泥眼、安土桃山・江戸期16・17世紀 |
↑ 女面の中でも特に好きなのが泥眼。
あのアルカイックな小面から女面がここまで進化したとは!
能面の中でこれほど深い感情をたたえた激動する表情があるだろうか。
愛する人に裏切られたことを知った瞬間の表情。
底なしの悲しみと絶望の淵に突き落とされ、落ちていくときの、
なかば助けを求めるような、それでも相手をまだ信じたいという心の叫びを
無言で発しているような表情をしている。
解説によると、「感情が高ぶり始め、怨霊(時として生霊)が支配しつつあることを示す。
口角をあげ愛らしさを失っている点に、鬼(般若、蛇)に変身する予兆を感じさせる」
そうです。
若曲見(重文)、「平泉寺/財蓮/熊大夫作」陰刻、室町期15・16世紀、金春座伝来 |
その名の通り、普通の曲見よりも若いヴァージョン。
頬がふっくらして、肌にハリがある。
曲見、室町期15・16世紀 |
解説によると、曲見は深井よりも年上で、《海士》《隅田川》《砧》に用いるとのこと。
上の若曲見と比べると、目力がなくなり、表情が乏しくなり、口元に締まりがなくなる。
面打はエイジングの特徴を冷徹なまでに正確に捉えてゆく。
歳を重ねるごとに自分にも身に覚えのある能面が増えていき、
だからこそより多くの舞台に、より深く感情移入できるようになるのかもしれない。
深井、室町・安土桃山期16世紀 |
増女が少し老けたような端正で美しい深井。
憂いと諦念を感じさせる品のある大人の女性。
こういう面を使った《野宮》を見てみたい。
シテは是非、あの方で。
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