素囃子――東西の囃子方による
西軍 左鴻泰弘 成田達志 谷口正壽 前川光範東軍 一噌隆之 幸正昭 亀井広忠 小寺真佐人
舞囃子《高砂・八段ノ舞》 味方玄
《東北》 友枝真也
仕舞《紅葉狩》 宝生欣哉
《大蛇》 福王和幸×大島輝久
舞囃子《石橋》 片山九郎右衛門
《猩々乱》 友枝雄人プレ公演と侮るなかれ、「見逃さなくてよかった!」としみじみ思う東西真剣立ち合い勝負。
さすがは東急、さすがはセルリアン、素晴らしい企画をありがとうございます!
【素囃子――東西の囃子方による】
冒頭からド迫力の東西囃子方の競演!
後座前に東軍囃子方、地謡座前に西軍囃子方が湾曲状のくの字型に並んで座り、以下の順で交互に演奏。
(1)真ノ次第
座付き笛・早め頭(東)
(2)真ノ一声
幕離れより(西)
(3)早笛
カカリ(東)、初段(西)、二段(東西合奏)
(4)盤渉楽
二段(東)、三段(西)
(5)早舞
初段(東)、二段(西)、三段(東西合奏)
東西囃子方の「気の熱波」みたいなものがガンガン押し寄せてきて、過呼吸になりそうなほど圧倒される。
成田・谷口兄弟の大小鼓をライヴで聴くのは初めてだったのですが息もぴったりで、うつむいて笛を吹く左鴻師とともに三兄弟(?)のように見える。
左鴻師の笛も初めて。聴き惚れる~。素敵な笛方さんだ。
光範師の太鼓は1年半ぶりくらい。この日もよかったけれど、翌日の《養老・水波之伝》が凄かった!
東軍は聴きなれたお馴染みの囃子。
「珍しきが花」というけれど、どうしても西の囃子のほうに惹かれてしまう。
西の囃子のほうに馴染んでいて、東軍のほうが珍しかったら違った感想になるだろうか。
(この日は西軍のほうが引き締まって聴こえたような。)
ハイライトは両軍の合奏。
やっぱり笛がいちばん違いますね(同じ流派でも能管そのもので音高・音律が異なるし)。
手組や撥捌きが比較しやすいのが太鼓。
交互に見せ場が来るようにいつもと手を変えているように思えたけれど、どうなのだろう。
【舞囃子:《高砂・八段ノ舞》VS《東北》】
シテ方東西対決第一弾(囃子方は東西入れ替えているのがミソ)。
《高砂・八段ノ舞》
この日、テアトル・ノウ東京公演の一般販売日だった味方玄師。
この方の芸はシャープで、鋭利な刃物のようなキレがあり、エッジが利いている。
瑕のない名刀のよう。
7月はどんな《山姥》になるのか、楽しみ。
九郎右衛門さん地頭の地謡も良かった!!
《東北》
地謡前列の佐々木多門師は、いつもながら所作がきれい。
通常ならばシテが立ち上がって、袴の裾が乱れているのを発見してから慌ててババッとにじり出て裾を直すところを、多門師はあらかじめ前方に出てシテのほうに向きなおり、落ち着いた丁寧な所作で裾の乱れを整えてから所定の位置に戻って扇をとる。
この一連の所作が品があって美しい。
来月の《桜川》が待ち遠しい。
舞い手の真也師は謡いのうまい方ですね。
金春流宗家を思わせる独特のハコビ。
(真也師も今秋《山姥》を舞われるので、《山姥》対決でも面白かったかも。)
関西勢の囃子がとても良く、左鴻師の笛の音が序ノ舞の彩りに深みを与え、吉阪師の小鼓が曲に美しい陰翳をつけてゆく。
色こそ見えね 香やは隠るる……
闇のなかの艶めかしい梅の香りを感じさせる喜多流の謡。
つかの間に見る春の夜の夢。
【仕舞:《紅葉狩》VS《大蛇》】
とっても珍しい東西ワキ方の仕舞対決。
《紅葉狩》
通常はシテが舞うクセの部分をワキ方が舞う仕舞。
8月に開催される下宝能の会では鬼揃の小書でこの特別演出が披露されるそうです(九郎右衛門さん×欣哉さんの仕舞《大蛇》もある!)。
ワキ方の仕舞では、カザシ扇の持ち方がシテ方とは違う?
《大蛇》
宝生・金剛・喜多にしかないとされる《大蛇》。
(ということは、下宝の会で上演予定の観世流仕舞《大蛇》は下宝独自の演出なのかしら)。
大島輝久師の舞は初めて拝見するのですが、評判にたがわず巧くて隙がない。
《大蛇》の型はけっこう写実的で、地謡の詞章も聞き取りやすいので、迫力満点。
(大蛇って角があるんですね。)
毒酒に酔い伏した八岐大蛇(シテ)に、スサノオ(ワキ)が十握の神剣で斬りかかる。
スパッと斬られた大蛇の尾がスサノオに巻きつこうと執拗に襲いかかるが、最後はスサノオが大蛇の尾を斬り払い、そこから新たに剣を取り出して叢雲と名づけて終わる。
福王さんのスラッとした十頭身のスサノオと大島さんの大蛇。
なんともきれいな《大蛇》でした。
(GWに稲田姫とオロチの里に行ったばかりなのでなおさら楽しめました。今度はお能で観てみたい。)
【舞囃子:《石橋》VS《猩々乱》】
いよいよ東西両雄対決!
《石橋》
九郎右衛門さんの《石橋》を何度も観ている気がするのは、わたしが九郎右衛門さんのDVDをたぶん百回以上は再生しているからですが、相変わらずいつ拝見しても大迫力でかっこいい!
その一方でこういうアクロバティックな舞は、超過密スケジュールで多忙を極める九郎右衛門さんのお身体の負担にならないか(膝・腰を傷めないか)と心配にもなる。
本曲の囃子にかんしては、途中で入る笛一管の演奏が、九郎右衛門さんの沸々と煮えたぎるような力強い不動のエネルギーに比べてどうしても弱く感じてしまう。
このところ東京では九郎右衛門さんの切能・鬼能が多い気がするので、序ノ舞or天女ノ舞or神楽とか、何かそういうものをぜひ観てみたい。
《猩々乱》
喜多流の《猩々乱》、初めて拝見するけれど、これ、面白い!
観世流よりも型が多い(しかも、凝った型や足づかい)。
流れ足が爪先立たないというカルチャーショック!
そうかと思うと、つま先立ちでトトトトッと前進する型や、
天を仰ぐように立ったまま仰向けに反り返って、へべれけに酔っている様を表す型もあり。
全体的に中腰で片足立ちでとどまる型が多用されていて、ものすごく強靭な足腰やバランス感覚が必要になると思う。
現に、シテの雄人師は滝のような汗。
これをお能では装束と面をつけて舞うのだから……その難度の高さは計り知れない。
これもお能で観てみたい。
というわけで、驚きや発見に充ちた思い出に残る公演なのでした。
あらためて、これを企画した人は凄い! 感謝!
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