2017年7月31日月曜日

息吹の会 最終公演~東日本大震災復興支援能・東京公演

2017年7月30日(日) 14時~16時40分 喜多能楽堂
ご挨拶・解説 山井綱雄

独吟《高砂》 水上優

舞囃子《竹生島》 中村邦生
   八反田智子 鵜沢洋太郎 柿原光博 小寺真佐人
   地謡 内田成信 佐々木多門 佐藤寛泰 佐藤陽

仕舞《屋島》   小島英明
  《花筐・狂》 武田宗和
   地謡 浅見重好 藤波重彦 坂井音雅 武田宗典

一調《放下僧・小歌》山井綱雄×柿原光博

狂言《清水》シテ太郎冠者 山本東次郎
    アド主人 山本泰太郎 後見 山本凛太郎

仕舞《野守》 佐々木多門
   地謡 中村邦生 内田成信 佐藤寛泰 佐藤陽

能《羽衣・和合之舞》シテ天人 岡 久廣
   ワキ白龍 殿田謙吉
   八反田智子 鵜沢洋太郎 國川純 小寺真佐人
   後見 武田尚浩 北浪貴裕
   地謡 武田宗和 浅見重好 藤波重彦 岡庭祥大
      小島英明 坂井音雅 武田宗和 高梨万里





2階のロビーには、息吹の会の過去の公演の番組や写真が展示されていた。
各流儀の宗家・代表者をはじめ、あの方もこの方も、そうそうたる顔ぶれ。
多くの能楽師さんが参加されていたんですね。

震災の一年後に松濤の観世能楽堂で発足公演が開かれた息吹の会。
(初回東京公演での収益を元手に、被災地で公演を行ってきたそうです。)
発足当時は、わたしは能にまだ関心がなかったから、この会のことも存じ上げなかったのですが、最終公演でその活動に触れることができて幸せでした。


あいさつ・解説
会の発足経緯や活動状況、曲の解説など。
山井さんのお話は見所の年齢層を考慮して年配の方にもわかりやすい冗談を交えるなど、配慮が行き届いている。さすがです。
この日は東京近郊で避難生活を送っている方々も大勢いらしていて、その方々に能をご覧いただくのが今回の重要な目的とのこと。


独吟《高砂》・舞囃子《竹生島》
冒頭は脇能二曲。
水上さんの高砂の祝言性に満ちた伸びやかな謡。
中村邦生さんの舞は初めて拝見する、と思ったが、拙ブログを検索すると以前に舞囃子を拝見していて、良かったことを書き留めていたのだった(自分でも怖ろしいほど観たそばから忘れていく……)。

喜多流の人って、細身で引き締まっているのに、下半身は強固な人が多い。それでいて余計な力は少しも入ってなくて、上半身にはスーッとした軽やかさがある。床に吸い付くようなハコビ。この方の能を観てみたくなった。



仕舞《屋島》《花筐・狂》
観世流の仕舞二番。
ザ・観世宗家の方々が喜多流の舞台で謡うのは、(よくあることかもしれないけど)わたしは観たことがなかったので絵的にシュール。
宗家系の地謡で小島さんが舞うのも珍しい。気合の充実した《屋島》。

武田宗和さんの《花筐・狂》はクルイの要素をあまり出さず、「南無や天照皇太神宮、天長地久と唱えさせたまいつつ」で合掌する型の敬虔な美しさが際立ち、「天長地久」に被災地のみならず、これからの日本の国土安穏への祈りが込められているように感じた。
サラリと舞って曲の本質を表現するベテランの味わい。



一調《放下僧》
旧雨の会の一調を聞いた時も思ったけれど、謡の巧い人。
トークもうまいし、ルックスもいいから人気が高いのもうなずける。
金春流のことはよくわからないけれど、この方の謡は流儀のなかではおそらく現代的なのかしら。


狂言《清水》
東次郎さんの身体は衰えを知らない。
いったい、日々どれほど稽古をされているのだろう。
それと、主人にバレそうになるときの太郎冠者の心理描写と間の取り方が絶妙。
鬼瓦もようの緑地肩衣が東次郎さんの可愛らしさに似合っていた。
「いでくらおう~」の節が、同じ大蔵流でも茂山家とはだいぶ違うんですね。



仕舞《野守》
期待の仕舞《野守》。
期待以上に凄かった!!
全身から放電しているように気迫がビリビリみなぎり、地鳴りがするような足拍子には、みずからが野守の鬼となって大地を踏み鎮め、大地を守護しようという強い意志と祈願が込められているよう。
この六年間の佐々木多門さんのさまざまな思いを垣間見たような気がして、胸が熱くなる。

もともと良い役者さんだったけど、舞にも謡にも磨きがかかり、芸位を深めて、見所の魂を揺さぶる心技体を獲得されつつあるように感じた。




能《羽衣・和合之舞》
とてもきれいな増の面。正面から見るとやや現代的な顔立ち。
天冠と長絹にあしらわれた鳳凰は迦陵頻伽であるとともに、復興のシンボルとしての、蘇える不死鳥(ファニックス)だろうか。あるいは未曽有の事故があったことからすれば、人間の業の象徴としての「火の鳥」の意味合いも含まれているのかもしれない。


天女が優雅に袖を翻し、舞い遊ぶ。
この一瞬一瞬を、かみしめるように味わう。
こんなふうに美しいものに感覚的に触れるだけで、ほんのいっときでも、心が満たされ、慰められる……。
ほんのいっとき、ほんの一瞬でも、癒されることが、人間にとってとても大切なのだと思う。

天女は光り輝く宝の数々をキラキラと国土に振りまいて橋掛りを舞い進み、ふわりと飛翔するように左袖を被いて幕のなかへと消えていった。



終演後はカーテンコール。
息吹の会実行委員(柿原光博、小島英明、小寺真佐人、佐々木多門、八反田智子、水上優、山井綱雄)と顧問(岡久廣、國川純)の方々が舞台に並んでご挨拶。
岡久廣さんは面だけはずして、装束をつけたまま。
困難な時期にある方々を、試行錯誤しながらずっと支え続け、活動されてきた能楽師の方々。
流儀を超えてこれだけの活動をされるなんて、いろんなご苦労もあったかと思う。
なかなかできることではありません。


良い会だったと、しみじみ
心に残る夏の一日でした。





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