝兄弟が加わり、それぞれ観世流と金春流の太鼓に合わせて演奏。

観世・金春の太鼓と、太鼓それぞれに合わせた小鼓2丁が《鶴亀》を同時に演奏するのを聴いたのですが、なるほどー、小鼓の手組がかなり変わります。

おそらくシテ方の流儀が変わると、また違ってくるだろうし、お囃子・シテ方の流儀の違いや、曲によってはワキ方の流派の違いによって、いろんなヴァリエーションが生まれるのでしょう。それらをすべて把握して舞台に臨まなければならないなんて! 実際に聴いてみると、その凄さ、大変さをあらためて実感します。


一調《野守》
井上敬介さんとタツシゲさんの火花散るような熱い一調。

一調の前にお二人のお話があったのですが、井上敬介さんは恰幅といい、話し方といい、どことなく噺家さんっぽい雰囲気。
太鼓方観世流のお家元(元伯さんのお父様・元信師)が語ったというお話が興味深い。
それによると、終戦直後、少年だった元信師は、「これからは能の舞台なんてなくなるから、能の稽古はしなくていい」と言われ、一調のお稽古しかさせてもらえなかったとのこと。
のちに元信師は大鼓方の亀井俊雄(忠雄師のお父様)から太鼓を教わったと、元伯さんがインタビューで語っていらっしゃいましたが、その背景にはこういう事実があったんですね。



居囃子《安宅》
勧進帳+男舞の部分を中心に。
大小鼓の大和さんと渡部さんは、勧進帳(重い習物)の初役だそうです。
お二人ともめちゃくちゃ気合入ってました!
この日は演者全員が爽やかな白紋付だったのですが、その姿が、切腹を覚悟した白装束のサムライに見えたほど。
大鼓の渡部さんは、まるで短刀でハラを掻き切るように右腕を構え、脇に抱えた鼓を打っていて、鬼気迫るものがありました。
精悍な感じの大鼓方さん(師匠の谷口正壽さんが見守っていらっしゃっいました)。



居囃子《石橋》
シメは石橋。
お囃子も謡もエネルギッシュでかっこよかった!
露之拍子の小鼓が、まるで時間が止まったかのように「間」を長~くとったのが印象的(一瞬、忘れてるのかと思ってしまった (^-^;)。
上から落ちてくる露が谷底にたどり着くまでの長い時間。大輝さんがとった長い「間」が描いた、とほうもなく深い渓谷の気配。

次の土曜日に開かれる林木双会では、今度は大和さんが番外居囃子で《石橋》を打つ予定だそうです。こちらも楽しみ。



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