2017年6月14日水曜日

第13回青翔会・《鐘の音》能《杜若》ほか

2017年6月13日(火) 13時~16時10分 国立能楽堂

季節は杜若から紫陽花の時期へーー6月の国立能楽堂の植え込み

 舞囃子《清経》シテ 佐藤寛泰
   熊本俊太郎 清水和音 亀井洋佑
   地謡 佐々木多門 塩津啓介 佐藤陽 谷友矩

舞囃子《野守》シテ 武田伊佐
   小野寺竜一 大村華由 大倉慶乃助 澤田晃良
   地謡 今井康行 辰巳満次郎 高橋亘
      佐野玄宜 金森良充

舞囃子《鵜飼》シテ 政木哲司
   高村裕 曽和伊喜夫 柿原孝則 金春國直
   地謡 深津洋子 柏崎真由子 岩松由美
      林美佐 中野由佳子

狂言《鐘の音》シテ 上杉啓太
    主 能村晶人 後見 野村万蔵

能《杜若》シテ 角幸二郎
    ワキ 矢野昌平
    栗林祐輔 岡本はる奈 柿原孝則 姥浦理紗
    後見 観世清和 山階彌右衛門
    地謡 観世芳伸 井上裕久 浅見重好 清水義也
       坂口貴信 木月宣行 木月章行 井上裕之真



青翔会を観ると、能楽界の現状についていろいろ考えさせられます。

公演数の増加にともない、働き盛りの三役が次々と倒れていくなか、囃子方・ワキ方の養成は切実な問題。
養成所も「ロボットやAIに絶対に取って代わられることのない職業!」として学生さんたちにもっとプロモートすればいいのにとか、シテ方からの転向が認められてもいいのではないかとか、部外者だから勝手なことを思ったりもするのですが、実際には難しい……。

そんななか若手の方々の爽やかな奮闘ぶり、成長ぶりが目を引く良い公演でした。


舞囃子《清経》
佐藤寛泰さんは初めて拝見する。
「足弱車のすごすごと」で立ち上がり、大小前でビシッと静止する不動の姿勢は、基礎を徹底的に叩き込まれ、鍛え上げられた強靭な腰のたまもの。

喜多流らしい骨格のたしかな舞のなかにも、
たとえば「腰より横笛抜き出し」で扇を笛に見立てて吹く型は、指の重ね方・折り曲げ方が繊細で、貴公子の風情を漂わせる。

佐々木多門さん率いる地謡も少人数ながら聞かせどころを心得た謡。
清経の入水の場面は嫋々とした儚さを、「さて修羅道におちこちの」からは凄惨な修羅道の世界を臨場感豊かに謡いあげ、全体として芯のしっかりした舞台だった。



舞囃子《野守》
全身全霊で舞った武田伊佐さんの野守。
あの華奢な身体のどこから出るのかと思うほど、地響きがするようなドスのきいた野太い声。
足拍子でも鬼神の重みをあらわし、扇を野守の鏡に見立てて扱う型も見事。

この舞囃子でもうひとつ心に残ったのが、澤田さんの太鼓の粒。
以前からよかったけれど、さらに響きの良い粒になっていて、打音の美しさは師匠の芸をしっかり受け継いでいらっしゃっる。
ちょっとホロリとなった。




狂言《鐘の音》
水車に朝顔を描いた肩衣が清々しく、愛らしい。

最初は鐘が鳴りそうもない撞き方が気になり、《鐘の音》の難しさを実感したけれど、建長寺の鐘の音の、モンモン~という冴えた響きの表現が最後の小舞とともにとてもよかった!




能《杜若》
青翔会としては去年の《東北》(シテ坂口貴信)ぶりにレベルの高い舞台。
角幸二郎さんのシテは荒磯能の《安達原》で拝見して以来なので久しぶり。

お囃子も素晴らしく(栗林さんはもう別格)、
とくに物着のアシライでの柿原孝則さんの大鼓が冴えていて、打音とともに掛け声も味わい深い。ぜったい、良い大鼓方さんになりはると思う!

岡本はる奈さんも、打音は申し分なくきれい。チやタ音も心地よく響き、掛け声にも磨きがかかっていた。
ここ数年の成長ぶりは目を見張る。

そして研修生の姥浦さんも粒のひとつひとつを丁寧に、心を込めて打っているのが伝わってきて、太鼓方にはこの姿勢こそ大事だと気づかされる。
(終演後、観客の方々が「太鼓の姥浦さんうまくなってたねー」と口々におっしゃっていて、皆さん、陰ながら応援してはるんですね。)

(観世清和さんが主後見だったけれども、物着の着付けはさすがに家元ではなく、直前に家元と入れ替わった関根祥丸さんがサブで着付けをされていた。)


シテの角幸二郎さんは謡がとりわけ良く、一言一句が明瞭で聞き取りやすい。
ワキとの掛け合いでは美声同士のやり取りが耳に快感。
オペラっぽい気もするけれど、これが現代的な能なのかもしれない。

序の舞は、杜若から妖精が抜け出たような透明感のある軽やかさ。
フワリと空気をはらんで巻き上げられる袖が、歌舞の菩薩とも人間とも花の精とつかない、両性具有的なとらえどころのなさを表している。

二段オロシで優美に袖を被くその姿態が、杜若の花弁そのものの形となって観る者に強く印象づけ、正統派の若女の面がシテの芸風とよく合っていた。





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