2017年6月5日月曜日

東京青嶂会

2017年6月3日(土)   国立能楽堂

能《吉野天人》ワキ宝生欣也 ワキツレ大日方寛 野口能弘
  アイ 山本泰太郎
  松田弘之 吉阪一郎 亀井広忠 観世元伯→林雄一郎
  後見 味方玄 味方團
  地頭 観世喜正

能《清経・替之型》ツレ鵜沢光 ワキ宝生欣也
  一噌隆之 大倉源次郎 亀井広忠 
  地頭 片山九郎右衛門

番外仕舞《歌占・キリ》 観世喜正
    《班女・舞アト》観世銕之丞
    《善知鳥》   片山九郎右衛門

能《羽衣・和合之舞》ワキ宝生欣也 ワキツレ大日方寛 梅村昌功
  杉信太朗 観世新九郎 柿原弘和 梶谷英樹
  地頭 観世銕之丞

素謡《弱法師》 ワキ 味方健

能《船弁慶》子方 谷本悠太朗 アイ 山本凛太郎
  ワキ副王和幸 ワキツレ村瀬提 矢野昌平
  杉信太朗 観世新九郎 柿原弘和 梶谷英樹
  地頭 片山九郎右衛門

番外仕舞《松虫キリ》 味方玄

その他、舞囃子《養老・水波之伝》《杜若》《高砂・八段之舞》《龍田》《草子洗小町》《葛城・大和舞》《須磨源氏》、仕舞など。
(番外仕舞以外のシテはすべて社中の方)


****
めちゃくちゃ豪華な社中会。
舞台上は、花のある役者さんばかりでとても華やかだし、
社中の方々も味方玄さんがご指導されているだけあって途方もなくハイレベル!
凄かったです。


番外仕舞
充実の番外仕舞は物狂・執心物四番という面白い取り合わせ。

観世喜正さんの《歌占・キリ》は、いつもながらの抜群の身体能力。

《班女・舞アト》は銕之丞さん独特の花子。
「かたみの扇よりなお裏表あるものは人心なりけるぞや」の扇を裏・表と返す型では焔のような女の情念が立ちのぼり、ドスの効いた怨みを感じさせた。
銕之丞さんは人間的に厚味のある方だと思う。
(この方の語り口とか、お話がとても好き。)
それが舞にもあらわれている。



そして、九郎右衛門さんの《善知鳥》
「娑婆にては善知鳥やすかたと見えしも」で立ち上がった瞬間から空気が一変。
毎回感じることだけれど、九郎右衛門さんの仕舞は「なんて、きれいなんだろう!」という感嘆から始まる。
どんな賤しい役でもひたすら美しく、内側から発光しているような輝きがある。

余計なものをすべて削ぎ落した仕舞だからこそ、素材そのもの、舞そのものが堪能できる。
九郎右衛門さんなら仕舞だけの会があってもいい(あってほしい!)。

「銅の詰めを研ぎたてては眼を掴んで」で爪を立てて眼球を抉り出す型など、地獄の責め苦をリアルに残酷に描く場合が多いなか、九郎右衛門さんは写実的な型に抑制を利かせ、果てしない苦悩・苦痛を、内に、内に沈め、深めてゆく。

「羽抜け鳥の報いか」で、安座して静止。
このぐっと奥深く沈殿するようなタメの時間。
そこから立ち現れるのは、逃げ場のない閉塞感、人間であることのやるせなさ・愚かさ・哀れさ、そして底なしの絶望。

人間の普遍的な業から逃れられず、その中でもがき喘いでいるのは、善知鳥の猟師だけでなく、それを観ている自分も同じ。
写実性を排した舞のなかでシテと今の自分が同化し、無力のままのたうち回る自分の姿をシテが象徴的に表現してくれているような不思議な錯覚に陥った。



後方隅っこの席しか取れなかったけど、7月観世会の《龍田・移神楽》がとても楽しみ。


ラストは主催者・味方玄さんの仕舞
高い技術力が冴える無機質な《松虫・キリ》だった。
こちらも来月のテアトル・ノウが待ち遠しい。
この日は味方健さんが休演でしたが、《三笑》では拝見できますように。

(それと、味方玄さんは後見の時の装束を直すしぐさがとてもきれい。ひとつの舞を観せているように手つきが優雅で、シテと装束を大切に大切に扱っているのがよくわかる。)



能《船弁慶》
前述のようにレベルの高い社中会で、皆さん魅力的な舞を披露されていた。
とりわけ最後の《船弁慶》を舞った方は前シテでは下居の美しさと面遣いの巧みさが際立ち、後シテでは舞台と橋掛かりを縦横無尽に立ち回っての長刀さばきが鮮やかでした。

この舞台では、ほんまもんの若い能楽師さんたちの活躍も見どころ。
地謡に観世淳夫さん、大鼓後見に柿原孝則さん、大役アイには山本凛太郎さん。
皆さん、次世代を担う方々。

そしてキラリと光る活躍を見せたのが、子方の谷本悠太朗さん。
大海原の彼方にあやかし(知盛の霊)を待ち受けるときには気迫みなぎるキリリとした表情で、ワキの福王さんとともに、ただならぬ気配を感じさせる緊迫感を演出。
襲いかかる知盛をキッと睨み返すその姿からは威厳と品格が漂い、太刀を振り上げた構えも決まって、義経役にピッタリでした。




追記
一時復活→休演療養中の元伯さんのことがやっぱり気がかり。
NHKで放送された銀座観世開場記念公演の映像を見ると胸が締めつけられる。
ひとつひとつの舞台がほんとうに尊いものだと今更ながら思う。





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