2017年7月8日(土) 13時~15時40分 国立能楽堂
能《二人静》シテ菜摘女 梅若万三郎
ツレ静の霊 梅若紀彰
ワキ勝手宮神主 福王和幸 アイ神主の従者 茂山逸平
松田弘之 幸清次郎 亀井広忠
後見 加藤眞悟 松山隆之
地謡 伊藤嘉章 馬野正基 青木一郎 八田達弥
長谷川晴彦 梅若泰志 古室知也 青木健一
《二人静》前半からのつづき
〈静の霊の憑依〉
怖ろしい体験をした菜摘女は、急いで戻り、この旨を神主に報告。
亡霊の存在を疑う言葉を女が口にしたとたん、静の霊が菜摘女に取り憑く。
ここでもシテが直前で絶句したため、見どころとなる「なに誠しからずとや」以降の憑依の瞬間の、声音や調子の変化がよくわからなかった。
ただ、「絶えぬ思いの涙の袖」でシオルときの、その手の美しさには比類がなく、
小指を深く曲げ、薬指と中指を軽くふっくらと折り曲げた白い手の優美な表情……
永遠の若さを宿したかのようなその手が語る、静の苦悩、恋慕、言葉にできない万感の思いに比べたら、絶句など取るに足りないことに思えた。
〈物着アシライ〉
神主に舞を所望されシテは、勝手宮に舞装束が納められていることを告げ、
神官は宝蔵から衣裳を取り出し、亡霊に憑依された菜摘女に手渡す。
後見座での物着を終えたシテの出立は、ほどよく褪色した紫長絹に静折烏帽子。
長絹の裾には銀杏の吹寄せと流水、上部には枝垂桜と扇があしらわれ、前半に登場した静の亡霊の唐織文様とリンクする。
義経と別れた際に舞った扇と、咲き誇る吉野桜。
それこそが、静の妄執と恋慕のモティーフなのだろう。
このモティーフが織り込まれた装束を身につけることで、静の亡霊が登場せずとも、霊が憑いて身体が乗っ取られたさまが視覚的に表現される。
〈クセ→序ノ舞〉
馬野さんが加わった、趣き深い研能会の謡。
金色の月光を浴びたシテの舞を、松田さんの笛が彩ってゆく。
相舞の縛りから解放されたシテが、自由に、虚心に、舞っている。
余分なもの、無駄なもの、余計なものがすべて削ぎ落された、宝石のような舞。
そこには、悲しみや懐旧の念を舞おうという作為はいっさい感じられず、
ただ何も考えず、型に忠実に、練磨された身体と魂のおもむくままに舞っているように見えた。
その無心の舞から、静の思いがおのずと滲み出て、観る者の心と響き合う。
なぜか、ひとりでに、涙が流れ出た。
美しいものを観たとき、どうしようもなく、心が揺さぶられ、身体が反応する。
あの感じ、
不可抗力の涙だった。
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