2016年12月7日水曜日

東京達磨会

2016年12月5日(月) 10時始     川崎能楽堂

(拝見したもののみ記載。小鼓もしくは大鼓は社中の方)
囃子《安宅・勧進帳》 地謡 梅若玄祥 山崎正道

舞囃子《通小町》 林宗一郎
        地謡 梅若玄祥 山崎正道 味方玄

独調《網之段》 分林道治

独調《玉鬘キリ》 友枝真也

舞囃子《花筐》 林宗一郎
     地謡 河村晴道 味方玄 分林道治

舞囃子《小塩》 友枝雄人
      地謡 友枝真也 大島輝久

舞囃子《松風・見留》 河村晴道
   松田弘之 成田達志 白坂信行さんの社中の方
   地謡 山崎正道 ツレ味方玄 分林道治

独調《花月》 友枝雄人

舞囃子《熊野》 観世喜正→味方玄
     地謡 山崎正道 分林道治 林宗一郎

舞囃子《黒塚》 友枝雄人 
     地謡 友枝真也 大島輝久

舞囃子《半蔀》 観世喜正
     地謡 河村晴道 分林道治 林宗一郎 

舞囃子《朝長》 味方玄
      地謡 林宗一郎 山崎正道 河村晴道

一調《松虫》 辰巳和麿

舞囃子《楊貴妃》 河村晴道
      地謡 観世喜正 味方玄 林宗一郎

舞囃子《松風》 味方玄
      地謡 観世喜正 ツレ河村晴道 山崎正道

舞囃子《錦木》 分林道治
      一噌隆之 成田奏 亀井広忠
      地謡 観世喜正 河村晴道 味方玄

出演囃子方 松田弘之 一噌隆之 白坂信行 亀井広忠 大川典良



ひっそりと開かれる超豪華な成田達志さんの社中会(白坂信行社中協賛)。
今年は九郎右衛門さん不参加で悲しかったけど、流派・東西を超えた火花散る芸の競演!

舞囃子は橋掛りや揚幕を使うなど、濃厚かつ充実した内容で、まるで袴能のよう。

能に近い感覚でお稽古・発表ができるようにと、お弟子さんの立場に立って番組を構成した成田さんの心遣いがうかがえます。

それにしても京観世、レベルが高い!!
たんに上手いだけでなく、(わたしの好みというのもあるけれど)芸に魅力と花がある。

川崎能楽堂はホールのように、能舞台特有の屋根がなく、しかもホールとは違って脇正面、中正面があり、観客から至近距離で三方からガン見されるため、演者の身体も芸も細部まで衆目にさらされ、さらけ出されて、ごまかしがまったくきかない。

そんな独特の緊張感のなか、番組が進行した。



舞囃子《通小町》・《花筐》 林宗一郎
土曜日・東京→日曜日・京都(弱法師)→この月曜日に再び東京と、大忙しの宗一郎さん。
先日のセルリアンタワーの拙記事で、もともと上手い人がこの数年でさらに進化を遂げたと書いたけれど、数年前との大きな違いのひとつが間の取り方。

美しい「間」の感覚、序破急の中の時間の流れのつくり方、美しい時間の呼吸感覚のようなものを身体に沁み込ませ、直感レベルにまで吸収して、それを身体で表現している。

この方が舞う舞台空間そのものが宝石箱のように硬質で深い輝きのある世界をつくりあげていた。


月は待つらん、月をば待つらん、我をば待たじ 空事や

ともすれば非常に感情をこめて表現するシテ方さんが多いなかで、抑制のきいた表現。
空事だとわかっていながら、昏い夜道を通わずにはいられなかった愚かなわが身を俯瞰するようなシニカルな冷やかさ。

宗一郎さんにしか舞えない独自の《通小町》で印象深かった。




舞囃子《小塩》・《黒塚》 友枝雄人
先日の友枝会《野宮》のときも思ったけれど、喜多流の序ノ舞って観世とはだいぶ違うんですね。
二段オロシは地謡前で立ちどまるとか、観世では脇柱からシテ柱に向かって対角線上に進むところを、喜多流では角から笛座に向かって進むとか。 


喜多流の地謡は二人構成なのだけど、真也さんも大島さんもどちらも声量が豊かなので、二人だけでもよく響き、喜多流らしい味わいのある地謡だった。


《黒塚》は最初、雄人さんが切戸口から登場しないので、「あっ、これは揚幕から出るな」と思っていると、やっぱりそうでした。

早笛でサッと幕が揚がり(幕係はたぶん観世の方?)、抱き柴はなく打杖だけを持ったシテが、いかにも急いで山から下りてきたという態でジグザグに橋掛りを進み、「いかに旅人止まれとこそ」と呼び掛けながら一の松でいったん止まって、閨の内をのぞいた恨みを述べる。


その後は、見えないワキたちを相手に独りバトルとなるのですが、これが凄かった!

シテ柱にかかってワキを狙うところなどは、巻き付きっぷりが道成寺を思わせる執念深さ。
社中の方の祈リの小鼓も、闘いの迫力を盛り上げていて、見応え満点の一番でした。




舞囃子《熊野》・《朝長》・《松風》 味方玄
芸に個性のある役者さんだとあらためて思った。

たとえば《朝長》。
「朝長が膝の口をのぶかに射させて」で、グッサリと膝に深く矢を突き立て、
「馬はしきりに跳ねあがれば」で、威勢良く跳ね上がる馬の躍動感をあらわし、
「腹一文字に掻き切って」で、平岳大演じる武田勝頼の切腹シーンを思わせる凄絶さ。

見せ場となる型が鮮烈でドラマティックなところが、味方玄の味わいなんだろうな。


 
 
舞囃子《松風・見留》・《楊貴妃》 河村晴道
百花繚乱のなかでひと際美しく咲き誇ったのが河村晴道さん。
いまでも目に焼きついていて、何度も脳内再生しているくらい。

《松風・見留》
中ノ舞の初めに三の松、破ノ舞の終わりに二の松へ行き、松のあるべき場所を見つめる。
しっとりと狂おしく、恋こがれる情念の舞。

上扇の角度や柔らかな印象、肩の力の抜け方、たっぷりとした間合いなど、喜右衛門師を思わせる品格のある端正な芸風。

ナリタツさんの掛け声が、時に物哀しげで、浜辺を吹き抜ける松風のよう。

能一番の世界を見事に凝縮させた舞囃子だった。



《楊貴妃》
上手い人の芸には、観客に魔法をかける力が備わっていて、
常座に向かって序ノ舞に入るころには、(シテはもちろん直面だけれど)どう見ても絶世の美女にしか見えなくなっていた。

まさに雨に濡れた梨の花のように可憐で気品に満ちた楊貴妃の姿に、身も心も吸い取られて、陶然と見入ってしまう

紋付袴なのに、豪華な唐織に緋大口をつけているような艶やかさ。
この方の舞の放つ香気なのか、優雅な香りさえ漂ってくるよう。


ひとつひとつの型とその移行が生み出す嫋やかな空気。
面も装束もつけない男が生み出す女の楚々とした美しさ。


「浮世なれども恋しや」の繊麗なシオリが物語る万感の思いに胸が震えた。

世にも美しい楊貴妃だった。




舞囃子《錦木》 分林道治
後見や地謡では拝見したことはあったけれど、舞はなかったので一度拝見したかったのです、分林さんの舞。
数年前に喉のポリープの手術をされたそうですが、謡の上手い方。
メリハリのある男舞。

小鼓は成田達志さんの御子息の奏さん。
お父上に似てとても感じのいい方で、掛け声もお父上に似てとても好い。
東京でも青翔会などに御出演されるといいな。


一調《松虫》 社中の方×辰巳和麿
不覚にも休憩に出てしまって見所には入らず、ロビーで聞いていたのですが、相変わらず和麿さんの謡が素晴らしい。

加えて、社中の方の小鼓が抜群に上手い!
見所で拝聴すればよかった。





      

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