2017年2月27日月曜日

友枝昭世の《東北》後場~喜多流自主公演二月

2017年2月26日(日) 12時~16時10分  喜多能楽堂

能《東北》シテ里女/和泉式部の霊 友枝昭世
   ワキ旅僧 宝生欣哉 ワキツレ工藤和哉 則久英志
   アイ東北院門前の者 石田幸雄
   一噌隆之 鵜澤洋太郎 亀井忠雄
   後見 香川靖嗣 内田安信
   地謡 粟谷能夫 出雲康雅 粟谷明生 金子敬一郎
      佐々木多門 内田成信 粟谷充雄 大島輝久

狂言《泣尼》シテ僧 野村萬斎
アド施主 深田博治 小アド尼 月崎晴夫
仕舞《弓八幡》粟谷充雄
   地謡 佐藤陽 佐藤寛泰 谷友矩 高林昌司

能《春日龍神》シテ春日明神の仕人/龍神 塩津圭介
  ワキ明恵上人 御厨誠吾 ワキツレ則久英志 吉田祐一
  アイ春日神社の末社 深田博治
  栗林祐輔 幸信吾 亀井洋佑 観世元伯→徳田宗久
  後見 塩津哲生 谷大作
  地謡 大村定 中村邦生 長島茂 狩野了一
     粟谷浩之 高林呻二 友枝雄人 友枝真也



喜多流自主公演《東北》前場からのつづき
【後場】
一声の囃子が奏され、幕が上がる。

シテの姿はまだ見えない。
それでも暁闇の空がしだいに明るみはじめるように、
揚幕の奥の洞窟の向こうからほのかに光が射し、
装束の輝きの照り返しで、シテが近づいてくるのが分かる。


現れたシテは、まばゆく輝く白銀の長絹(露は朱)に緋大口の出立。
面はおそらく前シテと同じ小面だろうか。

この世の喜怒哀楽を超越した天女のような表情の女面が、
シテの人間離れした舞姿の雰囲気と溶け合う。
長絹には、朝顔にも似た梅花らしき花が青やピンクで装飾されている。


白長絹に緋大口という姿は、東北院の白梅に住まう和泉式部の霊にふわさしい。



〈クリ・サシ・クセ〉
クリ・サシで和歌の功徳が解かれ、「天道にかなふ詠吟たり」でユウケン、
ここから舞グセとなり、王城の鬼門を守護する東北院の素晴らしさが讃えられる。


このあと、地謡をはさんで、シテは達拝から序ノ舞へ。
シテの舞と地謡の謡との甘美な融合が、ひんやり生温かい春の夜気を漂わせてゆく。


〈序ノ舞〉
友枝昭世の舞と和泉式部の歌が、頭のなかで重なり合う。


冥きより冥き道にぞ入りぬべきはるかに照らせ山の端の月

序を踏んだのち、シテは深まる闇のなかをたどるように、そっと、そっと歩を進める。
不可抗力的な情念の闇を、女の足が月を求めてさまよう。



夢にだに見で明かしつる暁の恋こそ恋のかぎりなりけれ

激しい恋の数々を思い描くように、大小前で開いた扇で華やかに弧を描き、
恋の苦しみの極みを味わった暁を懐しむように、
初段オロシで目付柱の彼方を見つめる。



物思へば沢の蛍もわが身よりあくがれいづる魂かとぞ見る

二段目で白い袖を巻き上げた時、沢辺から蛍がぼうっと白く立ちのぼり、
オロシで面を遣うその視線が、あくがれ出たみずからの魂を追ってゆく。


どろどろした愛欲、懊悩、煩悩の沼の中から咲き出た純白の梅。

さまざまな色彩が塗り込められた重層的な白を身にまとうシテの姿は、
女という業深き存在を救う女神であり、歌舞の菩薩そのものだった。



〈終曲〉
色こそ見えね、香やは隠るる、香やは隠るる……梅風よもに薫ずなる


巧みな面遣いで、四方に満ちた梅の香を聞いたシテは、
「方丈の灯火を火宅とやなほ人は見ん」で、
情熱の燻りをほのめかすようにワキを見つめ、
常座に至って幕のほうを向いたまま留拍子。



なにか、とても尊いものを見た気がした。




狂言《泣尼》・能《春日龍神》につづく


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