姥(重文)、室町・安土桃山16世紀、金春家伝来 |
↑ 眼は丸や四角ではなく、全体をくりぬいているそうですが、それでも視界が狭そう。
(デジカメで撮ると、「目つぶりを検出しました」というメッセージが……。)
《高砂》《国栖》の嫗のほかにも《関寺小町》《姨捨》にも用いられるとのこと。
たしかに、顔立ちの整った品格のある老婦人。
歯並びも高齢にもかかわらずこれほどきれいなのは、
室町・安土桃山時代では奇跡ではないだろうか。
だからこそ神がかった役に用いられるのですね。
老女「洞水打」朱書、江戸期17・18世紀 |
↑ 《卒塔婆小町》《関寺小町》《姨捨》などで用いられる老女。
解説によると、「姥のような皺はなく、白髪を混ぜるところが痩女とは異なる。
この面は少し意地が悪そうで、小町の品格は感じられない」とのこと。
顔立ちは整っているけれど、
顔つきに生き方や日頃の思考回路が投影された例。
生身の人間も歳を重ねるほど、人品が顔に出てしまう。
人を妬んだり性格がひねくれていたりすると、こういう顔つきになるのかもしれない。
やっぱりマイナスの感情はいけませんね。 能面を観ているとつくづく思います。
痩女、室町期16世紀 |
↑ この面はどことなく、氷見の河津の女性版のように見える。
なんとなく、品位に欠けるような……。
こうして見ていくと、高齢の女性や痩せこけた女性を
美しく上品に造形化するのは、至難の技だということがよく分かる。
だからたとえば、観世宗家が《求塚》で使用した気品ある痩女が
どれほど名品なのかというのも、こうした面と比べると実感できる。
山姥、江戸期17・18世紀 |
↑ やはり、山姥は迫力がある。
解説によると、《頼政》でも使用されることがあるので、この面の眉の上に釘があるのは
頼政の鉢巻を留めるためのものだそう。
髪は白髪だけれど、肌に張りがあって若々しく年齢不詳。
人間に恵みを与えつつ脅威ともなる、山の魔力の象徴なのだろう。
鉄輪(重文)「林喜兵衛作」墨書、江戸期18・19世紀、金春家伝来 |
↑ 解説によると
「額が白く、目よりしたが赤いのは橋姫に似るが、角、目、口は般若、蛇に近い」とのこと。
市井の女性の怨み・嫉妬の表象化。
下の般若と比べると品格の違いがよく分かり、《鉄輪》の専用面であることも納得。
般若、江戸期17・18世紀、金春家伝来 |
↑ 《道成寺》や《葵上》で用いられる般若には、怨みよりも悲しみを強く感じさせる。
(上の「鉄輪の面」と比べると、眉の八の字の角度が、こちらのほうがより鋭角で、
富士の裾野のような弧を描いているのが分かる。
この明確な八の字眉こそ、般若の悲哀を伝えるポイント。)
造形もまことにエレガントで凛とした気品があり、ゆるみがない。
この面で、あの方の《葵上》を見てみたい!
蛇、江戸期17・18世紀 |
↑ 般若との違いは、口がより大きく、口のまわりに鰭状の突起部分があり、
耳が大きくラッパのような形をして、肌を金泥で塗っているところだそう。
人間であることから乖離して、意思の疎通さえ不可能な存在に近づいてゆく。
能面のなかでいちばん恐ろしい女面。
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