大大阪の繁栄をもっともよく物語るのが、碁盤目状の街・船場に建つ綿業会館ではないだろうか。
綿業会館(重要文化財)1931年、渡辺節 |
大正から昭和初期にかけて大阪は紡績の街だった。
その繊維業界の会員制ビジネス倶楽部として建てられた綿業会館は、戦前の大阪を代表する建築家・渡辺節の最高傑作であり、弟子の村野藤吾もドラフトマンとして参画している。
派手な外観ではないが、大きさや形の異なる窓が格調高い律動を刻み、シックで落ち着いた雰囲気が船場の紳士たちのゆとりを感じさせる。
壁面にはさりげなく、優美な花綱のレリーフ。
繊細な玄関扉の飾り格子。隙のない洗練されたデザイン。
こういうセンス、好きだなあ。
玄関ホール |
正面には東洋紡の専務取締役を務めた岡常夫の銅像。
豪奢な階段が左右対称に折り返し、列柱とアーチの構成も均整がとれている。
オペラの舞台装置になりそうな印象的な空間。
レッドカーペットの敷かれた階段は、談話室や会議室のある3階まで続く。
大理石の手すりが優美な曲線を描いている。
1階・会員食堂 |
床に高さの違いを設けたスキップフロアを導入し、空間に変化を与えている。
会員食堂の天井 |
木と漆喰でつくられた精緻な装飾は見応えがあり、保存状態も見事。
アンティークの着物が似合いそうな大食堂。
臙脂と金で構成されるエレベーターの扉装飾。
3階・談話室 |
重厚な格子窓やアールヌーヴォー風ランプの灯りと溶け合い、息をのむほど美しい。
この泰山タイルは、渡辺節がみずから窯元を選定し、焼き上がったタイルの組み合わせを指揮したという。
贅を尽くし、計算され尽くした建築工芸の粋が堪能できる。
高い吹き抜けのあるジャコビアンスタイルの談話室。
棚の木枠のデザインは竹を思わせ、和の要素が取り入れられている。
歴代重鎮の写真が飾られた談話室のソファ・コーナー。
壁面上部はタイル、下部は木製の面格子というユニークなデザイン。
3階・特別室 |
直線的な窓や壁と、優美な曲線を描く天井や調度品を組み合わせ、空間に抑揚をつけている。
白黒のチェック柄の床、真紅のビロードを張り白いレースをかけた椅子、エレガントなランプ、大理石の飾りをいただくアールデコの鏡。天井縁には雷紋。
意味ありげな調度品と陰翳のある間接照明が、デヴィッド・リンチの映画を思わせる。
立ち去りがたい空間だった。