2019年1月14日月曜日

《羽衣・彩色之伝》~京都観世会一月例会

2019年1月13日(日)11時~17時45分 京都観世会館
《難波・鞨鼓出之伝からのつづき
能《羽衣・彩色之伝》シテ天人 観世清和
 ワキ白龍 福王茂十郎 
 ツレ喜多雅人 中村宜成
 杉市和 林吉兵衛 河村大 前川光長
 後見 片山九郎右衛門 林宗一郎
 地謡 井上裕久 河村和重 河村晴道 
    片山伸吾 味方團 橋本忠樹 
    大江泰正 大江広祐

仕舞《老松》  片山九郎右衛門
  《東北》  井上裕久
  《鞍馬天狗》林宗一郎
地謡 武田邦弘 牧野和夫
   橋本擴三郎 宮本茂樹

能《小鍛冶》シテ童子/稲荷明神 深野貴彦
 ワキ三条宗近 小林努 ワキツレ橘道成 原陸
 アイ宗近ノ下人 山口耕道
 森田保美 曽和鼓堂 河村眞之介 前川光範
 後見 深野新次郎 河村晴久
 地謡 浦田保親 越賀隆之 味方玄 
    浅井通昭 橋本光史 吉田篤史 
    松野浩行 河村和貴



元旦の謡初式でも書いたように、観世清和家元による《羽衣・彩色之伝》は、元旦朝にテレビで全国放送されたばかり(テレビ放送では、お囃子は一噌隆之、観世新九郎、亀井忠雄、林雄一郎、地謡は宗家系能楽師という「ザ・東京」的メンバーだった。)


同じ曲、同じ小書、同じシテによる舞台。そして驚いたことに、この日はシテの装束までテレビ放送の時とまったく同じ、紅地鳳凰縫箔腰巻に白地藤花蝶文様長絹という出立だった。

逆にいうと、同じ曲、同じ小書、同じ装束の同じシテによる舞台を観ることで、東京と京都のお囃子・地謡の芸風の違い、京都観世独自の味わいが浮かび上がる。


京都観世の謡は伸びやかで、青空に響きわたるような清々しさがあった。天女が空高く上昇していくときの、明るく澄んだ空気さながらの明朗さ。聴いているだけで心が晴れわたる。


笛の東京・一噌流と京都・森田流の違いも、序ノ舞などはまるで別の旋律、別の曲に聴こえるほど。杉市和さん×前川光長さんは京都のお囃子のゴールデンコンビであり、《羽衣》の序ノ舞の品格のある位にはこのお二方の音色と存在感が欠かせない。


音の世界が違うと、舞台を包む色合いも違ってくる。色調の違いが、曲の雰囲気の違いを生み、観る側が受ける印象も変わる。明るく、冴え冴えとした空気感がこの日の舞台にはあった。とくに、天女が上昇していくときの霞がたなびくような空気感は、シテとともに、京都のお囃子と地謡の音がつくりだしたものだった。



〈彩色之伝〉
「彩色之伝」は、数ある《羽衣》の小書のなかで最も重い小書だという。「彩色之伝」の特徴を以下に挙げると;

(1)クリ・サシ・クセがカットされる
つまり、地次第「東遊の駿河舞、東遊の駿河舞、この時や始めなるらん」のあと、クリ・サシ・クセをすっ飛ばして、「南無帰命月天子本地大勢至」の謡となり、シテは、常座で下居して合掌しながら、月の本体である大勢至菩薩に礼拝する。

(2)序ノ舞が盤渉になる
浜辺の爽やかさをより意識した演出。

(3)破ノ舞がイロエに変わる
①序ノ舞を舞い終えたシテは、「靡くも返すも舞の袖」で、大小前で左袖を被き、その後、ゆっくりと角へ行ってしばし立ち止まる。
②それから橋掛りへ行き、二の松で左袖を被く。
③左袖を被いたまま、総ナガシの囃子で舞台へ。
④大小前で、キリ地「東遊のかずかずに~」となる。

以上が、小書「彩色之伝」の内容だが、この日の舞台ではこの特殊演出に加えて、最後の幕入りで面白い演出があった。

「愛鷹山や富士の高嶺」で左袖を被いたシテは、舞台にいる白龍のほうを振り返り、そのまま後ろ向きに後ずさりしながら、幕のなかへと消えていった。

真っ青な空に引かれた白い飛行機雲。そんな爽やかな余韻が漂う舞台だった。



仕舞五番+能《小鍛冶》につづく




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