狂言《魚説法》 出家
上杉啓太 施主 能村晶人
後見
野村万蔵
舞囃子 金春流《高砂》
安達裕香
熊本俊太郎 曽和伊喜夫 大倉慶乃助 澤田晃良地謡 深津洋子 村岡聖美 岩松由実
柏崎真由子 林美佐
舞囃子 宝生流《熊坂》
金野泰大
熊本俊太郎 飯冨孔明 亀井洋佑 姥浦理紗地謡 今井泰行 辰巳満次郎 小倉健太郎
高橋憲正 佐野弘宜
能
《東北》里女/和泉式部 坂口貴信
ワキ
矢野昌平 ワキツレ 村瀬提 村瀬慧アイ東北院門前の者 河野佑紀
小野寺竜一 岡本はる奈 柿原孝則
後見 観世清和 角幸二郎
地謡 山階彌右衛門 観世芳伸 浅見重好 木月宣行
武田宗典 鵜澤光 武田祥照 関根祥丸
真冬に逆戻りしたような冷たい雨の三月半ば。
このところ観能に熱が入らなかったのですが、青翔会は皆さん伸び盛り。
いずれも熱気あふれる舞台でした。
狂言《魚説法》
元漁師の新米僧が経文を覚えていないため、さまざまな魚の名前を織り交ぜて適当に説法をするというお話。
(拝見しながらアルチンボルトの《水》という絵が思い浮かんだ。魚介類で構成される奇怪な肖像画です。)
シテは角頭巾に灰色がかった薄紫の十徳、サーモンオレンジの狂言袴の出立。
春らしい色合いが愛嬌のある上杉さんに似合っていました。
(見所の女性から「可愛いわねえ」の声が。)
前回拝見した時よりも発声もさらに上手くなっていて、すんなりと楽しめた。
舞囃子《高砂》
シテの方はたまに化粧室などでお見かけして、モデルさんみたいにスタイル抜群の女性だと思っていた方(かな?たぶん)。
紋付の下の、上半身の前面にかなり補正を入れて、重心を低く取っていらっしゃるので、すらりと背の高い方だけれど、姿勢が比較的安定していたように思う。
地謡も女流で統一されていて、よくまとまっていた。
お囃子は、この日いちばんの出来。
ここで何度も書いているけれど、熊本さんの笛は個人的に好み。
大小鼓も息が合っていて、澤田さんの太鼓も良かった。
舞囃子《熊坂》
前の舞囃子組と入れ替えの時に見所(中正面の後ろ?)から男性の怒号が響いて、誰かが荷物がどうとか喚いている様子。
しばらく喧嘩の声が響いていたのですが、シテの金野泰大さんはその名の通り、泰然として謡と舞を披露された。
(こういう時の対応で株が一気にあがります。)
《熊坂》の宝生流の地謡がこの日の三流のなかでは一番良かった。
満次郎師の謡いがとくに◎
飯冨さんはやはり注目株。
前も書いたかもしれないけれど、
繊細なチ・タ音が源次郎師ゆずりで期待の小鼓方さんだ。
能《東北》
先月の社中会での舞囃子《三輪》が素晴らしかったので、坂口さんの《東北》、とても楽しみにしていました。
坂口さんの鬘物、序の舞物は初めて拝見したのですが、
そして、たしかにきれいだとは思ったのですが、
その一方で、序の舞の難しさ・手強さをあらためて実感した一番でした。
もちろん、坂口さんはアラフォー能楽師のなかではトップクラスのシテ方さんで、
この年代でこれだけの完成度で舞える人はそういないのは確か。
今まで拝見した青翔会の能のなかでも屈指の舞台でした。
ただ、
角で段をとって身体の向きを変える際にバランスを崩しかけたり、
袖を被く際に、袖を前方に被りすぎて面のほとんどが見えなくなったり、
(巧い人は被いた袖で面を庇のように覆って、能面に詩情豊かな陰翳を生み出す)
せっかくの節木増が生きていなかったり、
面のアテの加減なのか前場で顎の動きに合わせて面が上下に動いてしまったりと、
気になる部分もいくつか。
とはいえ、
後場で位と気を変え、高貴な和泉式部の霊にして歌舞の菩薩として現れた姿は美しく、
もはや若手のホープとしてではなく
中堅の実力者としての坂口さんの芸に期待しすぎているからやや辛口になるだけで、
他の人が同じように舞ったら普通にうまいレベルの序の舞でした。
ワキの矢野さんがハコビも居住まいも美しく、謡いも朗々として、
最後も余韻を乱さぬようシテが一の松を過ぎるのを待ってから立ちあがるという配慮。
拝見するたびに進化されているのが頼もしい。
小野寺さんの笛も素敵で、
柿原孝則さんの大鼓は元気すぎたけれど気合十分で清々しい。
岡本はる奈さんは亡き師への追悼の意も込めて打っていらっしゃる気がした。
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