2018年6月11日月曜日

MUGEN∞能 京都公演~狂言《花子》能《邯鄲》

2018年6月9日(土)13時~16時45分  京都観世会館

解説 林宗一郎 野村太一郎

舞囃子《班女》 坂口貴信
   杉信太朗 吉阪一郎 亀井広忠
   地謡 浦田保浩 浦田保親 田茂井廣道
      河村和晃 樹下千慧

狂言《花子》 茂山逸平
   茂山童司 茂山千五郎
   後見 茂山宗彦 茂山茂

仕舞《白楽天》 浦田保親
  《花筐クセ》杉浦豊彦
  《天鼓》  浦田保浩
   地謡 坂口貴信 谷本健吾 川口晃平 河村和晃

能《邯鄲》 林宗一郎
   子方 林小梅
   ワキ 小林努 有松遼一 岡充
      久馬治彦 原陸
   アイ 野村太一郎
   杉信太朗 吉阪一郎 亀井広忠 前川光範
   後見 杉浦豊彦 河村和貴
   地謡 坂口貴信 味方團 田茂井廣道 谷本健吾
      松野浩行 川口晃平 河村浩太郎 河村紀仁





思い返せば、観能初期にはじめて行った個人の会が「坂口貴信之會・東京公演」だった。

観世能楽堂がまだ松濤にある頃で、あの時は、そう、舞囃子《高砂》も、坂口さんの披きだった能《望月》も、太鼓は観世元伯さんだったなあ……と、少しほろりとなる。

この日の舞囃子《班女》もよかった!

瞬き一つしない集中力の高さは昔ながら。
坂口さんはどこか冷めたようなクールで理知的な芸風。それが魅力でもある。
二段オロシで脇正を向き、美しい姿でじいっと静かに佇む。その姿に花子の報われぬ思い、寂しさ、愛憎が込められていて、しっとりした情緒があった。


林宗一郎さんと野村太一郎さんによる解説によると、坂口さんは《班女》を舞うにあたり、シテワカ「月をかくして懐に持ちたる扇」にちなんで、秘蔵の扇を用意したという。
扇に注目して拝見すると、芝草の野に大きな満月が浮かび、青い朧がたなびく金地の素敵な扇。
こういう、演者のこだわりポイントの事前解説は気が利いている。




狂言《花子》

《班女》のパロディ続編《花子》を茂山逸平さんが演るのは、これで4回目とのこと。
ペペさんの《花子》は大曲だけど、肩ひじ張ったところがなく、どこか愛らしく、憎めない浮気男の恐妻家というキャラクターにすんなり馴染んでいて、科白に織り込まれた小歌の連続、難しい節回しにも息が上がることなく、観ていても疲れない。
妻を恐れながらも、愛しているんだなあというのが感じられて、良い《花子》だった。
(もう少し齢を重ねると、花子と妻のあいだ、夢と現実のはざまで揺れ動く男心みたいなものや、いやらしくない男の色気みたいなものが滲み出てくるようになるのかしら。)

舞台としての《花子》の成否を握るのは、わわしい妻だと思うのだけれど、千五郎さんの妻役は貫禄十分。声もめちゃくちゃ大きくて、まじで恐そう!
でも、こわい中にも、夫に対する情愛、こまやかな心遣いや女らしさが感じられて、世話女房役にぴったり

たぶん実際の女性でも、こういう貫禄のある恐そうな人ほど、本当の意味で女らしい女性だったりするんだろうなあ。



能《邯鄲》

昨年以降、宗一郎さんは多忙を極め、父であり師匠である方を失った痛手を抱えながら大曲に挑むことの難しさは想像できないけれど、立派に勤められた。
引立大宮内での〈楽〉は、慎重に、慎重に。
最後の夢から覚めて行くときも、橋掛りからダーッと走り込んで枕に向かってダイヴ、という難業は使わず、常座から着実に進んで作り物に横たわるスタンダードな演出。

面は普通の邯鄲男よりもやや年長のような感じで、大槻文蔵師は盧生を「70年代のヒッピーのような人物」というキャラクター設定をしていらしたが、口髭などはちょうどそんな雰囲気のある、悩める男の顔をした個性的な邯鄲男。良い面だ。


「空おり」の直後のヒヤッと驚いて一瞬、凍りついたように静止する。そのさまが、夢の中の動きと実際の身体の動きが連動してハッと目が覚めるときのあの感覚をリアルにあらわしていて秀逸。


〈楽〉の後半に舞台上で舞っている時がいちばん自由な感じがして、宗一郎さんらしい魅力があった。

そして、子方の小梅さん。
まだほんとうに小さくて(何歳くらいだろう?)とても可愛らしい方なのですが、舞い始めると、驚くほどうまい! 
自分の顔の三倍ほどもある扇を巧みに扱って、きれいに愛らしく舞ってらっしゃった。

度胸も据わっていて、頼もしい子方さんだ。

地謡には川口晃平さんや谷本健吾さんも加わり、切磋琢磨し合える仲間たちが集まった雰囲気のいい会だった。


追記:終演後、亀井広忠さんが能楽堂から猛ダッシュで出て行かれるのを目撃。もしや、紋付袴姿で新幹線に乗るのか(!?)と思ったら、金剛能楽堂での満次郎の会と掛け持ちだったと後で知る。おつかれさまです……。







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