夕闇せまる三菱一号館美術館 |
このところ寒かったので家に引きこもりがち。
最終日の午後に重い腰を上げて行ってきました。
予想通り、入場制限がかかっていて待ち時間30分。
なかに入ってもすっごい混雑。
この美術館は一室一室が狭いから前に進めず、けっこう大変です。
でも内容はとても良く、夢ねこの好きなムリーリョやルイス・デ・モラーレス、
グイド・レーニやデル・サルトの作品とも久しぶりに対面でき、
さらには名品を収集した歴代スペイン王の芸術への熱い思いも
伝わってくる見応えのある展覧会でした。
冬眠から覚めて行った甲斐があった!(笑)
ムリーリョ《ロザリオの聖母》1650-55年 |
Ⅰ 中世後期と初期ルネサンスにおける宗教と日常生活
《金細工工房の聖エリギウス》 1370年頃 テンペラ、板
作者はミゼリコルディアの聖母の画家(ピエロ・デッラ・フランチェスカか?)とされているが、ジョット風の画風に見えた。典型的な初期ルネサンス様式。
《聖母子と二人の天使》ハンス・メムリンク、1480-90年、油彩、板
一人の天使がヴァイオリンを奏で(ヴァイオリンはルネサンス期に誕生した当時最新の弦楽器)、もう一人の天使がヴァイオリンを左手に持ち、右手で幼子キリストに果実らしきものを捧げている。
天使と聖母子の間には、マリアのシンボルである白百合が咲き誇り、遠くの山々は空気遠近法で描かれたように青白く霞んでいる。
マリアの顔が斜視になっていて、あまりおごそかに見えないのが残念。
《愚者の石の除去》ヒエロニムス・ボス、1500-10年、油絵、板
当時は、頭の小石が成長すると愚者になると考えられていたとか。
(そもそも、お腹なら分かるけど、なぜ頭の中に小石ができるのだろう?)
偽医者が「お人よしの愚者」という名の患者の頭から石を取りだすふりをして、
チューリップを取りだすところを描いているのだが
(チューリップを頭から出すのも難しそうだけど)、
でも、こういう偽医者・藪医者・怪しげなヒーラーや教祖の類と
それにだまされる患者は、
ルネサンス期ならずとも現代にも一定の割合で存在し、
一定の間隔で報道されています。
悲しいかな、いつの世も、愚かで弱い人間の本質は変わらない。
他にもヘラルト・ダーフィットなど、初期フランドルは特有の細密描写に目眩がした。
Ⅱ マニエリスムの世紀:イタリアとスペイン
《洗礼者聖ヨハネと子羊》 アンドレア・デル・サルト、1510年、油彩、板
盛期ルネサンスにも分類されるデル・サルトの作品はもう少し洗練されたものが多いのに、
本作品はいまいちだった。
《十字架を背負うキリスト》 ティツィアーノ、1565年、油彩、カンヴァス
衣服やひげはヴェネツィア派らしい粗いタッチ。
しかし、顔などの重要な箇所は筆跡を残さない緻密なタッチで、
的確に肌の質感を捉えている。
充血した目からは一滴の涙。
《聖母子》ルイス・デ・モラーレス、1565年、油彩、板
幼子を見つめる憂いに満ちたまなざし。
暗闇からぼうっと浮かび上がる聖母子像はスフマート技法を思わせる。
細く長い指と、細面の伏せ目がちの表情。
「聖なるモラーレス」らしい神々しさ漂う作品だった。
《受胎告知》エル・グレコ、1570-72年、油彩、板
赤い服に青い外套のマドンナカラーに身を包んだマリア。
聖書を読んでいた彼女がふと振り向くと、そこには雲に乗った大天使ガブリエル。
天上から天使の梯子が下りてきて、啓示の光がドラマティックに射し込み、
彼女の上には聖霊のハトが舞っている。
絵のなかをアニメーションのように躍動させるエル・グレコの魔術。
Ⅲ バロック:初期と最盛期
《聖アポロニアの殉教》
《祈る聖アポロニア》グイド・レーニ、1600-03年、油彩、銅板
どちらも、大好きなグイド・レーニの作品だったけれど、凡作だった。
《花をもつ若い女》 グイド・レーニ、1630-31年、油彩、カンヴァス
こちらはグイド・レーニらしい誇張された表現はないものの、
ピンクのバラをもつ豊満な女性を描いた甘美な絵だった。
《眠る幼子イエスを藁の上に横たえる聖母》カルロ・マラッティ、1656年、油彩、板
ローにあるサンティシドロ・アグリコラ聖堂アラレオーネ礼拝堂のフレスコ画を模写したものだが、藁の上の幼子イエスを発光させるように描く独特の明暗表現がいかにもバロック的で、印象深かった。
《花弁》ヤン・ブリューゲル(1世)、1600-25年頃、油彩、板
花が生けられたガラス瓶のため息が出るような精緻な表現。
みずみずしく咲き誇る花と、萎れかけて生気を失いつつある花の花弁の質感の違い。
「花のブリューゲル」の呼称にふさわしい見事な作品。
《スモモとサワーチェリーの載った皿》ファン・バン・デル・アメン、1631年、油彩、カンヴァス
青みを帯びたスモモと、赤いゼリーのような透明感のあるサワーチェリー。
観ていて幸せな気分になれる絵。
この展覧会の作品の中で、自宅に飾る絵を選ぶとしたらこの一枚。
《ロザリオの聖母》 ムリーリョ、1650-55年、油彩、カンヴァス
等身大の聖母子像。
衣は粗い筆触でが、肌は入念に描かれ柔らかな表現。
意志の強そうな目の潤いのある質感。
わが子を守り抜く覚悟を込めて毅然とこちらを見つめる聖母。
その腕に抱かれながらも、イエスの目は敢然と未来を見つめている。
Ⅳ 17世紀の主題:現実の生活と詩情
《ローマ、ヴィラ・メディチの庭園》ベラスケス、1629-30年、油彩、カンヴァス
かつて繁栄を極めたメディチ家の庭園。
庭の植栽は手入れされているが、画面中央の建物は板塀が朽ちて崩れ、廃墟の様相を呈している。
メディチ家の盛衰は、どこか平家のそれを思わせる。
無常感が漂う静謐な作品。
《冥府のオルフェウスとエウリュディケ》ピーテル・フリス、1652年、油彩、カンヴァス
地獄を描いた西洋絵画は恐ろしいけれど、どこかコミカル。
いろんな悪鬼や悪魔がいて、観ていてワクワクする。
《アジア》 ヤン・ファン・ケッセル(1世)、1660年、油彩、銅板
当時思い描かれた摩訶不思議なアジアのイメージをあらわすべく、
珍奇な生物たちが描かれている。
凧や深海魚に似た宇宙生物のような軟体動物たち。
たてがみが変なライオンや、タツノオトシゴのような生き物、セイウチっぽい動物、
ハリセンボン、ヨロイサイ、ヘビの共食いなど。
興味深かったのは、カエルが相撲をしているような場面が描かれていたこと。
もしかしたら、この画家は《鳥獣戯画》の模写か何かを見たことがあるのだろうか。
Ⅶ 19世紀:親密なまなざし、私的な領域
《手に取るように》ビセンテ・ポルマローリ・ゴンサレス、1880年、油彩、板
浜辺でパラソルを脇に抱え、双眼鏡を優雅にのぞく現代的な美女。
『ヴェニスに死す』のような物語性を感じさせる詩情あふれる一枚。
ライトアップされた美術館の中庭。カフェのテラスには大きなストーブもついていて外でも温かい。 |
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