2017年2月5日(日) 13時30分~15時30分 高輪区民ホール
能楽の解説 吉田篤史
囃子の解説 左鴻泰弘 林大和 石井保彦
男舞演奏
謡の体験 《経正》キリ後半 吉田篤史
《経正》解説 吉田篤史
(以上、英語の同時通訳付き)
能《経正》 シテ井上裕久
ワキ岡 充
左鴻泰弘 林大和 石井保彦
後見 吉田潔司 浅井通昭
地謡 吉浪嘉晃 浦部幸裕 吉田篤史
松野浩行 深野貴彦 宮本茂樹
土曜日に引き続き、この日も京観世三昧♪♪
シテ方・ワキ方・囃子方をゴソッと丸ごと京都から産地直送という、なんとも贅沢な公演。
客席には外国の方も多く、立ち見も出るほどで(後で補助席が用意された)大盛況でした。
井上一門の演能はほとんど初見、囃子方も林大和さんは初めてだし、高安流ワキ方の岡充さんも初めて拝見します。
同時通訳の解説も初体験(これ、すごく楽しかった!英語の勉強にもなるから日本人にもお勧め)、何よりも、ロビーでの能面体験がわたしにとってはかねてからの悲願達成だったのです!
【ロビーの展示&能面体験】
能装束や舞台写真が展示され、さらには舞台で使われる美しい能面の数々を、自由に手にとって顔にあててもよいという、願ってもないありがたいサービス。
開演前は、吉田篤史さんの御子息・和史さんがキリッと色紋付を着て、おひとりでテキパキと能面の扱い方を説明したり、来場者の質問に的確に答えたりしていらして、まだ10歳なのに利発でしっかりされていてビックリしました!
さて、わたしが手に取ったのは、中将、増、獅子口、般若、そして、翁の面。
翁面は神さまでもあるので、「ほんまに? い、いいんですか?」という感じだったのですが、OKということなので、畏まりつつ手を合わせて一礼してから面をおしいただいて、顔の前にそっと当てさせていただきました。
増と中将は、能面の視野としてはスタンダードな狭さでしょうか。
想像した通りの狭さだけれど、これをつけて舞うなんて驚異的!
よく言われるように足元は見えません。
視界もまっすぐには見えず、面はテラスとき以外はシテは顎を引いて俯き加減になるので、能面が前を向いた時は、シテ自身は正面の高さから15~20度ほど下を見ることになります。
なので公演中に、シテ(が掛けた能面)と目が合って、「キャ~♡」なんて思っている時は、おそらく能面のなかのシテ自身の視線は、わたしよりももう少し手前にいる観客のほうに向けられているのではないかなー。
獅子口はさすがに視界が広く、能面のなかでは見えやすい。
しかし、重さがかなりあり、これに赤頭をつけて、あの独特の反り返る型をしたり、重い装束をつけて数々のアクロバティックな型(とくに一畳台を使った型)をしたりするというのは、これもまた驚異的!
般若は、獅子口ほどではないけれど、比較的見えやすい。
耳のところを手で持って、間近で見ると、その繊細さが伝わってくる。
そして、翁の視界はほんとうに狭い。
この視界の狭さは、翁面をつけて神そのものになるということと、関係があるのかしら。
【解説&謡の体験】
囃子の解説
通常の囃子座ではなく、正先に近い前方で横に並んで解説してくださったので、ホールの照明が明るいこともあり、お道具や演奏する手つきがとても見えやすく、わかりやすい。
男舞の実演の時も、通常よりはるかに間近で聴けて迫力満点。
解説では、大小太鼓の掛け声と同様、笛も息づかいでテンポの速さを伝えるというのが目からウロコでした。
謡の体験
講座やワークショップをよくされているだけあって、吉田篤史さんの解説は分かりやすく、面白い。
このところ、すっごく謡いたい気分だったので、謡体験はなおさら楽しかった!
お稽古が病みつきになるというのも分かる気がする。
能《経正》
左鴻さんの名ノリ笛で、ワキの僧都行慶が登場。
高安流のワキって、ほんまに数えるほどしか観たことがないのですが、前にも書いたけれど、謡や着付け方(胴着の厚み)が下宝よりも福王流に似ています。
岡充さんの謡は重厚で、声の良く通る謡。
沙門帽子、掛絡、茶水衣、白大口、小格子厚板という高僧の出立にふさわしい、やや重めのハコビ。
「げにや一樹の蔭に宿り」から、脇座で床几に掛かり、経正のために管弦講を執り行っていると、ゆらめく灯火のなかからフッと立ち現れる人影――。
ホールなので揚幕はなかったのですが、笛方がチラッと横目で観た視線の先をたどると、いつのまにか舞台の上にはシテの姿が。
シテは、儚さを象徴する蝶をちりばめた鮮やかなオレンジ地の縫箔に、水色の雲と金箔の千鳥をあしらった濃紺長絹(露は朱)肩脱、梨打烏帽子。
面は、憂いを帯びた中将。
井上一門は、シテも地謡も、謡の良さが際立ち、
吸引力のある謡が主軸となって、物語を展開していく。
一言一句聞き取りやすく、味わい深い謡。
だから、心のなかに場面や情景があざやかに浮かんでくる。
シテの舞姿も、美しく、下半身が安定ていていてバランスがとれている。
ひるがえす袖で経正の繊細さを、堅固な足拍子で修羅の烈しさをあらわす。
シテの井上裕久さんは経験と芸の熟成度と身体的生命力・体力が好い具合につり合って、咲き誇る花のような凄味がある。
面の扱いも卓越していて、「不思議や晴れたる空かき曇り」で面をテラして空を見上げる時の表情や、「昔を返す舞の袖、衣笠山も」で目付柱方向の遠くを見る表情が、経正の心の奥底のさまざまな感情を雄弁に語っていて、印象に残った。
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