第一部 受け継がれる神話的世界―宮地嶽神社のツクシ舞と巨石古墳
(1)ツクシ舞と阿曇磯良 浄見譲(宮地嶽神社宮司・ツクシ舞家元)
(2)ツクシ舞実演
①ツクシ神舞 「浮神」 一人舞
②ツクシ神舞 「秋風の辞」二人舞
③八乙女舞 「橘」 四人舞
第二部 「神話の詩学」
「記紀歌謡の世界」
渡邉 卓(國學院大學研究開発推進機構助教)
「神話の詩学」
アラン・ロシェ(フランス高等研究実習院教授)
司会進行
平藤喜久子(國學院大學研究開発推進機構准教授)
東京ではほとんど観る機会のない筑紫舞(ツクシ舞)が拝見できるというので行ってきた。
筑紫舞とは、能楽とも縁の深い青墓の遊女や今様を謡った傀儡女と同様、海人族を祖先とする筑紫傀儡子によって伝えられたもので、昭和初期までは宮地嶽神社奥宮の奥行き13メートルの岩屋(石室古墳)のなかでひっそり舞われていたという。
この日は、その筑紫舞のなかでも一子相伝の秘舞とされる「浮神」が実演された。
「浮神」は、海人・安曇族が信仰した安曇磯良の故事にちなんだ舞である。
鈴鹿千代乃著『神道民俗芸能の源流』(国書刊行会)によると;
神功皇后が三韓征伐の折、住吉大神にその方策を相談したところ、海底で眠りをむさぼる安曇磯良を召しだして、これを竜宮城に遣わし、竜王から干満二珠を借りて、珠の威力で攻めれば勝利すると教えられた。
そこで「せいのう」という舞を好む安曇磯良を海底から召しだすために、海中に舞台を構えて舞を奏すると、磯良は鼓を首に掛け、浄衣の舞姿となって亀に乗り、海中より浮かび上がってきたという。
ただし、磯良の顔には海藻や貝殻がびっしりと付着して見苦しいため、磯良は顔に覆いを垂れて舞ったそうである。
(民俗学的解釈によると、「見苦しいため顔を白布で覆った」というのは合理的解釈にすぎず、それは磯良が人間界には属さない、異界の者であることの暗号とされる。)
さらに同書によると、 磯良(イソラ)の舞は、海中の精霊である磯良(海人族の代表者)が、神功皇后(大和朝廷)に服従の誓いとして舞った服従儀礼であったという。
また、宮地嶽神社の浄見宮司のお話では、磯良(イソラ)舞は筑紫舞だけでなく、福岡県吉富町・八幡古表神社の傀儡子の舞・細男舞や、春日若宮おん祭の細男(せいのう)の源流にもなっているとのことである。
この安曇磯良の故事が、実際にどのように舞われたかというと;
(実演は、秋風の辞→橘→浮神が実際の順番。)
①ツクシ神舞(かんまい)「浮神」
一子相伝の秘舞のため、宮地嶽神社宮司でツクシ舞家元の浄見譲氏が舞った。
(浄見氏は九州男児らしいキリッとした男前で、どことなく能楽大鼓方の柿原弘和さんに似ている。)
楽器編成は、横笛(神楽笛or龍笛or高麗笛)と、びんささら。
舞台中央奥の台の上に鼓一丁が置かれており、そのかたわらに後見が控えている。
楽器が奏され、白い浄衣に身を包み、白布を被いた舞人が舞台袖から登場する。
しばらく白布を被いたまま舞ったのち白布をとると、白い布で覆われた舞人の顔が現れる。
ちょうど能《望月》の獅子舞のような、目のところだけあいた覆面姿だ。
被いた白布をとることで、安曇磯良が海底から浮き上がる様子をあらわしたのだろうか?
舞手は台上から鼓を取り、片脚を折り曲げて膝を上げ、その膝の上に鼓を載せて、鼓を打ちながら片足で身体を回転させる。
ルソン足という片足を前に上げる所作をしたり、斜めに移動したりと、独特の型がつづく。
さらに鼓を置いて、今度は能《猩々乱》で片足立ちで甕の中をのぞきこんでクルリと回転するのと似た型をしたり、飛安座で着地時に片足を出してその姿勢で身体を回転させたりと、難度の高い型の連続。
最後は、飛び返りを二回して、また元のように白布を被き、舞台袖に退く。
本来は神前でのみ捧げられる舞というだけあって、厳粛な雰囲気の舞だった。
②ツクシ神舞「秋風の辞」
こちらは宮司とは別の、おそらく神職の方々による二人舞(相舞)。
楽器編成は、和琴、笏拍子&歌、鞨鼓、篳篥、横笛(神楽笛or龍笛or高麗笛)。
装束は、武官束帯に似たもので、闕腋袍に長い下襲の裾、表袴、箭(や)を負い、太刀を佩いている。
装束の色が、一人は袍の色が朱色で、下襲の色が墨色、もう一人が袍の色が墨色で、下襲の色が朱色と、カラーを反転させているところがおしゃれ。
舞は、相似形の相舞で、膝行したり、片足を上げたまま回ったり、ケンケンのように片足で前進したり、スローな飛び返りのような型があったり、舟を漕ぐような所作があったり、何かを指折り数えたり、開いた扇を両手で持ってかざして座ったりと、型どころが多い。
時折、舞人どうしが見つめ合ったりするのがなんだか色っぽい。
残念だったのはこの舞が何を表しているのか説明がなく、歌の言葉も聞き取れなかったこと。
事前の宮司さんのお話で、そういうところが知りたかった。
③八乙女舞「橘」
四人の女性による舞。
「八乙女舞」という名から、本来は八人で舞うのだろうか?
楽器編成は、和琴、笏拍子&歌、鞨鼓、横笛(神楽笛or龍笛or高麗笛)。
女性が笏拍子&歌を担当したので、先ほどの「秋風の辞」と比べると、より穏やかな印象だ。
装束は、日本の巫女風ではなく、大陸or半島風の異国的で色彩豊かな装束。
おそらく五行の色をあらわす長いリボンのついた鈴を持って舞い、途中から扇に持ちかえる。
若くてきれいな女性四人の舞は優雅でゆったりしていて、目と耳に心地よく、脳波がα波になり、セロトニンが分泌されたように、夢うつつの気分になる。
観ていて癒される舞だった。
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