2020年2月4日火曜日

壬生狂言《節分》~まれびとの来訪

「壬生狂言はパントマイムだから、見物が納得するまで同じ仕草をくり返してみせるが、その仕草がなんともいえず鷹揚で屈託がなく、浮世の時間など超越しているのが面白い」 ━━白洲正子


壬生寺の千本仏塔(1988年建立)
壬生寺本堂脇には、ひときわ人目を引く異様な建物がそびえたつ。1988年に建立されたこの千本仏塔は、ミャンマーのパゴダを模したとされている。



廃仏毀釈の難を逃れた仏さまたち
おそらく廃仏毀釈の影響もあったのだろう、塔には明治期の区画整理の際に市中から集められた石仏たちが安置され、しずかに身を寄せ合っている。

室町時代のものもあるというが、ずらりと並んださまはじつに壮観。一体、一体に民衆の祈りが塗りこめられ、風化して摩耗した素朴な造形には独特の味わいがある。近くでじっくり眺めてみたい。




本堂(延命地蔵尊)
壬生寺の御本尊は地蔵菩薩。壬生狂言は、この地蔵菩薩に捧げられる。


【狂言堂の舞台配置と楽器編成】
撮影禁止だったので舞台の画像は紹介できないが、狂言堂の舞台中央奥には地蔵菩薩が祀られていた。舞台上の地蔵菩薩を介して、本堂のお地蔵さまに狂言が奉納されるという。

狂言堂舞台の様子をもう少し詳しく説明すると、

舞台は3階建ほどの高さに設置され、観客席はその向かいの建物上階から見物するようになっている。観客席は階段状になっていて、舞台とほぼ同じ目線の高さで鑑賞することができる。

舞台左手は橋掛り。この日の演目では使われなかったが、「飛び込み」など奈落へ通じる仕掛けが装備されている。狂言堂の舞台が高所に設けられているのは、こうした奈落へ落ちる舞台装置が仕込まれているせいかもしれない。

舞台上手には大鉦が吊るされ、その横には太鼓台が置かれていた。太鼓の後ろ(お地蔵さまの横)には笛方が立ち、笛方の前には後見が控えている。

楽器編成は、鉦と太鼓と笛の計三人。
「カン(鉦)、デン(太鼓)デン・デン、カン、デンデン」という単調な演奏パターンが繰り返され、そこに笛が色づけしてゆく。

囃子方も後見も、十代だろうか。
太鼓方などは、まだ小中学生の子どもに見える。こんなに若い人たちが第一線で活躍しているとは、なんとも頼もしい。



【壬生狂言《節分》】
壬生狂言の《節分》は能狂言の《節分》とよく似ているが、念仏狂言らしい素朴で土俗的な魅力がある。鉦と太鼓の「カン、デン、デン」という単調な調べが、やわらかな眠気を誘い、α波が分泌されるような心地よさがある。

ストーリーは以下のような流れ。
(壬生狂言の雰囲気は、過去記事の嵯峨大念仏狂言の画像(こちら)を参考にして下さい。)

(1)「茶屋の女」の面をつけた後家が登場。
しなやかで細長い手が美しい。面をつけた無言劇なので性別は分からないが、女性が演じているのか、それとも、うら若き少年だろうか? この柔らかみのある淑やかな所作を男性が演じているとしたら、驚きである。こちらが見惚れるくらい美しい手の動きだった。

女は左右の柱にそれぞれ柊鰯(柊の小枝と焼き鰯の頭)を挿し、豆を紙で包んで節分の準備をする。


(2)「とくす」というヒョットコ面をつけた男が登場。
男は厄払いを行う呪術師で、「ヤック(厄)祓いまひょ」と身振りで示す。
そして、扇を口で咥えて両手でバタバタと鳥が飛ぶような真似をしたり、着物を頭からかぶって亀のようにぬうっと首を突き出したりと、不思議な所作をする。なにかのまじないだろうか?
杖を振り回しているのは、おそらく魔を祓う所作だろう。


(3)男が厄払いを終えると、女は紙に包んだ豆を男に渡す。

梅原猛&西川照子著『壬生狂言の魅力』によると、かつて京では、厄払いが来ると、煎った豆を小銭を紙に包んで渡したという。厄払いの男はこの豆の一部を川に流して厄を祓い、残りの豆は豆板(豆せんべい)にして売ったそうである。
いまでも関西で「煎餅」といえば、醤油煎餅ではなく、ピーナツなどの豆の入った小麦粉地の甘いせんべいがメインだが、この豆せんべいに厄除けの意味があったとは!


(4)男が去ると、いよいよ鬼の登場。
鬼は笠を被り、蓑をつけ、赤い腹巻をしている。腰には打ち出の小槌。赤い髪は河童のような髪型だ。面は「赤鬼」という面だらしいが、能面の獅子口に似て、口をかッと開いている。

折口信夫風にいえば、蓑笠は他界から来訪する霊的な存在の象徴であり、「まれびと」のシンボルである。

その「まれびと」たる鬼は美しい女を見そめ、抱きつこうとするが、女に逃げられてしまう。


(5)鬼は柱に挿した鰯を杖で払い、外してしまう。(→鰯の魔除けって効きめがないのかな?)

そして打ち出の小槌で出した黒紋付きを着て、人間に変装する。
(舞台上の物着なのだが後見は手伝わず、自装。)


(6)色男に化けた鬼は、女の家に上がりこみ、打ち出の小槌で豪華な着物や帯を出して、女に贈る。
女は欄干に華やかな着物をかけて、うっとり。酒宴のひらいて、鬼を酔わせる。


(7)女は、酔いつぶれた鬼の着物を剥ぎ取り、盗もうとする。

着物を剥ぎ取って、相手が鬼だとわかった女は「鬼は外!」と豆をまいて、鬼を追い払う。鬼はほうほうのていで逃げ帰って、おしまい。


鬼は愛敬があって、どこか憎めない。
後家の女はおしとやかで、か弱そうなのに、腹黒&強欲。
いつの時代も怖いのは、男の鬼よりも人間の女、ですね (^_-)-☆

壬生狂言、楽しかった~!
愛好者が多く、若い演者がたくさん参加して、長くつづいているのも分かる気がする。嵯峨の狂言も面白かったし。念仏狂言、はまりそうです!




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