2016年2月10日水曜日

旧雨の会 ~舞囃子《西行桜》《船弁慶》、半能《融・思立之出・舞返》

旧雨の会 ~プレトーク、一調、仕舞からのつづき

舞囃子《西行桜》 武田孝史
   一噌隆之 観世新九郎 亀井広忠 三島元太郎
   地謡 朝倉俊樹 金井雄資 藤井雅之 辰巳満次郎

舞囃子 《船弁慶》 粟谷明生
    一噌隆之 観世新九郎 亀井広忠 観世元伯
   地謡 長島茂 狩野了一 内田成信 佐藤陽

半能《融・思立之出、舞返》シテ観世銕之丞 
     ワキ森常好
     藤田次郎 大倉源次郎 佃良勝 金春國直
    後見 梅若長左衛門 清水寛二
      地謡 観世喜正 馬野正基 野村昌司 武田文志
          安藤貴康 武田祥照 観世淳夫 小早川泰輝



さらに休憩をはさんで舞囃子2番と半能。

この公演は流儀の異なる5人の太鼓方の競演でもあり、また同じ流儀でも打ち方やフォーム、芸風が微妙に違っていて十人十色。


舞囃子《西行桜》
武田孝史師にぴったりの曲。
360度、どの瞬間、どの角度から見ても弛みのまったくない、端正で品格のある舞。

空気が乾燥しているからか、小鼓が最初のほうでは調子がいまひとつでしたが、序の舞あたりからコクのある豊かな音色。
新九郎師の掛け声はなんともいえない色気があって好きなのです。

三島元太郎師は魔法使いが杖を振るような独特の撥さばき。
キザミのときも撥を下方に押し込んでいくように打つ。



舞囃子《船弁慶》
40代のアブラの乗った囃子方による早笛→舞働はノリノリ。
広忠さんの大鼓が炸裂していた。



半能《融・思立之出/舞返》

小書「思立之出」なので、「おもひ立つ、心ぞしるべ雲を分け~」を謡いながらワキが登場。
この下歌を謡ってから、ワキ詞「これは東国方より出でたる僧にて候」となり、上歌を経て、舞台に入り着きゼリフ。

「磯枕、苔の衣を片敷きて」の待謡のあと、出端の囃子に乗って後シテが登場する。

装束は立烏帽子に白の狩衣(or直衣?)に紋大口。
白装束なのは、もしかすると源融を國和師に見立てるという意味もあったのかも。


中将の面をかけた銕之丞師はどこから見ても繊細優美な細面の貴公子。
装束の着付けもとてもきれいで、細部まで行き届いている。


藤田次郎師の冴え冴えとした笛の音。
もともと上手い人だけれど、いままで聴いた中でいちばん純度の高い、澄んだ音色に聴こえた。

月の光のように神秘的な音色が響き渡ると、
荒涼とした邸宅跡にいにしえの華やかな情景がよみがえる。

曲水の宴の再現では、シテは広げた扇を床に投げて扇を取るのでなく、
正先ギリギリまで出て、舞台の外を曲水に見立て、盃をすくうように、開いた扇ですくう所作をする。


この型は以前にも、同じ銕之丞師のシテによる「酌之舞」の小書で拝見したことがあるが、相当難度が高いのではないだろうか。
(前場の汐汲みにも正先から出て汐を汲む型があるけれど、それよりも自ら屈んで汲み上げるこの型のほうが難しいと思う。)
印象深い、美しい型だった。

盃をすくったシテは、「受けたり受けたり遊舞の袖」で、笛のユリ掛りとともに達拝。
いよいよ早舞だ!


早舞クツロギって、たぶん舞の囃子のなかではベスト3に入るほど好きで、聴く者の感情の高ぶりを促進する効果がある。

緩急の付け方や盛り上げ方など随所に巧みな工夫が凝らされていて、
昔の人はこんなにかっこいい音楽をよく考えたものだと思う。
ジャズやロックの元祖。

特にこの日の小書「舞返」は特別ヴァージョンで、
わたしが「木魚の囃子」と呼んでいる大小太鼓のナガシに乗ってシテが橋掛りから舞台に戻り、太鼓がキザミに変わり、そこから急テンポに転じた急之舞が速いのなんのって!

今まで見たなかで最速の急之舞。

信じられないほどの速さのお囃子と、それに合わせるシテ。
凄い超絶技巧で、笛も大小鼓も太鼓もシテも、みんなよく見たいのに目が追いつかない。
目が5セット欲しいくらい。
銕之丞師もくるくる回って、袖を翻し、身体を沈みこませ、舞台をすごいスピードで縦横無尽に舞い狂う。早回しのような勢い。

早打ちで知られた國和師への最高のレクイエム。
これを國直さんが打っているのだから、きっと天国で喜んでいらっしゃることだろう。


あら名残惜しの面影や 名残惜しの面影


月の都に帰ってゆく源融の姿にこの日の主役の姿を重ね合わせて、観客はシテを見送り、國直さんの退場の時には満場から拍手が沸き起こった。



心に残るあたたかい舞台でした。





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