自宅近くの神社に咲いていた鴛鴦(えんおう)梅。 一花で二実が成ることから夫婦梅とも呼ばれるこの梅は、世阿弥本《弱法師》を思わせます。 |
能《弱法師》シテ 味方玄
高安通俊 小林努 下人 茂山逸平
杉市和 曽和鼓堂 河村総一郎
後見 橋本雅夫 片山伸吾
地謡 武田邦弘 古橋正邦 河村晴道
河村博重 浦部幸裕 大江広祐
樹下千慧 浦田親良
夢想ノ妻 松本薫
後見 鈴木実
能《源氏供養・舞入》シテ 杉浦豊彦
安居院法印 江崎欽次郎
従僧 大坪賢明 和田英基
左鴻泰弘 林吉兵衛 山本哲也
後見 井上裕久 林宗一郎
地謡 大江又三郎 浦田保浩 越智隆之
河村晴久 浅井通昭 松野浩行
橋本忠樹 河村浩太郎
仕舞《白楽天》牧野和夫
《笹之段》浦部好弘→浦部幸裕
《須磨源氏》武田邦弘
橋本礒道 塚本和雄 橋本擴三郎 浅井通昭
能《烏帽子折》烏帽子折/熊坂長範 大江信行
妻 宮本茂樹 牛若 大江信之助
吉次延高 有松遼一 吉六 岡充
若者頭 田茂井廣道 立衆 大江広祐
梅田嘉宏 浦田親良 味方團
大江泰正 河村和貴 樹下千慧
亭主 網谷正美 早打 井口竜也
盗人 茂山千之丞 あきら 島田洋海
大野誠 林大和 石井保彦 前川光範
後見 片山九郎右衛門 橋本光史
地謡 河村和重 青木道喜 浦田保親
吉浪壽晃 分林道治 吉田篤史
深野貴彦 河村和晃
この日の舞台で良かったなあと思ったのは、《源氏供養》での左鴻さんの笛と、浦部幸裕さんが代演した仕舞《笹之段》、そして《烏帽子折》でした。
《烏帽子折》は初めて観るけれど、総勢32人が出演する大掛かりな曲。場面展開もスピーディで、これをスムーズに連携させていくのは難しいのではないでしょうか。
シテの大江信行さん。
やっぱりこの方、うまいですね。
現在物のセリフ回しも巧みで、たとえば、牛若丸から賜った小刀を観た妻がシオルところなどは、「(刀を)よくよく見候へ」と「あら不思議や……さめざめと落涙は何ごとにて候ぞ」のあいだに絶妙な「間」を置いて、長年連れ添った妻が源氏の武将の妹だったというドラマティックな展開へと自然な呼吸でつないでいて見事でした。
地謡が左折の烏帽子のめでたい先例について謡うところも、瞬きひとつしないほどの美しい不動の下居姿。
烏帽子折の先祖が住んでいたという「三条烏丸」(謡では「からすまる」)といえば、ほとんど大江能楽堂のあたりだから、前シテ・烏帽子折亭主と大江信行さんがますます二重写しにダブってきます。
後シテの熊坂長範も迫力満点。
最後の牛若丸に真っ二つに斬られた時は、三の松でダイナミックな仏倒れ。
その後、子方さんに注意が向いていて見逃してしまったのですが、シテは幕へ飛び込むように消えていったのかしら? 気がつくと、幕が大きく揺れていて、シテの姿が消えていたから。どんなふうに消えたのか、見たかったなあ。
子方さんの大江信之助さんも刀さばきが見事で、大役を立派に勤められてました。
立衆の方々も見応えのある斬られっぷり。
大江広祐さんがキレのある身のこなしで、宙返りも決まっていました。田茂井さんと河村和貴さんがきれいな仏倒れ。けっこう大柄な方々だけれど、体がしなやかで凄い背筋。
味方團さんだけがほかの立衆とは違う装束(頭巾に長刀)で、最初は牛若丸との斬組で、なぜか途中から同じ立衆の人と斬り合い、最後に牛若に斬られるのだけれど、あれはなんだったのだろう? 盗賊の仲間割れ?
最後の最後にようやく太鼓が登場するのですが、さすがは前川光範さん。この方の太鼓が入ると、舞台がさらに生き生きとして活力がみなぎり、熊坂の最期が華やかに彩られます。ピンッと微動だにしない姿勢で座りつづけているところも、きれいだなあと見入ってしまう。
(それにしても、現在物に太鼓が入るのは珍しい。《烏帽子折》の古名が《現在熊坂》だったという説もあるから、もしかすると熊坂長範がのちに幽霊として現れることを予告する意味合いもあって、太鼓が入るのでしょうか? それとも。。。)
ドナルド・キーン氏への挽歌《源氏供養》へつづく
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