2017年7月2日(日)13時~17時 31℃ GINZASIX観世能楽堂
能《小督・替装束》シテ 津田和忠
ツレ 藤波重孝 トモ 野村昌司 ワキ 舘田善博
寺井宏明 幸信吾 安福光雄
後見 寺井栄 上田公威
地謡 角寛次朗 山階彌右衛門 中島志津夫 勝海登
木原康之 清水義也 木月宣行 佐川勝貴
狂言《悪坊》善竹十郎
善竹大二郎 善竹富太郎
仕舞《屋島》 関根知孝
《井筒》 武田志房
《鐘之段》 観世恭秀
《船弁慶キリ》 浅見重好
地謡 岡広久 藤波重彦 武田友志 坂井音晴
能《龍田・移神楽》シテ 片山九郎右衛門
ワキ 福王茂十郎 ワキツレ 福王和幸 矢野昌平
アイ 善竹十郎
杉市和 大倉源次郎 亀井忠雄 観世元伯→小寺佐七
後見 観世清和 武田尚浩
地謡 野村四郎 観世芳伸 北浪昭雄 上田貴弘
武田文志 坂井音雅 北浪貴裕 大西礼久
都知事選の日曜日、能楽堂に入ると、スポンサーからの提供とのことで、ジュースとクッキーのサービスが。
銀座に移ると、いろいろスポンサーが付くんですね。
初めて行く新能楽堂は、縦長でも天井が高いためか、思ったほど圧迫感はなく、通路やロビーは狭いものの、銀座の一等地にこれだけのスペースを確保するにはやむを得ないだろうし、それよりも商業施設の地下三階に能楽堂が出現するという空間設計が面白い。
観世能楽堂は舞台の高さが一般の能舞台よりもかなり高く、松濤の時は座席の前後に段差がけっこうあったのでわりと見やすかったけれど、新能楽堂は見所の傾斜が緩やかなせいで、前方の席だと首が疲れそう。
(皆さん、けっこう斜め上を向いて観劇されていた。)
この日、わたしはやや後ろ寄りの席に座ったのですが、そこからだと囃子方と同じくらいの目線の高さになり、座席の位置も、前に座っている人と頭が重ならないようずらして配置されているので、視界を遮るものがなく、比較的見やすかったです。
(とはいえ、やはり舞台は遠い。)
個人的にこの能楽堂のいちばんの難点は、大好きな脇正面席が少ないことかな……。
さて、能《小督》です。
わたしにとって、《小督》はつかみどころがない曲。
同じ禅竹作でよく似た構成のものに《楊貴妃》や《千手》があるけれど、これらの曲は楊貴妃や千手の前という美女がシテで、見どころやテーマも分かりやすいのだけれど、《小督》はシテが美貌を誇る小督ではなく、(笛の名手ではあるけれど)地味な臣下の源仲国。
小督と仲国の関係を演者がどう描くか、観る側が二人の関係をどう感じるかで舞台の出来や印象がずいぶん違ってくる。
この日のシテが演じた仲国は、実直で律儀な忠臣としての仲国でした。
中に入れてくれるまでここを動かない、と柴垣の外で居座る場面は、テコでも動かない不屈さ、粘り強さ。
乗馬のシーンは特に見応えがあり、駒ノ段では、月夜の嵯峨野を鞭を振りながら馬を駆る疾走感を、流れるように滑らかなハコビで表現し、最後の「ゆらりとうち乗り」でゆったりと馬にまたがる型からは、駿馬の臀部の豊かな量感さえ感じられた。
男舞は、舞台目付柱横に斜め方向に片折戸の作り物を置いたまま舞うもので、通常の5分の3ほどの狭いスペースで舞う、篤実な忠臣らしく折り目正しい端正な舞。
ツレの小督の面は連面なのだろうか、シテにも使えそうな若女っぽい美しい面。
正面から見ると才色兼備の小督らしい知的な美女、斜め横から見ると少しコケティッシュな印象に変わる。
高倉院が夢中になるのも無理はないと思わせる小督の気品ある佇まい。
そしてトモの侍女もなんとも可愛らしく、手の所作もきれいでした。
* * * * *
詞章のなかで、小督が秋の月夜に想夫恋を琴で奏でるシーンは、『源氏物語』のなかで夕霧と落葉宮が、琵琶と琴で想夫恋を合奏する場面を思わせる。
柏木の未亡人である落葉宮に、ひそかに思いを寄せる夕霧。
おそらく禅竹もそういう場面を念頭に置いて《小督》を書いたのだろうし、いにしえの人も『源氏物語』のこのシーンを思い浮かべて、男女間のほのかに秘めた想いを無意識の中で重ね合わせながらこの能を観たのかもしれない。
そこはかとない男女の心の交流、言葉にできない・行動には移せない想い、立場や状況が違えば恋に落ちていたかもしれない危うさといったものがほんのり漂ってくる━━そんな能《小督》をいつか観てみたい。
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狂言も拝見したかったのですが、体調不良のため後半に備えて休憩していました。
能《龍田・移神楽》前場につづく
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