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2018年7月19日木曜日

船鉾 ~前祭巡行最後尾

あいだに観能記事が入りましたが、前祭の宵山のつづき。

岩戸山の近くにあるのが、豪華絢爛な船鉾。
御神体は、妊娠中に海外出兵を指揮した神功皇后なので、航海安全と安産の御利益があるそう。(ほかに住吉明神、鹿島明神、安曇磯良も祀られています。)


神功皇后の神面の本面は室町期の作。
山鉾巡行時には、江戸期の写しが御神体につけられます。
7月3日には神面の無事を確認する「神面改め」の神事があり、テレビで観たのですが、能面の古態を残す名品でした。



船首に君臨する鷁(げき)、宝暦10(1760)年作

舳先には、金色に輝く鷁(げき)。
鷁は空想上の水鳥で、水難除けの意味があるとのこと。
見た目はグリフォンの上半身に似ている?





水引もおそらく飛龍の刺繍でしょうか。
玉を嵌め込んだ大きな目玉と長いひげが、海の怪物クラーケンっぽい。





船尾も、彫刻、見送、欄干、大舵ともに贅を凝らしたもの。
こうした精緻な美術工芸品を惜しげもなく使うのが祇園祭の凄いところ。




大舵のアップ


船尾の舵には、黒漆塗りの螺鈿細工でつくられた飛龍。




高欄下の彫刻にも立体的な飛龍。
麒麟の水引もユニーク。

ほんまに、動く美術館。
豪華すぎて、ため息が出ます。







2018年7月18日水曜日

《放下鉾》《菊水鉾》~山鉾能楽シリーズ2

《芦刈山》からのつづきです。

【放下鉾】
放下鉾の名称は、能《放下僧》でもおなじみの僧形の遊芸者・放下僧が天王台(真木中央)に祀られていることに由来します。
別名「州浜(すはま)鉾」と呼ばれるのは、日月星の三光を象徴する鉾頭が州浜の形に似ていることから名づけられたそうです。

稚児人形・三光丸

放下鉾の目玉は、三人の人形方で操られ、まるで生きているかのように稚児舞を舞う稚児人形「三光丸」。
昭和4年(1929年)から祇園祭で使われているといいます。
会所に祀られた三光丸は、たんに可愛いだけでなく、優艶な妖しさをもつお人形。お稚児さんは神の依代なので、そういう独特の神秘性が稚児人形にはあります。




稚児人形用天冠(重要有形民俗文化財)。



天冠と鞨鼓をつけるとこんな感じ。




見送「バグダッド」

懸装品の見送は、染色家・皆川泰蔵作のフクロウが印象的なロウケツ染め「バグダッド」。異国情緒と中世の美意識がミックスされているのが祇園祭の魅力です。

放下鉾は、伝統的なしきたりを守って女人禁制。
女性は会所の2階まで上がることができますが、鉾への搭乗は男性のみ。
神事には聖域が絶対に必要だと思うので、伝統的なしきたりを守る放下鉾のこうした姿勢には大いに賛成。いろいろ圧力があると思いますが、貫き通してほしいです。




【菊水鉾】


菊水鉾の名は、町内にある菊水井に由来します。
菊水井は武野紹鴎の大黒庵にあったとされていることから、宵山の期間にはお茶席が設けられています。



豪壮な唐破風屋根
菊水鉾は唐破風屋根をもつ唯一の鉾。
破風下部の懸魚は、絢爛豪華な金色の鳳凰。
鉾全体に風格が漂います。





菊の御紋が入った車軸。
細部にも贅が凝らされています。

山鉾に使われている車は、源氏車(御所車)のように金輪を嵌めない木造の車輪。現在では、こうした木造車輪の制作・修理に携わる人はごくわずかしかいないといいます。需要自体が少ないため商売が成り立たたないのは致し方ないのかもしれないけれど、なんとか補助金制度などを設けて存続してほしいですね。

ちなみに、宇高徳成さんのブログで知ったのですが、菊水鉾の稚児人形・菊丸さんの着付は金剛流能楽師さんがされているようです。






2018年2月19日月曜日

千駄ヶ谷の富士塚 ~鳩森八幡神社

能楽堂に行くついでに寄り道して、富士塚初体験。
関西では見たことがないから、たぶん、富士山の見える場所にしかないのでしょう。
昔は、ここからも富士山が見えたんですね。

富士塚入口
寛政元年(1789年←フランス革命の年?!)築造とされる千駄ヶ谷の富士塚は、都内最古のもの。
東京都の有形民俗文化財に指定されているそうです。





登山道の階段は自然石でつくられ、頂上付近には富士山の溶岩が配されているとのこと。





山裾付近は、比較的ゆるやかな階段。





里宮
すこし登ると、里宮があります。
河口湖畔に行ったつもりで参拝。




亀岩

八大龍王が祀られている蓬莱亀岩。
この辺りから、ゴツゴツした岩を登っていきます。






溶岩っぽい岩も見えてきました!



小御嶽石尊大権現

山梨県神社庁のサイトによると、小御嶽は富士山よりも先に出現した山で、小御嶽石尊大権現は、富士登山者の守護神だそうです。
富士登山者の家運隆昌、交通安全、延命長寿、縁結びの守護神とのこと。





「釈迦の割れ石」と「金明水」


釈迦の割れ石とは、白山岳の手前にある縦に割れたような岩のこと。
廃仏毀釈の前に、白山岳が「釈迦岳」と呼ばれていたため、「釈迦岳の割れ石」がつづまって「釈迦の割れ石」になったようです。

金明水は、富士山の清らかな水が湧く聖泉。
琵琶湖からの通い水が湧いているという伝説もあるとか。


富士塚って箱庭みたいに小さな世界だけれど、けっこう凝った造りになっていて、作り手の遊び心とこわだりが細部にも感じられます。

ヨーロッパにもグロッタのような精密かつ豪奢な人工洞窟があるけれど、あれをもっと、う~んと庶民向きに、簡易に作った感じでしょうか。




奥宮

頂上に到着。
奥宮に参拝しました!

子供たちがはしゃぎながら登っていて、かわいい。
子供はこういう場所が好きですよね、秘密基地みたいで。





頂上から見た境内。河津桜がきれいに咲いています。



能楽殿





白梅と絵馬がこの時期らしい


御社殿
御祭神は、応神天皇・神功皇后。
能楽殿で観世流《箱崎》の演能があれば、ぴったりですね。





紅梅白梅ともに見ごろ


もう春だなあ。
でも、まだ四月は遠い。
その前に、花粉が……。





2018年2月11日日曜日

聖アンセルモ教会~カトリック目黒教会

前々から訪れたかった聖アンセルモ教会。
能楽堂の帰りに立ち寄ってみた。


設計は、フランク・ロイド・ライトに師事したアントニン・レーモンド。
1956年に竣工したこの教会堂もいかにもモダニズム建築らしい、コンクリート打ち放しの簡素で静謐な空間。

無機質な堂内のピンと張った空気が、冷たくて、心地よい。



外観



パイプオルガンとステンドグラス

立派なパイプオルガン、聴いてみたかった。
ステンドグラスは、昼間だともっときれいだろうな。



洗礼堂かな?











2017年6月21日水曜日

粟嶋神社~少彦名命の聖地


中海に浮かぶ小島・神明山全体が聖域

義母の入院にともない、4月下旬から東京と出雲地方を行ったり来たり。
ここは、古代神話が色濃く残る場所。
近くには夜見(黄泉)という名の町があったり、黄泉平良坂でイザナギがイザナミの追跡を防いだ大岩があったりと、異界が身近に存在します。
粟嶋神社もそのひとつ。


神社裏手、山麓の洞窟にある「八百姫宮」
神社裏手の洞窟は、その昔、18歳の娘が人魚の肉を食べて不老不死となり、若い姿のまま800歳まで生きたとされる八百比丘尼が籠った霊地。





八百比丘尼が籠った洞窟「静の岩屋」

まわりの人々が次々と老いて死んでいくなかで、自分だけが若いまま生き続けたため、娘は世をはかなんで尼となり、洞窟に籠って800歳まで生きたという。

洞窟はあの世とこの世の境界。
何百年ものあいだ、この世でも冥界でもない狭間に嵌まり込んでいたのでしょうか。
(謡曲の《菊慈童》を思わせます。)

生老病死は辛いことではあるけれど、ふつうに老いて死んでいくって、ほんとうは幸せなことなのかもしれません……。



原始林が生い茂る187段の階段

原始林が鬱蒼と生い茂る境内は「神が宿る森」。
みずみずしい緑の香りがたちこめ、木陰を吹き抜ける風が気持ちいい。





社殿はこんな感じ
三輪山と同様、山(島)自体が神山なので、社殿はもとは山麓にあったという。





御岩宮祠「お岩さん」

通称「お岩さん」と呼ばれる御岩宮祠。
神の依り代として古代から崇拝されてきた磐座信仰の名残り。

祭神の少彦名命が粟嶋に最初に到着した聖地とされています。


大国主(大己貴・大物主)命の片腕となって国造りを行った少彦名命は、農耕・医術・呪術・酒造を広めた神であり、また常世の神でもありました。

少彦名命は大国主(大物主)の分身とされたり、葛城の事代主や一言主と同一視されたりと、謎の多い神様です。





2017年6月12日月曜日

オルガン・メディテーション

2017年6月    カトリック東京カテドラル関口教会聖マリア大聖堂

折り鶴を思わせる聖マリア大聖堂、丹下健三設計、1964年
【前奏】
トマゾ・アルビノーニ  : オルガンのためのアダージョ

【後奏】
フェリックス・メンデルスゾーン :  ソナタ第6番 op.65,6 
  コラール 「天におられる私たちの父よ(主の祈り)」 と 変奏
  フーガ   
  終楽章 アンダンテ

 ジャン・ラングレー : グレゴリオ聖歌による3つのパラフレーズ より
  神への感謝の賛歌 「 テ デウム 」



ホテル椿山荘の向かいにある東京カテドラル関口教会。
月に一度催されるオルガン・メディテーションに初めて参加した。


バスから降りると、翼を広げた水鳥のような優美なフォルムとメタリックな質感が印象的な「ザ・タンゲ」的巨大建造物が目の前に出現する。
夕陽を浴びたステンレススチールが茜色に染まりながら天空の移ろいを映してゆく。


教会内部はコンクリート打ちっぱなしの内省的で簡素な空間だ。
最奥部には祭壇と高さ16メートルの十字架が安置され、背後に縦長に埋め込まれた薄い大理石が天然のステンドグラスとなって、繊細な光をほのかに透過している。


トップライトが十字架形に配された天井の高さはおよそ40メートル。建物全体に上昇感が満ちている。
全体としては、ロマネスク修道院のようなストイックな雰囲気とゴシック的荘重さが共存し、祭壇前に飾られた花束の白ゆり(聖母マリアの純潔の象徴)からはかぐわしい香りが漂う。


会衆席が埋め尽くされた頃、白いシルクの祭服に身を包んだ若い神父さんが現れ、オルガン・メディテーションが始まった。

祭壇の向かいの階上にある巨大なパイプオルガン(教会用オルガンとしては日本最大)から重厚的な音色が響き、脳のコリがほぐれていく。


オルガンの前奏と後奏のあいだに、神父さん主導で祈りや唱和、聖書朗読がある。
その舞台俳優のような発声と優しい語り口が耳に心地よく、とーっても癒される!

「疲れた者、重荷を負う者は誰でもわたしのもとに来なさい、休ませてあげよう」と、神父さんの柔和な声を聞くと、ほんとうに救われる気がしてくる。

(わたしはとくに何かの宗教に属しているわけではないのですが、宗教空間に身を置くのが子供の頃から好きなのです。)


メンデルスゾーンのソナタ第6番までの夢見心地から一転、最後の神への感謝の賛歌「テ デウム」は眠りからの覚醒を促すような崇高な響きとなり、星々が軌道をめぐるなかで身体が遊泳しているような宇宙的な感覚に襲われる……。



終了後、外に出た。
空には朧月がぼんやり浮かび、心もふんわり軽い。


オルガン・メディテーション、またぜひ訪れてみたい。


フランスのルルドの洞窟を再現した祈りの場。
1911年にドマンジェル神父が建てたという。