2017年10月29日日曜日

天王寺舞楽~国立能楽堂企画公演〈四天王寺〉

2017年10月28日(土)13時~15時50分 国立能楽堂
解説からのつづき
天王寺舞楽:天王寺楽所雅亮会(以和貴会)
解説 小野真龍
《採桑老》 一人舞 懸人(1人)
《甘州》  四人舞
《鮮莫者》 一人舞
      京不見御笛当役(1人)
      打物:鞨鼓1、太鼓1、鉦鼓1
      管方:鳳笙3、篳篥3、龍笛3
      装束方3

能《弱法師》シテ俊徳丸 大槻文蔵
      ワキ高安通俊 福王和幸 アイ従者 善竹十郎
      藤田六郎兵衛 大倉源次郎 柿原崇志
      後見 武富康之 大槻裕一
      地謡 観世銕之丞 柴田稔 馬野正基 浅見慈一
         長山桂三 観世淳夫 谷本健吾 安藤貴康



さて、いよいよ天王寺舞楽公演です。
明治以降、京都・奈良・天王寺の楽人たちが東京に召され、四天王寺の舞楽法要も一時中断しますが、その後、雅亮会が結成され、舞楽法要が再興されます。

それにしても、先日拝見した宮内庁楽部は国家公務員として安定した収入があるのに対し、四天王寺の雅亮会の方々はどうされているのだろう(兼業かな?)。雅楽発祥の地で古式の舞を継承していくことのご苦労がしのばれます。


《採桑老》 
左方(唐楽)・盤渉調の一人舞
不老長寿の妙薬を探す老人を表現した舞。この舞を舞うと死ぬという不吉な言い伝えもあるとされるが、平安期には長寿をことほぐ舞だったという。

装束は別装束(冬直衣)で、白地の袍に、浅葱色の指貫。
白地金襴の牟子(頭巾)に笹をつけている。
鳩の作り物のついた鳩杖を持っているのも特徴的。

面は、能の翁面の造形に影響を与えたとされる老人面だが、老人といっても、鼻筋の通った整った顔立ちの美形の老人で、実在の人間をモデルにしたようなリアルさがある。

舞人は老人らしく、鳥兜をかぶった懸人に伴われ、懸人の肩に手をのせたまま、揚幕から橋掛りを通って登場(→退場の時も懸人が付き添う。高齢者介護を舞に取り入れたところが凄い!)。

足を開いて、低く腰を落とす「落居」などの舞楽独特の舞の手が入る。
膝を直角に曲げて腰を落とすスクワットのような手が多用され、大変なエクササイズだ。
四天王寺の楽人が、老人らしさを演出するために振り付けたとされる「洟をかむ」手もあるらしい。

盤渉調の音楽に癒される……。
美しい老人の舞だった。



《甘州》
左方・平調の四人舞。
唐の玄宗皇帝の御遊の際、官女の装束が風になびくさまが、仙女が舞うように見えたため、その様子を舞楽化したものとされる。

装束は襲装束だが、袍の両肩を脱ぐ「前掛(まえだれ)・裾(きょ)」に着装する。
頭には鳥兜ではなく、冠に緌(おいかけ)を着けていて、いかにも平安貴族らしい出立。


曲の構成は、
①破の「延甘州」、②急の「早甘州」の二段に分けて舞われる。

「種子播手(たねをまくて)」などの型があるそうだが、どの動きがそれに相当するのかはわからなかった。
足をあげて踵をつき、上体を前後させる手など、勇壮かつ優雅な舞。



《鮮莫者》 
左方・盤渉調、一人の舞人が激しく動き回る走舞。

曲の由来にはおもに二つの説があるが、
聖徳太子が建立した四天王寺では、太子が河内国の亀瀬を渡りながら尺八(古代雅楽に用いられた縦笛のこと)を吹いていたところ、その音色に感動した信貴山の山神が猿の姿で現れ、舞を舞ったという故事にちなんで上演される。

それゆえ、京不見御笛当役と呼ばれる龍笛の音頭(リーダー)が、聖徳太子の扮装をして舞台脇で演奏する。
「京不見御笛(きょうみずのおふえ)」とは、聖徳太子ゆかりの名笛を指し、かつては実際に演奏に用いられたそうだが、現在は自前の笛を吹くという。

聖徳太子に扮した京不見御笛当役の出立は、左方の襲装束に、纓(えい)がプロペラのように大きく左右に張り出した唐冠を被り、腰には太刀を佩いたもの。
この日は、笛座に立って演奏していた。

曲の構成は、
①古楽乱声(こがくらんじょう):舞人が登場し、出手(でるて)を舞う。
②蘇莫者音取
③当曲序
④当曲破

猿のような山神の化身たる舞人の扮装は、毛皮を模したような毛縁裲襠をつけ、その上から蓑を着る。袍は紅地の紗で、袖先を露紐で括る。袴も足首のところで括っている。
手に持つ桴は、ずんぐりしたゼンマイのような独特の形状。

赤い舌を出した金色の面には、長い髪がついている。

舞人の動きも猿を模したように、ぴょこぴょうこ動いたり、小走りになったり、首を片方に傾けてから勢いよく反対側に向けたりするなど、敏捷な動物を思わせる。


笛を吹く貴公子の聖徳太子と、猿に扮した山神の共演。
雅楽の調べとあいまって、古代ロマンを感じさせる幻想的な舞台だった。



能《弱法師》へつづく



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