夜の白川沿い、知恩院古門 |
能《善界・白頭》片山九郎右衛門
ツレ浦部幸裕 アイ井口竜也
ワキ小林努 有松遼一
森田保美 林吉兵衛 河村大 前川光範
後見 青木道喜 味方玄 梅田嘉宏
地謡 浦田保浩 浦田保親 吉浪壽晃
分林道治 味方團 松野浩行
河村和貴 谷弘之助
九郎右衛門さんの《善界・白頭》は、4年前に銕仙会で拝見した(その時の感想はこちら)。もう4年前になるのか……。
あの時はワキが宝生欣哉、お囃子は笛・竹市学、小鼓・成田達志、そして太鼓が観世元伯という凄いメンバーで、まさに全身に鳥肌が立つゾクゾクするような舞台だった。いまでも鮮明に記憶に残っている。
【前場】
時間が押していたのか、お調べのないままお囃子登場(お調べのない舞台は初めて。なんとなく演者も観客も気分が落ち着かないものです)。
短縮ヴァージョンのため、道行やクリ・サシ・クセは省略。クセは、善界たちが天狗稼業の辛さを嘆くという、この曲の妙味となる部分なので、カットされたのはちょっと残念だったけど、時間の都合上いたしかたない。
ツレの浦部幸裕さん、謡に味わいがあり、九郎右衛門さんとのシテ・ツレの掛け合いのところも聴き応えがあった。太郎坊の庵室で密談するところも、シテ・ツレが同時に大口をつまんでサッと裾を上げ、キリッとした物腰で下居する。
ここが、合わせ鏡のようにそろっていて、観ていて気持ちいい。
シテとツレの呼吸がぴったりで、所作もともにきれい。こういう組み合わせで観ると前場がぐっと引き締まり、舞台がいっそう緊密になる。
【来序中入】
「南につづく如意が嶽、鷲の御山の」でシテは東(上手)を仰ぎ、「雲や霞も嵐とともに失せにけり」でサーッと風になったように飛翔感のあるハコビで橋掛りをすり抜けて、中入。
続いて来序の囃子で、ツレが退場。
この時の前川光範さんの、天高く突き抜けるような高音の掛け声に吸い寄せられた。観世元伯さんが旅立って以来、太鼓で感動することはあまりなかったけれど、これほど素晴らしい太鼓をまた聴くことができるなんて!
高く、高く、もっと高く、天と交信しているような、胸がときめく太鼓。
【後場】
時間がないためか、ワキの出の一声の囃子の最中に、牛車の作り物が脇座に置かれる。作り物は、2日前に見た《車僧》の破れ車と同じ造り。
続いて、大ベシの囃子で後シテ登場。
いかにも白頭の小書らしい重みのあるハコビから魔物めいた雰囲気がたちこめ、まるでスモークでも焚いているかのように霞がかって見える。「大唐の天狗の首領、善界坊とは我がことなり」の声に、大天狗の威信をかけた決意と意志がみなぎっている。
「不思議や雲の中よりも、邪法を唱ふる声すなり」の足拍子は、音を立てない「雲中の拍子」。重力を感じさせない浮遊感がある。
ワキがお経を唱えると、シテは雲から落下したように飛び安座をして、体を伏せる。
「さしもに飛行を羽も地に落ち」で、ふたたび飛び安座で、飛行から落下する「組落ちの型」。やがてナガシの囃子とともに橋掛りへ逃れ、欄干に足をかけて、悔しまぎれに僧に向かって数珠を投げ、そのままタタターッと幕のなかへ。
時間が押して巻き巻きでしたが密度の高い御舞台、堪能しました!
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