下掛宝生流 能の会~《月見座頭》からのつづき
能《紅葉狩・鬼揃》シテ観世銕之丞
ツレ観世淳夫 浦田保親 味方玄 谷本健吾 川口晃平ワキ宝生欣哉
大日方寛 館田善博 森常太郎 殿田謙吉
アイ山本則秀 山本則重
杉市和 曽和正博 國川純 観世元伯
後見 片山九郎右衛門
清水寛二 馬野正基
ワキ後見 則久英志
地謡 梅若玄祥 浅井文義 西村高夫 柴田稔
山崎正道 小田切康陽 角当直隆 大江信行
秋の夜気たちこめる月見座頭から一転、燃え立つ錦秋の奥山を舞台にした紅葉狩・鬼揃。
配役もゴージャスで、ツレ・囃子・地謡ともに東京では珍しい組み合わせ。
【前場】
冒頭の次第の囃子から秋の風が吹き寄せる。
大小鼓はもちろん杉市和さんの笛の音がことのほか美しく、舞台の空気が浄化されたように澄みわたってゆく。
そこへ総勢6名の美女軍団登場!
舞台がさながら百花繚乱の様相を呈するなか、プログラムとツレの方々を交互に見ながら、この美女はあの方で、あの美女はあの方? と想像するのも一興です。
勝手に推察するに、
脇座で床几に掛かったシテ・銕之丞師の隣から順に淳夫さん、浦田さん、味方さん、谷本さん、川口さん(プログラムの記載順)、
そして最初に欣哉さんとクセを舞ったペアが浦田さん(地謡側)と玄さん(脇正側)、裾クセから中ノ舞途中まで舞ったのが谷本さん(地謡側)と川口さん(脇正側)かな?
そうこうしているうちに、この日の主役・ワキ平維茂一行が一声の囃子で登場。
次第の囃子でシテ・シテツレが登場し、一声でワキ・ワキツレが登場する――この登場楽だけをみても《紅葉狩》ってワキがメインのような扱いになっているのだとあらためて感じます。
維茂の出立は、優雅な緑地の長絹に緑とゴールドの厚板、白大口、梨子打烏帽子。
紅葉の赤の補色を多用したスッキリとした貴公子姿。
馬上の維茂は「駒の足並み勇なり」で、深く膝を折ったのち爪先だって伸び上がる。
興奮して後ろ脚で立つ馬を表現したこの型は、ダヴィッドの描くナポレオン騎馬像を思わせます。
シテの上臈による維茂誘惑シーンを経て、いよいよ酒宴のはじまり!
(シテの面はたぶん増? 唐織はゴールド地で絢爛豪華。豊満な美女です。)
お酌ガールの淳夫さんが甲斐甲斐しく維茂に酒を注いで、なんとも可愛らしい。
その後、興に乗った維茂が舞い始めるのですが、これが意外な展開でした。
当ブログで何度も引用するセルリアンタワーのプレ公演では欣哉さん一人が舞う仕舞だったので実際の能ではどうなるか想像もつかなかったけれど、
なんと、美女二人を背後に従えて三人で舞うんですね。
ハーレム状態、酒池肉林感が際立って、面白い!
とはいえ、三人がずっと揃って舞うわけではなく、時おりワキだけが舞ったり、シテツレ二人が足拍子を踏んだりと、ヴァリエーションも豊富。
見所も興味津々で見入ってました。
二番目に舞ったペアでは、地謡側の谷本さんと思しき美女はこちらからは見えず、脇正側の川口さんらしき美女の舞を拝見。
扇をもつ手がいかにも梅若風のフワッとした優雅でやわらかな印象でした。
(と、書いたものの、まったく別人だったりして。)
中ノ舞の途中からシテにバトンタッチ。
身も心もとろけて維茂が寝入ったのを確認した上臈は、本性を現したかのように激しく急ノ舞を舞い、紅葉山の蔭に中入り。
【中入】
九郎右衛門さんの物着着付けを初めて拝見しました。
味方玄さんが九郎右衛門さんの後見をされている時も思ったけれど、
片山家一門の方は鬘を整える時など、
恋人を扱うようにさも大事そうにシテを扱うんですね。
いっぽう維茂は、武内ノ神に鬼女を退治するよう神剣を授けられる霊夢を見る。
【後場】
鬼女たちとの壮絶バトル。
強弱の効いた太鼓が闘いの場面を盛り上げる。
神剣に恐れをなして逃げ去る鬼女たちが小気味良いスピードで橋掛りを駆け抜けていく。
最後に残ったボス鬼女も維茂に成敗され、ガックリとうなだれたまま、意気揚々と凱旋する維茂のあとについてトボトボと幕入り。
登場から退場までカッコいい主役の座に君臨したワキの欣哉さんなのでした。
(今月下旬に安曇野で九郎右衛門さん×欣哉さんの《紅葉狩》があるのですが、この日の舞台とどれだけ違うのか観てみたい気がします。)
最後は、
《東岸居士》の「万法皆一如なる実相の門に入ろうよ」と追加が謡われ、宝生閑師に手向けられました。
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