「白地菊花模様袷法被」より |
狂言《菊の花》野村万作 高野和憲
能《熊坂》前シテ僧/後シテ熊坂長範 長島茂
ワキ旅僧 村山弘 アイ所の者 内藤連
一噌幸弘 曽和正博 高野彰 小寺真佐人
後見 友枝昭世 中村邦生
地謡 出雲康雅 粟谷能夫 粟谷明生 狩野了一
金子敬一郎 友枝雄人 内田成信 大島輝久
長島茂さんは仕舞と舞囃子では拝見したことがあったのですが、能のシテでは未見。中堅のうまいシテ方さんだと思っていたので、期待に胸を膨らませて鑑賞しました。
(能楽鑑賞教室以外では国立初シテでしょうか?)
【解説・盗賊外伝】
30分の解説をもっと短くして、そのぶん喜多流の若手数人の仕舞を入れたほうがこちらも楽しめるし、演者や流儀のアピールにもなるのではと個人的には思うのですが、普及公演だから解説重視なのかなー。
解説の内容はWikiの「熊坂長範」の内容とほとんど同じで、それ以外では、漱石の『吾輩は猫である』と鏡花の『いろ扱い』と『星女郎』に熊坂長範が登場するというお話が興味深かった。田中貴子先生は親しみやすい口調で話されるので、能が初めての方でもとっつきやすく人気なのかも。
漱石・鏡花以外にも、志賀直哉、宮本百合子、司馬遼太郎、薄田泣菫など数々の文豪・作家が作品のなかで熊坂長範に言及していて、「判官びいき」の対象となった義経に討たれた長範は、敗者に寄せる日本人独特の感性が生んだヒーローなのでしょうね。
【狂言《菊の花》】
先月の銕仙会でも万作さんの《菊の花》(アドは石田さん)があったのですが、休憩時間が短すぎて間に合わず、ロビーのモニターでチラリと観ただけだったから、念願かなってようやく拝見。
下女に追いかけられて、両手をねじあげられる表現力がさすが(痛そう!)。
腕力のある大柄な女性がほんとうに万作さんの後ろに立って、その腕を思いっきりねじあげているように見えてくる!
「緒太の金剛」は一応、草履ということになっているけれど、某放送禁止用語の隠語だという説もあり、そう解釈するほうが、主人が最後に言う「やくたいなし、しさりおれ」という言葉にもなんとなく納得がいく。
【能《熊坂》】
〈前場〉
次第の囃子で登場するワキの僧侶は先月の光宝会で拝見した村山弘さん。
東京では珍しい高安流ワキ方なので、次第の節も馴染みのある下宝とはずいぶん違う。
村山師は姿勢の美しい方で、修行を積んだ僧侶らしい落ち着きと風格があり、シテに向き合うときの視線も細やか。
もしかするとワキ方では宝生欣哉さんの次くらいに村山さんのワキが好きかもしれない。
「のうのう」の呼び掛けで揚幕の奥から登場した前シテ・謎の僧侶の装束は全体的に青系にまとめられ、グレー系にまとめたワキ僧の装束と差別化されている。
(ワキの僧侶が手に持つ数珠の群青房が灰色系の装束のアクセントに。)
また、ワキの角帽子がシテのそれよりも耳をすっぽりと覆っているのもちょっとした違い。
前シテ僧侶はいかにも武士あがりの新米僧といった風情で、僧侶然としたワキとは好対照。
シテの長島茂さんは、この日はとても緊張されているように見えた。
〈間狂言〉
アイの内藤連さん、うまくなりはったなー。
わかりやすく、聞き取りやすい間狂言でよかった。
〈後場〉
ワキの待謡、すごく良くて聞き惚れていたのに、途中から入った囃子が大音量過ぎてワキの謡が聞こえなくなり、残念。
後シテの長霊癋見はその名の通り、長範の亡霊用の専用面だけあって、普通の癋見よりも青白く、滑稽味が抜け、目がランランとして、どことなく恐ろしげ。
シテの謡が素晴らしかった。
とくに最後の、「しだいしだいに重手は負ひぬ」のところ。
滅びゆく者の悲哀と、悟りの萌芽を予感させる諦念のようなものを漂わせていた。
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