《烏帽子折》からのつづき
能《源氏供養・舞入》シテ 杉浦豊彦
安居院法印 江崎欽次郎
従僧 大坪賢明 和田英基
左鴻泰弘 林吉兵衛 山本哲也
後見 井上裕久 林宗一郎
地謡 大江又三郎 浦田保浩 越智隆之
河村晴久 浅井通昭 松野浩行
橋本忠樹 河村浩太郎
仕舞《白楽天》牧野和夫
《笹之段》浦部好弘→浦部幸裕
《須磨源氏》武田邦弘
橋本礒道 塚本和雄 橋本擴三郎 浅井通昭
能《烏帽子折》烏帽子折/熊坂長範 大江信行
妻 宮本茂樹 牛若 大江信之助
吉次延高 有松遼一 吉六 岡充
若者頭 田茂井廣道 立衆 大江広祐
梅田嘉宏 浦田親良 味方團
大江泰正 河村和貴 樹下千慧
亭主 網谷正美 早打 井口竜也
盗人 茂山千之丞 あきら 島田洋海
大野誠 林大和 石井保彦 前川光範
後見 片山九郎右衛門 橋本光史
地謡 河村和重 青木道喜 浦田保親
吉浪壽晃 分林道治 吉田篤史
深野貴彦 河村和晃
順番は前後しますが、《源氏供養》の感想も記録のために少しだけ書いておきます。
(能《弱法師》はわたしの期待が大きすぎたため、どうしても減点方式で観てしまい、結果、書いたブログもなんだかもやもやした内容になってしまったので削除しました。)
さて、この日の《源氏供養》には「舞入」という小書がついているため、通常はイロエの部分が中ノ舞に替わります。
シテの中ノ舞での袖の扱いが素敵でした。とくに二段オロシで袖を被くところ、紫長絹の袖がふんわりと面のまわりを縁どり、美しい女面(増でしょうか)の目元が潤いを帯びたようにしっとりと輝いて、印象的でした。
この曲には間狂言がないので、装束替も大変だったと思いますが、後場では紅入唐織から烏帽子・紫長絹・緋大口に美しく着替えた後シテが登場。後見の井上裕久さん、林宗一郎さんの手際の良さがうかがえます。
左鴻さんの笛も良かった。
この曲には間狂言がないので、装束替も大変だったと思いますが、後場では紅入唐織から烏帽子・紫長絹・緋大口に美しく着替えた後シテが登場。後見の井上裕久さん、林宗一郎さんの手際の良さがうかがえます。
左鴻さんの笛も良かった。
《源氏供養》のワキは、唱導文芸の大家・安居院(あぐい)法印なのですが、数珠の房の色が赤みがかった紫色をしていて、ほかの緋房や紺房・茶房とは一線を画しているようなイメージ。
(最高の僧位・法印だから紫なのかな? 紫式部の「紫」とも呼応して、ワキの端正な佇まいに合っていました)。
(最高の僧位・法印だから紫なのかな? 紫式部の「紫」とも呼応して、ワキの端正な佇まいに合っていました)。
安居院法印・聖覚がつくったとされ、源氏供養の法会で唱えられる「源氏物語表白」の文章がクセで謡われるのが、能《源氏供養》の最大の特徴です。
このクセの文句が面白く、『源氏物語』の巻名が、隠し絵のように織り込まれています。
光源氏の妻や恋人たち、甘美な逢瀬の数々や思い悩み苦しんだこと、悲しい別れ、報われぬ思い、源氏没後の宇治十帖、そして最後に夢の浮橋を渡って、阿弥陀如来の来迎によって極楽浄土に迎えられるまで、『源氏物語』の名場面がサブリミナル効果のように意識下の奥底に去来します。
わたしがはじめて『源氏物語』を読んだのは、原文ではなく英訳版"The Tale of Genji"(サイデンステッカー訳)だったのですが、奇しくもこの日は『源氏物語』をこよなく愛したドナルド・キーンさんが亡くなられた日。
この《源氏供養》は、キーンさんをあの世におごそかに送り出す、手向けの曲でもあったのかもしれません。いま振り返ると、そうだったのなのかなぁと思います。
キーン氏の数々の著作、とくに日本文化論や比較文化論が大好きでした。
(日本人の美意識の特徴として、suggestion(暗示), ambiguity(曖昧さ),irregularity(歪さ), simplicity(簡素さ)への志向を挙げたのはまさに慧眼。)
能狂言にも造詣の深かったドナルド・キーン氏、
心よりご冥福をお祈りいたします。
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