2017年3月24日金曜日

《三輪・神遊》後場~友枝昭世の會特別公演

2017年3月22日(水) 19時~20時45分 国立能楽堂
《三輪・神遊》前場からのつづき
能《三輪・神遊》シテ友枝昭世
  ワキ森常好 アイ山本東次郎
  松田弘之 曽和正博 柿原崇志 観世元伯→小寺真佐人
  後見 塩津哲生 中村邦生 狩野了一
  地謡 香川靖嗣 粟谷能夫 粟谷明生 長島茂
     内田成信 金子敬一郎 友枝雄人 大島輝久



【中入→間狂言】
間狂言では、「大穴持(オオナムチ)=三輪大明神」であることが語られる。

(ここからは私見ですが)
斎木雲州著『出雲と大和のあけぼの』によると、出雲族には古くから竜蛇信仰があり、蛇のトグロの形に似た山が、「神の籠る山(神名備山)」として崇拝されたという。
特に丸い山は女神の山と考えられ、出雲族が移り住んだ大和でも、太陽が昇る方角にある三輪山の神は、「太陽の女神」とされた。

もちろん、能《三輪》の直接の典拠は『俊頼髄脳』と考えられているが、三輪の神が女姿で顕現し、太陽神アマテラスと一体となる本曲には、そうした古事記以前の古代信仰の記憶が埋め込まれているのかもしれない。



【後場】
作り物から響くシテの声、そしてワキとの掛合いが神話の世界への扉を開いていく。

「御影あらたに見え給ふ」で引廻しが外されると、白狩衣に照明が反射して、シテに後光が射したように見え、あたりがパアーッと輝き出す。


(大鼓は中入ではまだ交換されず、おそらく神楽・破ノ舞に備えてシテサシでようやく交換。

中入では、なかば居眠り状態だった柿原崇志さんも、後場が始まるとキリッと覚醒し、ほとんど本能的に体が動いて鼓を打ち、掛け声を発しているように見えた。
芸が血肉そのものとなって、心身と一体化している――。)



〈クセ〉
クセの前半はシテが輝きを増し、壮麗な印象を与える。
友枝昭世さんはこういう神的な存在が最もよく似合う。

小面の面にもふつうの若い娘のような人間味はなく、かといって硬質な近寄りがたさもない、女神の媚態ともいうべき「聖なる色香」を感じさせる不思議な表情を浮かべている。


活玉依毘売に身をやつしたシテは
「さすが別れの悲しさに」で、立ち上がって作り物から出、
「苧環に針をつけ」と差し出した右袖を糸巻に見立て、意を決したように右袖を見る。


上ゲ端のあと「こはそもあさましや」で、左袖巻き上げ、
「契りし人の姿か」と、作り物につけられた杉の神木を、愛おしげに、懐かしげに見つめる。


永遠の絆を誓い合った相手は、もう手の届かない存在。
その衝撃、そのせつなさ。
突然の別れは、いつの世にも、誰の身にも起こりうる。


神木を見つめるシテの姿からは抑えがたい恋慕の情があふれてきて、ことさら忘れ難いシーンだった。



〈神楽〉
「八百万の神遊」で扇を閉じ、「これぞ神楽の始めなる」と扇を幣のように左右左と打ち振り、太鼓が入って下居・達拝。

神楽の序は六つ。
カカリで常座前方に立って再拝。


ユリを多用した松田さんの笛が時空を歪ませて、観る者をタイムマシンに乗せたまま悠久の時をさかのぼってゆく。


二段目でシテは脇座前で右手の扇を逆手に持ち替え、右袖を巻き上げ、笛がさらにユリを効かせ(十ノユリ)、グル―ヴ感全開のユリ無き七ツユリが続き、昂揚感を高めつつテンポが速まり、三段から神楽留へ。



〈神々の依り代となるシテ〉
「天の岩戸を引き立てて」で、シテはアマテラスとなって羽根扇で岩戸を引く所作、
「常世の闇と早なりぬ」で、扇で顔を覆いながら舞台を廻る。


さらに「八百万の神たち岩戸の前にてこれを歎き」で
今度は八百万の神々となって作り物(岩戸)に向かって下居。

ここから再びアマテラスとなって、
「天照大神その時に岩戸を少し開き給へば」と、作り物に入って合わせた両手を開き、
すぐさま作り物から出て、今度は岩戸の隙間からアマテラスが観た神遊の様子を再現する。

(おそらく破ノ舞の前半はアメノウズメで、後半からアマテラスとなる。)




〈破ノ舞〉
本舞台で右手の扇を逆手に持ち、右袖を巻き上げ、脇正側を小さく廻って袖を返し、サーッと橋掛りへ進み、幕際へ。

二の松で左袖を被き、右手の扇で顔を隠す(→翁の型)。


この時の、シテの、扇越しの流し目。
ほとんど悩殺されそうになるくらい、ゾクッとする。

友枝昭世の舞台で背筋を走るような官能を感じたのは初めてだった。
なまなましさのない艶麗さだ。


シテは、袖を被き顔を隠したまま、再び幕際に戻り、そこから総ナガシで本舞台へ。
天の岩戸が開かれ、まばゆい光が射してゆく――。

本舞台で被いた左袖を戻し、左袖を勢いよく巻き上げる。

天高く昇った燦々と輝く太陽!


「面白やと神の御声の、妙なる始めの物語」


ここで、一、二瞬の完全なる静寂。


時空の狭間は再び閉じられ、夜が明けて、
シテの留拍子とともに神話の世界の夢は終わった。







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