2016年2月10日水曜日

旧雨の会 ~プレトーク、一調、仕舞

旧雨の会 ~序からのつづき

プレトーク「國和さんとの思い出」
     武田孝史 粟谷明生 森常好 観世銕之丞
     司会 辰巳満次郎
     特別出演 金春國直

(休憩15分)
 独鼓《蟻通》  武田文志×大川典良
一調 《笠之段》 櫻間右陣×大倉源次郎
一調 《葛城》  山井綱雄×梶谷英樹
一調 《鳥追》  辰巳満次郎×佃良勝
仕舞 《邯鄲・舞アト》 金井雄資
仕舞 《杜若・キリ》  朝倉俊樹
一調 《おかしき天狗》 山本則俊×観世元伯
一調 《土蜘蛛》    森常好×桜井均



前項で前置きが長くなりましたが、想像以上に充実した各演者渾身の公演でした!


プレトーク

中正面席に向いてずらりと床几が5つ並び、國和師と同年代の能楽師さんたちが思い出トーク。
國和師は稽古や舞台では厳しかったけれど、おっちょこちょいで早とちりしやすい性格だったらしい。

わたしの後ろの席の年配の女性がどなたかのお弟子さんらしく、終始大笑い。
(どうやら見所の大半は出演者のお弟子さんや関係者で占められている模様。お能の会はたいていそうだけれど、この日は特にそんな感じだった。)


これだけ流派や役柄の異なる人のトークを聞くのは珍しいんじゃないかなー。
45分の長さを感じさせない面白いトークでした。
(先輩方を相手にMCをなさった満次郎さん、けっこう独走・暴走する方もいらっしゃって大変そう (・・;) )

みなさん、こってりした個性派ぞろい。


この世代の方々は、《石橋》や《道成寺》などの重要な曲の披きを國和師の太鼓でされたそうで、思い出深いものがあったようです。


銕之丞師は國和師とともに《獅子》の披きをされた時に(当時2人は16歳!)、金春惣右衛門に何度もダメ出しをされて、申し合わせを3度もやり直したという忘れ難い経験をされたとのこと。


武田孝史師は、國和師と喧嘩したり仲直りしたりの「色々あった」間柄。
仲違いして半年くらい口をきかなかったこともあったとか。



能楽界の同年代って幼馴染のようなものだから、思い入れもひとしおなのでしょうね。



それと、國和師はここ何年か肩や腰を傷めていて、太鼓を締めるのもいつも國直さんが代わりにやっていらっしゃったそう。
(だから國直さんがいないと舞台に出られなかったとか。)

たしかに、金春流のフォームで長年打ち続けていると、肩に来ると思う。
床に長時間端座しつづけるのも驚異的だと思っていたけれど、やっぱり腰を傷めやすいみたい。

三島元太郎師のあの独特の打ち方は、肩を長持ちさせるために編み出されたものなのかも。



最後に、國直さんが揚幕からトコトコ登場して皆さんにご挨拶。

國直さんの(掛け声以外の)声は初めて聞くけれど、
江戸っ子らしく短気そうなお父様とは違って、おっとりした甘えん坊さんのイメージ(?)。
こういうタイプは意外に大物だったりする。



休憩をはさんで一調・仕舞のコーナー。
聴きごたえ・見ごたえがあって、これだけでもとても濃い内容。

独鼓《蟻通》
関東で活躍する金春流太鼓方のなかで、たぶんいちばん好きなのが大川師。
掛け声にもシビれるし、撥さばきもきれいで、演奏も安定している。

独鼓って、能の通りの手を打つものだと思っていたけれど、パンフレットの解説によると、金春流では決まった手組をそのまま打つ形式を「独調」といい、一部替手を打つ形式を「独鼓」というらしい。

そんなわけで、この《蟻通》でも、「鳥居の笠木に立ち隠れ……かき消すように失せにけり」の、通常は太鼓を打たない部分でも、太鼓の特別な手が入ります。

大川師の独鼓は、謡いの邪魔をしないというか、謡いを盛りたて、謡いの良さをさらに引き出す太鼓。
こういうところに打ち手の性格が反映される。



一調《笠之段》
櫻間右陣師の扇の扱いが美しい。
謡いも、金春流らしく伸びやかで、まろやか。
笠之段のリズムと相まって、わらべ歌のような味わい。
そのやさしい謡を繭のようにふんわりと包み込む源次郎師の小鼓。


一調《葛城》
なんというか、粘り気のある謡い。
とくに序の舞の前の「よしや吉野の山かずら」の部分が観世流とあまりにも節が違うので、
別の曲かと思うほど。




一調《鳥追》
観世流でいう《鳥追舟》の鳴子之段。
お能って、砧とか鳴り物とか、何かを打つ時に感情移入する場面が多いけれど、これもそのひとつで、満次郎師の謡いには人を強く惹きつける磁力がある。


仕舞《邯鄲・舞アト》
仕舞《杜若キリ》
どちらも良かった!
金井師らしい皇帝の風格、夢から醒める過程のドラマティックな展開。
朝倉俊樹師は一時不調なように思えたこともあったけれど、最近復活してきた気がする。
この《杜若》は初めてみた時の朝倉師の舞のようだった。



一調《おかしき天狗》
《大会》の間狂言の一部が独立した狂言小舞。

則俊×元伯で同曲一調の組み合わせは10年近く前に杉並能楽堂でも上演されたそう。

太鼓って狂言小舞では肩の撥は打たない決まりなのだろうか。
だからこの一調も派手さはなく、控えめでミニマルな太鼓。

いつも思うけれど、あれだけ余分な力が抜けていて、さりげなく見えるって凄い!




一調《土蜘蛛》
ワキ方下宝生と太鼓金春流では、《土蜘蛛》の一調は一子相伝の重い習いだそうです。
(ほかには《羅生門》《張良》が同レベルの重い習い。)

ワキの謡は「その時、独武者進み出で」から「土蜘蛛の首うち落とし喜び勇み都へとてこそ帰りけれ」まで。
太鼓は「彼の塚に向ひ大音あげていふやう」の終わりから構えて打ち、そこからカシラがたびたび入り、その合間にナガシや大撥など派手な手が何度も入り、常好師の美声とあいまってとにかく華やかで盛り上がる。
《おかしき天狗》の一調と対照的だった。


両流儀の特徴がよくあらわれた最後の二番。
これを企画した人ってセンスある!



旧雨の会 ~舞囃子《西行桜》《船弁慶》、半能《融・思立之出・舞返》につづく




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