2018年7月27日金曜日

片山家・第二十二回能装束・能面展 ~継承の美~

2018年7月27日(金) 最高気温34℃ 京都文化博物館6階

「装束とか能面というのは、人格をもっているんです。
だから妙な着方をすると先輩に怒られました。役者と同等に扱ってもらってきたということです。その人たちの前の、良い舞台を作ってきた同志なんです。
ですから、人と同じようにケアもし、敬意も払い……ということで、ずっと残っているんだと思うんです。」

    ━━十世片山九郎右衛門(Eテレ「美の壺・西陣織」より)




週末は面白能楽館も片山定期能も用事で行けなくなったため、せめて能装束・能面展はと思い、初日の金曜日にブンパクへ。

この日は片山九郎右衛門さんが在廊されていて、貴重なお話をたくさんうかがうことができ、憧れの人を目の前にして緊張しつつも、夢見心地の幸せな時間だった。

それにしても、これだけの面・装束の名品をひろく一般に無料で公開し、しかも、超多忙なスケジュールを割いて、御当主みずからが解説してくださるなんて!
すばらしすぎる!!! 
京都では毎年のことかもしれないけれど、東京ではありえないほど贅沢なことである。
(片山家、ほんとにすごい!)


能面の展示は、九郎右衛門さんが「美女特集」とおっしゃるように、世阿弥時代の龍右衛門作・小姫(こひめ)から、小面、孫次郎、若女、節木増、増女、増髪、深井まで、妙齢の女面がずらりと勢ぞろい。

しかも、どれも舞台で実際によく使われる「現役バリバリ」の能面ばかりという。

やはり能面は使われてこそ、生きてくる。
ここに並べられた能面たちも、美術館所蔵のものに比べると、どことなく生き生きとして幸せそう。九郎右衛門さんに舞台で使用され、物語のヒロインとして精気を吹き込まれるなんて、女面冥利に尽きるではないか。

女面に混じって、ひとつだけ翁面が展示されていた。

見覚えがある気がして「これは、もしや!」と思い、尋ねてみると、やはりセルリアンタワー能楽堂15周年記念の《翁》で使われたオモテだった。
目尻がやや吊り上がった表情と、黒式尉のように黒い膚が特徴的な翁面だったが、その黒さは面本来の彩色ではなく、もとは白い翁面だったのが、雨乞いの神事などで使われるうちに表面の塗りが剥落して黒い漆地が出てきたのではないか、ということだった。
その証拠に、翁面のシワの部分には本来の肌色の彩色が残っていた。
雨乞いの神事で降った雨で色が落ちたということは、この翁面にはそれだけの効力(霊力)があるということになる。

作者不詳だが、室町前期のものとされるこの古面には、神事で使われるたびに、人々の祈りの念が幾層にも塗りこめられ、それがさらに翁面の霊力を高めているのだろう。
セルリアンタワーの時も九郎右衛門さんのパワーとの相乗効果で、忘れがたい《翁》となった。
8月のチャリティー公演では、いったいどんな《翁》が拝見できるのだろう。


装束の展示のなかにも、見覚えのあるものがあった。
「白地金鱗ニ団扇舞衣」
これは、直接ご本人に確認しなかったけれど、以前、豊田市能楽堂で《吉野琴》を舞われた際に、後シテに使用されたものではないだろうか。
(そして使用面は、もしかすると、この日展示されていた大和作の増女だったのかも。)



装束のなかには、ほんとうにボロボロだったものが、手間暇かけて丁寧に修復されたものも展示されていた。
つぎ足した布やほころびを塗った色とりどりの縫い目。
それはまるで焼き物の金継ぎのように、独特の風情や味わい、ぬくもりを感じさせ、片山家の人々の面・装束に対する思いや愛情が伝わってくるようだった。



「(面や装束は)良い舞台を作ってきた同志なんです。ですから、人と同じようにケアもし、敬意も払い……ということで、ずっと残っているんだと思うんです。」


九郎右衛門さんのこの言葉どおりのものが目の前にある。
数々の名品とともに、片山家の人々の熱く、深い思いに触れた面・装束展だった。



追記:用事を繰り下げたおかげで7月の片山定期能、行ってきました!
すごく良かった!!
今夜から遠方に出かけるので、感想は戻ってきた時にアップします。





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