能《弱法師・盲目之舞》 シテ 角当直隆
ワキ 高井松男、 アイ 野村万蔵
杉信太朗、鵜澤洋太郎、國川純
地謡 梅若玄祥 山本博通 内藤幸雄 山崎正道
井上燎治 鷹尾維教 鷹尾章弘 土田英貴
後見 松山隆之 小田切康陽
仕舞《大江山》 川口晃平
《水無月祓》 鷹尾維教地謡 松山隆雄 赤瀬雅則 上田英貴 小田切亮磨
狂言《伊文字》 野村萬、野村虎之介、野村万蔵、野村晶人
元雅作品のなかでいちばん好きな《弱法師》。
日想観のシーンは特に好きで、
弱法師のようにあちこちぶつかりながら不器用にヨロヨロと生きている自分だけれど、
心の中に平安を見出して、穏やかに過ごしたい思うのでした。
元雅が描いた俊徳丸のキャラクターも胸にジーンとくる。
讒言によって親に捨てられ、絶望と過酷な放浪生活によって盲目になっても、
親や讒言者を恨むことなく、すべては自分の前世の過ちが招いたことだとして、
自省・自責の念にとらわれている、そんないたいけな少年なのです。
――なのですが、
登場したシテの姿は意表を突くものでした。
よく見るボサボサの黒頭ではなく、鬘を首の後ろで束ねた姿で現れたのですが、
髪型が変わると、こんなにもイメージが変わるものなのか、と。
ものにもよるけれど、弱法師面は眉間や頬のしわで苦悩を表しているので、
髪を束ねるとそれが際立って、年かさの女性に見えてしまう。
そんなわけで、「いたいけな少年」のイメージがガラガラと崩れ去り、
それが障壁となって物語の世界へなかなか入っていけない。
シテ自身は杖の扱いも、耳で見るような仕草もうまく、
梅の花の香りを聞く場面はとりわけ印象的で、
玄祥師地頭の地謡も、お囃子も申し分なかった。
* * *
俊徳丸の絶望とか、現実の謙虚な受け止め方とか、絶望の果てに一瞬見出した光明とか、
見えない目で見た心の中の懐かしい光景とか、
自分を捨てた親に対してさえ、やつれ果てたわが身を恥じる気持ちとか、
そういうものを観客に感じさせるのってとても難しいと思う。
その人が人生の中でもがき苦しんだことや傷ついたこと、挫折したことなどが
こういう曲の表現にも滲み出て、生かされるのだろうか。
それとも、そう単純なものではないのだろうか。
仕舞2番。
川口さんは謡いがうまい。
鷹尾さんの仕舞は初めて拝見しますが、こちらもきれい。
どちらもすっきり清涼感のある舞姿。
狂言《伊文字》。
楽しかった!
「伊の字のついた国の名」が耳の中でリフレインする。
万蔵さんがいると舞台が引き締まる。
神仏に配偶者を祈願する「申し妻」。
今も昔も、神仏は婚活の強い味方なのですね。
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