夜の部終了後のライトアップされた歌舞伎座 |
三、玩辞楼十二曲の内 廓文章(吉田屋)近松門左衛門原作
藤屋伊左衛門 鴈治郎吉田屋喜左衛門 歌六
阿波の大尽 寿猿
おきさ 吉弥
扇屋夕霧 玉三郎
竹本連中 常磐津連中
吉田屋も直侍も、花魁(遊女)の口説きの話。
2つ続けてみると、上方と江戸の美学・イケメン像の違いがよく分かって面白い。
お正月のテレビで見た時は、伊左衛門役は仁左衛門の優男のほうがよかったと思ったけれど、実際に見ると、鴈治郎の憎めないアホぼんぶりも可愛らしい。
さすが成駒家のお家芸。
やっぱりこの方、存在感というか、人を惹きつけるオーラがある。
それに手の表現がやさしく、繊細で、いかにも苦労知らずのぼんぼんといった風情。
ほわんとしていて、母性本能をくすぐるんやろね。
そして、なんといっても玉三郎の美しさ。
恋にやつれる傾城の凄みのある妖艶さをここまで出せる人って、この先いないだろうなー。
この美を支える身体能力は驚異的。
雪持ち梅があしらわれた重厚感のある討ち掛けに花魁鬘。
衣裳と鬘で何キロ?
これだけの重量を身につけたまま醸しだす、海老反りのしなやかさ、身体の線の柔和さ、動きの嫋やかさ。
奇跡の65歳!
いったい、どれほどの努力がこの奇跡を支えているのだろう。
忘れがたい艶姿だった。
四、雪暮夜入谷畦道(直侍)浄瑠璃「忍逢春雪解」黙阿弥作
片岡直次郎 染五郎三千歳 芝雀
暗闇の丑松 吉之助
寮番喜兵衛 錦吾
丈賀 東蔵
清本連中
江戸の粋と情緒を演劇化すれば、黙阿弥のこの作品になるのだろうか。
舞台は、武家制度が崩壊しつつあった幕末。
随所に、ほろびの美学がちりばめられている。
入谷の蕎麦屋で、火鉢にあたりながら、手酌で酒を飲み、蕎麦をすする直次郎。
蕎麦をまったく噛まずにすすっと呑み込むところが江戸っ子。
蕎麦の食べ方から酒の飲み方、キセルに火をつける手際の良さ、懐手にしたポーズなど、江戸の粋のお手本のよう。
染五郎の強烈な色気にたいして、芝雀の三千歳はちょっとパワー不足。
相思相愛の仲というよりも、男をうんざりさせるような重い女になっていた。
芝雀は素顔ではそうでもないけれど、白塗りのせいだろうか、顔がかなり大きく見せる。
英泉が描く猪首の婀娜っぽい美女風ともいえなくもないし、型や所作もどこといって悪いところはなく、たしかに直次郎を一途に思う健気な女性なのだけれど、何かいまひとつ物足りない。
とはいえ、静かに降る雪のなか、清元の他所事浄瑠璃「忍逢春雪解」をBGMにした二人の逢瀬の場面はしっとりとした情趣を感じさせ、全体的には好い舞台だった。
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