チラシポスター下方に掲載されたⅢ期展示中の鼓胴と鼓筺の画像 |
期間中、展示替えが2度あり、Ⅰ期~Ⅲ期まで鑑賞したのですが、
現在展示されているⅢ期が個人的にはいちばん良かった。
(Ⅰ期のみに展示された伝・越智作の泥眼もお気に入りだったけれど。)
Ⅲ期の見所のひとつが二点の鼓胴。
《撫子蒔絵小鼓胴》(江戸期・17世紀)
黒漆地に、抽象化した撫子の平蒔絵と絵梨地(花芯部)を併用して描いた精緻な鼓胴。
請けには、螺旋状に鑿目の入った嵐カンナが施されている。
これで音響効果が高まったのだろうか。
幸家五世宗能による蒔絵銘「幸小左衛門/宗能(花押)」が入っている。
《連翹蒔絵小鼓胴》(江戸期・16~17世紀)は、
室町期の鼓胴に、江戸前期の蒔絵が加飾された鼓胴。
請けには片削カンナが施され、大蔵九郎と宮増弥左衛門の朱漆書銘入り。
中心線に傾きがあり、元は内外ともに手刳だったとのこと。
可憐なレンギョウの花と愛らしい果実の蒔絵が
風に揺らぐようにリズミカルに配された優美な名品。
こういう鼓胴を見ると、その音色をぜひとも聞いてみたくなる。
今度、展示品の鼓胴の音を聞く会、みたいなイベントが国立能楽堂であればいいのに。
連翹蒔絵小鼓胴の横には鼓袋と、鼓袋の意匠を高蒔絵にした鼓筺も展示されていた。
この鼓筺は、袋の締口が錠前につながっているという斬新なデザイン。
桃山時代の豪放な造形感覚の名残をとどめている江戸初期の作品だろうか。
紅白段唐花打板模様唐織(江戸期・19世紀)、チラシより |
《紅白段唐花模様唐織》も、Ⅲ期のみの展示。
綾形文と檜垣文を紅白段に織り出し、唐花、瑞雲、打板花入亀甲模様の刺繍を施した
豪華な唐織。
深みのあるダークグリーンと鮮やかな緑、水色、パープルの美しい対比に、
濃紺の配色がアクセントになっている。
現在までその輝きをどとめている美しい色合い。
どれほど高価な染料が使われたのだろうか。
当時の染色技術の高さもうかがえる。
伝・春若作《平太》江戸期・18世紀、チラシより |
伝・春若作とあるけれど、春若忠次は15世紀の面打ちなので
おそらく18世紀につくられた「写し」という意味かしら。
だとすると、大変に優れた写しでした。
勝修羅で使われることの多い「平太」だけれど、この端正な男面にはどこか憂いがあり、
人間としての奥行きが感じられます。
戦うことに倦んだような厭世的な表情――。
ほんとうはこういう名品こそ、実際の舞台で使ってほしい。
能面は、優れた能役者に使用されて初めて生気が吹きこまれるのだから。
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