"It could be said that the image of Yugen―― a subtle and profound beauty――is like a swan holding a flower in its bill." Zeami (Kanze Motokiyo)
2015年3月24日火曜日
神遊49回公演・ワキ方が活躍する能《張良》
森常太郎さんの記念すべき《張良》披き公演。
側次に白大口姿で登場した時は少し緊張したご様子でしたが、
中入後、唐冠をかぶり、きりりと鉢巻を巻いた姿で登場し、
一の松で見得を切るような凛々しい演技や、
大小前の一畳台に片足を載せてポーズをとる「遠山の金さん」風の演技、
そして最大の見せ場となる、
川に投げ入れられた沓を取りにいく場面は、カッコよく決まっていました。
一畳台に座る(馬上の)黄石公の背後から、
後見の観世喜正さんがポーンと沓を投げ、
それが目付柱手前のほどよい地点にランディング。
その沓をを取ろうと、
反り返りで身体をそらしながら、身体をくねらせクルクル回る常太郎さん。
見事な身体表現力!
渦を巻きながら流れていく急流がありありと浮かんでくる!
この型を考案した人も、演じる役者さんも、凄い。
イナバウアー並みの背筋と柔軟性を鍛えていないとできない技ですね。
(かなりのエクササイズになるのではと、個人的にやってみたくなりました。)
この急流での演技に合わせて、常太郎さんの厚板に、
砕け散る波模様があしらわれていたのも素敵でした。
そして、ノリノリの早笛に乗って、蛇神(龍神?)が勢いよく登場。
舞働で、真っ赤な舌を振り立てながら、張良めがけて襲ってきます。
でも、張良はあわてずさわがず剣を抜き、大蛇に応戦。
剣の光に恐れをなした大蛇は、沓をとって張良に差し出し、
後退しながら、一回転しようとしたのですが、
飛び返りの角度と現在地・舞台空間の把握をあやまって、
舞台端を飛び超え白洲に着地。
(舞台には一畳台が大小前に置かれワキ方が正中にいて、龍神の動ける範囲が狭いうえに、
面・龍戴・重い装束をつけて複雑な動きをした後の舞台端での
アクロバティックな演技だったため、極めて難度の高い飛び返りだったと思います。)
能楽堂全体が凍りついた瞬間でした。
誰もがあっと息をのみ、
蛇神が舞台から落ちていったのがスローモーションで記憶に刻まれています。
見事だったのは、蛇神がまったく体勢を崩さずに、
白洲の上に片膝をついて美しく着地したこと。
その後、スッと立ち上がり、舞台正面の階を上って、舞台上に復帰。
脇正面側に下居して、呼吸を整えながら、しばし待機していらっしゃいました。
この間、地頭の玄祥師が謡を引きのばして時間を調整しようとする一方で、
地謡の一部は平常を取り戻そうと通常に近いテンポで謡っていたため、
地謡は少し乱れたものの、
お囃子は動揺を表にはまったく見せずに演奏を続け、
常太郎さんも冷静に一畳台に上がって、沓を石公の足元に置き、
無事に沓を履かせたことを表現されていました。
そして、心を落ち着けようとしている蛇神の赤頭を
後見の喜正さんが励まし労わるように整えているのが印象的でした。
ここで、囃子が急調に転じて、
蛇神が軽快な足取りで橋掛りを駆け抜け退場。
囃子がゆっくりしたテンポに変わると、石公が一畳台から下りて
橋掛りを進み、金色の光を虚空に放ちながら黄色い石となって、
揚幕の彼方に消えていきます。
ハプニングはあったけれど、
出演者が一丸となって勤めあげたインパクトのある好い舞台でした。
(私は殿様だったら「天晴、褒美をとらす!」と賛辞を贈りたくなるような舞台。)
川口さんも大事に至らなかったようで、ほんとうに何よりです。
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