2018年4月16日月曜日

雨上がりの休日に ~ 京都・大坂青嶂会

2018年4月15日(日)     京都観世会館

(味方玄さんの社中会にて、拝見したもののみ記載)
舞囃子
《通小町・立廻リ》 社中の方
  杉市和 成田達志 河村大
  地謡 片山九郎右衛門 小林慶三 味方玄 田茂井廣道

《三輪》社中の方
  左鴻泰弘 吉阪一郎 前川光長
  地謡 片山九郎右衛門 橘保向 味方玄 大江信行

《海士・五段・替之型》社中の方
  左鴻泰弘 吉阪一郎 白坂信行 前川光範
  地謡 片山九郎右衛門 味方玄 味方團 河村浩太郎

番外仕舞《隅田川》 片山九郎右衛門

能《井筒》社中の方
  ワキ原大 アイ松本薫
  杉市和 吉阪一郎 河村大
  後見 味方玄 味方團
  地謡 片山九郎右衛門 古橋正邦 分林道治 大江信之
     梅田嘉宏 河村和晃 大江広裕 河村浩太郎





雨上がりの新緑がみずみずしい午後、九郎右衛門さんの仕舞《隅田川》を観た。

「思えばかぎりなく、遠くも来ぬるものかな」で、シテが繊細な動きで描き出す、京から東国までの気の遠くなるような距離感、わが子に恋い焦がれる激しい思いに導かれ、さすらいの果てに遥々たどり着いた長い、長い道のり。
その時の九郎右衛門さんの表情に、深井の女面の面影がうっすらと重なり、瞳があるのに無いようにも見えるそのまなざしには、母の情愛と渇望が宿っていた。

「さりとては乗せてたび給へ」と、嫋やかに合掌したその手に込められた、一途な願い。
そこには、どんなに苦しい荒波にもまれても、失わない女性美、芯の強い女らしさが感じられ、まさしく鬼神をも動かすさずにはいられない婉然たるしなやかさがあった。

渡守に乗船を頼むやり方にはいろいろあり、なかには船頭に強く迫る役者さんもいるけれど、柔よく剛を制すで、あんなふうに清淑に手を合わす女性の切実なまごころを断ることのできる人間がいるだろうか?
誰もが思わず手を差し伸べたくなるような、真摯な懇願の姿。
この方の合掌には、人が何かを願うとき、何かに感謝を捧げるときの思いの強さ、誠実なひたむきさが込められていて、それが観る者の心に深く伝わってくる。


わたしが九郎右衛門さんの舞台をこよなく愛する理由の一つは、彼が思い描く女らしさの理想像にどうしようもなく惹きつけられ、それを、彼自身があますところなく体現しているからかもしれない。





そして、
味方玄さんの御社中はいつもながらレベルが高く、どの方も舞姿がきれい。社中の規模も大きいのに、一人一人にご指導が行き届き、その熱心なご指南にお弟子さんたちもしっかりと応えていらっしゃって、いずれ劣らぬ素敵な舞台だった。


お囃子も個人的に好きな役者さんが多く、九郎右衛門さん地頭の地謡も素晴らしく、とりわけ《三輪》の地謡は最高にドラマティックで、謡の描写力の豊かさを堪能した。

能《井筒》のクセの地謡についても、いろいろ気づかされることがあり、実り多き会でした!

(最後の番外仕舞も拝見したかったのですが、所用のため、後ろ髪を引かれる思いで退席しました……。)







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